済 第69話 高橋の魔獣と仲良くなる方法
地球。
西暦2031年10月24日金曜。
ポルガンの誕生日迄後2ヶ月と24日。
精神と時の空間。
40日目。
時の間に居られる時間、後440日
翌朝――。
巨大なベッドの真ん中で、レオンと深雪に挟まれるように眠っていたパンダが、ゆっくりと目を覚ました。
「やっぱり、レオンと深雪の匂いは落ち着くにゃん。」
そう呟きながら、二人の頬へちゅっと軽くキスをする。
そしてベッドから降りようとした瞬間――。
ぐにっ。
「痛い!」
「あっ! ごめんにゃ、深雪!」
どうやら寝ぼけて深雪の足を踏んでしまったらしい。
「朝っぱらから何してんだよ……。」
深雪が顔をしかめる横で、パンダは舌を出して笑い、そのまま食堂へ向かった。
食堂には、まだ誰も居ない。
……と思ったら、一人だけ。
「高橋?」
高橋はテーブルの上に置かれた深雪の豹柄のスペアポシェットを開き、中から何やら取り出して魔道具になった風呂敷へ包んでいる。
「何してるにゃ?」
気付かれないように、そっと後をつけた。
高橋が向かった先は、法王庁の魔獣飼育施設だった。
鉄格子の向こうでは、十体の高橋より大きい魔獣が低く唸り声を上げている。
高橋は少しも怯えず、風呂敷を開いた。
「ほら。今日も持ってきたよ。」
コヌトコのマフィンを、一匹ずつ丁寧に差し出していく。
魔獣たちは嬉しそうに受け取り、夢中で食べ始めた。
その様子を見ていた飼育係が呆れ顔で言う。
「高橋さん。そんなことしても無駄ですよ。」
「所詮、言葉も通じない魔獣です。」
「それに今夜は、レオン様の実戦訓練で討伐される運命なんですよ。」
「毎朝毎朝、餌なんか与えて……。腹を空かせて凶暴化させないと訓練にならないでしょう。」
高橋は何も言わず、静かに笑った。
その時だった。
「高橋ー!」
ポルガンの従者、娘娘が駆け寄ってくる。
「そのマフィン、食べてもいい?」
「もちろん。好きなの食べな。」
娘娘は嬉しそうに受け取った。
高橋はさらに風呂敷を開く。
中には色とりどりのデパ地下のお菓子がぎっしり入っていた。
「今日は特別だからな。」
次々と魔獣へ配っていく。
その瞬間。
「あの野郎!」
物陰から深雪の声が響いた。
「俺のデパ地下スイーツコレクションじゃねぇか!」
隣ではパンダが目を丸くしている。
「深雪? 起きてたの?」
「お前が足踏んだからな!」
深雪はため息をついた。
「通りで最近、菓子の減りが早いと思ったら……。」
二人は物陰に隠れたまま様子を見守る。
「レオンは?」
「朝の鍛錬に行くってさ。」
その時だった。
一匹の魔獣が娘娘へ顔を近付けた。
深雪には、飛び掛かろうとしたように見えた。
「レオン!! 娘娘逃げろ!」
叫び声と同時に、遠くからレオンが魔法のヘアピンの力で現れた。
「雷魔法!」
ドォォォン!!
バリバリバリッ!!
轟音と共に稲妻が走り、三匹の魔獣は光となって消えた。
残る七匹も倒れ込み、苦しそうに息をしている。
「娘娘!」
レオンが駆け寄る。
しかし娘娘は首を振った。
「違う!」
瀕死の魔獣が震える舌を伸ばし、娘娘の頬を優しく舐めた。
まるで「大丈夫」と伝えるように。
娘娘は涙を浮かべた。
「この子、娘娘を食べようとしてたんじゃないよ!
撫でてくれようとしてたんだよ!
酷いよ……半分ゴブリン男!」
レオンは驚いた表情で立ち尽くす。
高橋も目に涙を浮かべていた。
「この子たち……。
『美味しい、美味しい』って言ってました。
『もう戦いたくない』って。
『ありがとう』って……。」
深雪が静かに高橋の肩へ手を置く。
「高橋……。」
そしてレオンを見る。
「頼む。」
「助けられる奴だけでも助けてやってくれ。」
パンダも姿を現した。
「お願いにゃ、レオン。」
レオンは静かにうなずく。
「治癒魔法。」
柔らかな白い光が七匹の魔獣を包み込んだ。
裂けた傷が塞がり、折れた骨が元へ戻り、苦しそうだった呼吸も落ち着いていく。
やがて七匹はゆっくりと立ち上がった。
高橋が微笑む。
「ありがとうって言ってます。」
その言葉に、その場の全員が静まり返った。
レオンが尋ねる。
「高橋……お前、獣の言葉が分かるのか?」
高橋は照れくさそうに頭をかいた。
「三角ディレクター。」
「俺、三日くらい前からだんだんに聞こえるようになったんです。」
「獣たちの声が。」
「コイツらの言葉がちょっとだけ分かるようになりました。」
「面白い才能が開花したにゃ。ポルガンに魔石を貰えばすごい戦力になりそうにゃ」
パンダは腕を組み、大きくうなずく。
「レオンの実戦訓練に、魔獣殺しは使うべきじゃないにゃ。」
「もっと別の方法を考えるにゃよ。」
そして、にっこり笑った。
「さて、朝ごはん食べたら東京へ買い出しに行くにゃ!
デパ地下のお菓子も補充しないといけないにゃん!」
深雪が額に手を当てる。
「今度は高橋に見つからない場所へ隠すからな……。」
その言葉に、一同の笑い声が法王庁の朝へ響き渡った。
お、俺のお菓子が!
深雪




