済 第68話 レオンと深雪の秘密の空間
「んっ……レオン、もっと優しく噛んで……」
深雪が甘い声を上げる。普段は低い声なのに、今は少し掠れて、甘く溶けそうな響きになっていた。
「ごめん、深雪。痛かったか」
レオンがすぐに歯を離し、深雪の首筋に残った淡い赤みを指で撫でる。深雪は小さく首を振り、彼の胸に額を押し当てた。
「大丈夫。もっと……キスして」
その言葉に、レオンの理性が少しだけ軋む。狭い秘密の空間の中で、二人は再び唇を重ねた。最初は優しく、互いの息を確かめるように。やがて深雪が自ら距離を詰め、レオンの服の襟を掴んで引き寄せる。
柔らかい唇が何度も触れ合い、離れるたびに短い吐息が混じる。
「ん……ふぅ……」
深雪の手がレオンの髪を梳く。レオンは彼の腰に腕を回し、抱き寄せたまま、もう一度深く口づけた。時間の感覚が曖昧になるほど、甘い時間が続く。
誰にも邪魔されないこの空間だけが、二人の世界だった。ハリセンの声も、ミカエラの気配も届かない。ただ、互いの体温と鼓動だけが近くにある。
深雪が小さく笑った。
「……レオン、もっと強くてもいいよ」
「……調子に乗るなよ」
そう言いながらも、レオンは深雪の唇を再び奪う。今度は少し強めに。深雪が喉の奥で甘い声を漏らし、レオンの背中に腕を回して抱きついてくる。狭い空間の中で、二人の身体が密着し、熱がじわじわと伝わってくる。
しばらくして、ようやく唇が離れた。
深雪が少し息を整えながら、名残惜しそうにレオンの唇を見つめる。
「……んー、もう終わりなの? レオン」
「もう終わりだ。さあ、証拠を隠すぞ」
レオンが少し息を整えながら言うと、深雪は明らかに不服そうな顔をした。それでも彼の言葉に従い、少し離れる。
レオンは手のひらに淡い光を灯し、癒しの魔法を深雪の首筋と鎖骨に当てる。自分の歯形と、キスのアザがゆっくりと消えていく。深雪もタンバリンをシャランと小さく鳴らし、レオンの首筋に残った自分の爪跡と唇の跡を丁寧に消した。服の乱れも、髪の乱れも、すべて整えられる。
「さあ、ミカエラ達にバレない内に部屋を消すぞ」
「待って」
深雪がレオンの首に腕を回し、最後にもう一度、軽く唇を重ねた。ほんの一瞬の、柔らかい感触。
「ほら、ふざけるなよ。出ろ、深雪」
「解ってるよー」
深雪がくすっと笑いながら、狭い空間から抜け出す。レオンも続いて外へ出て、すぐに空間を閉じた。
──そして、ばったりと出くわした。
ポルガンの従者、娘娘。フェイ太郎と育てられた、血の繋がらない妹。真っ白なフェレット、赤い目。今は7歳くらいの可愛らしいアルビノ女の子。元がフェレットなので嗅覚が異常に鋭い。
娘娘が鼻をひくひくさせ、レオンを見上げる。
「……居たみゃ。半分ゴブリン男!深雪の良い匂いがプンプンするみゃ。また秘密の場所で引っ付いてたのかみゃ?」
「言うなよ、娘娘」
深雪が小声で睨みつけると、娘娘は面白そうに尻尾を揺らした。
「鹿肉御膳で手を打つみゃ。ポルガン様が二人を捜してたみゃよ。24日ぶりにパンダ様が帰られたみゃ」
「パンダが? 行こう! 深雪!」
「待てってば! レオン!」
♢
パンダー!
レオンが駆け寄ると、そのまま軽々とパンダを抱き上げた。
「今度はしばらく、こっちに居られるのか?」
「レオン! 居られると思うにゃ。」
パンダは嬉しそうに笑いながらレオンの顔を見つめる。
「なんだか顔がスッキリしてるにゃね? 何時も深雪に引っ付いている、カメラの高橋はどうしたにゃ?」
「彼奴は最近、スライムとばかり仲良くしてるぜ。」
深雪が肩をすくめる。
「動物使いに目覚めたらしい。今は休憩中だ。自主的に神殿の落ち葉掃除を神官たちと一緒にやってる。」
「へぇー。高橋さんがにゃ」
レオンがパンダを地面へ降ろす。
「照明と音声は?」
「音声はカメラを回してる。ポルガン達やナルとリアを撮影中だ。」
深雪が指を差す。
「照明は一人で異世界をフラフラ撮ってるぜ。スマホで呼べば近くのゲートに戻ってくる。」
そして、深雪はにやりと笑った。
「そんな事よりさー。デパ地下のお菓子、そろそろ底をつくんだよ。補充して来てくれよー。序でに鈍器ホーテもー」
「解ったにゃ。」
その瞬間。
「ママー! お帰りー!」
ナルとリアが元気いっぱいに駆け寄ってきた。
「ただいまにゃー!」
パンダは二人をぎゅっと抱きしめる。
続いて、ポルガンと真央も息を切らしながら走ってきた。真央は紫色のロリータ服を着ている。
「パンダさん!」
「魔道具と魔石造り、進んでるかにゃ?」
ポルガンは満面の笑みで頷く。
「はい! ぜひパンダさんに見ていただきたいです。試作品もかなり揃いました。」
すると真央が目を輝かせる。
「そんな事より待ってたのよ! 橘に急いで連絡して! デパ地下のスイーツ買い倒れツアーに出発よ! 目指せ東京駅!」
「もぉ、真央さんの食いしん坊。」
ポルガンが苦笑する。
「深雪がデパ地下って騒ぎ始めてからは、魔道具そっちのけで、チャッピーにスマホでスイーツばかり質問してるんですよ。」
「言わないでよ、ポルガン君!」
真央は真っ赤になって抗議する。
パンダは笑いながら頷いた。
「じゃあ、橘と照明が来たらデパ地下巡りに行こうかにゃ。」
「やったー!」
真央とナルとリアが、飛び跳ねて喜ぶ。
「きっとママも行きたがるかも。でも修行の見張りがあるから無理ね。」
真央は少し考えてから、ふと二人を見比べた。
「そういえば、レオン様と深雪さん、最近は魅了し合わなくなったって、ママが褒めてたよ。何か秘策でもあるの?」
「えへへー。」
深雪が意味ありげに笑う。
「おい、深雪。」
レオンが肩を軽く小突く。
「余計な事は言うな。」
「はいはい。」
深雪は笑いながら両手を上げた。
その様子を見たパンダは首をかしげる。
「なんか怪しいにゃ……。」
レオンと深雪は顔を見合わせる。
「「気のせいだ。」」
息ぴったりの返事に、一同は思わず笑い声を上げるのだった。
憧れの東京駅にポルガン君と二人でお出掛け。
真央
私も居ます
橘
子供達とパンダも居るにゃ。
パンダ
鈍器ホーテも行って来てくれ
深雪




