済 第66話 パンダの魔力酔い
法王庁の地下ダンジョン入口。
黒い霧のように蠢くダークスライムたちが、今日も侵入者を待ち構えていた。
「それじゃあ、試してみるにゃ!」
パンダは、ハンド銃型のシャボン玉製造機を両手で構える。
引き金を引くと、無数の虹色のシャボン玉がブワッと舞い上がった。
陽の光を受けた無数の七色の泡は、まるで幻想的な舞台のように空中を漂う。
その光景に、周囲の僧侶たちは思わず息を呑んだ。
「きれい……。」
誰かが小さく呟く。
しかし、その美しさとは裏腹に、シャボン玉へ触れたダークスライムは次々と白い光へ変わり、音もなく消滅していった。
「す、凄い……。」
「あれほど苦戦していたダークスライムが……。」
僧侶たちが驚きの声を上げる。
数分後。
入口付近にいたダークスライムは一匹残らず浄化されていた。
法王の補佐を務める女僧侶が深々と頭を下げる。
「助かりました、パンダ様。」
「この銃、ポルガンに増やさせてみるにゃ。あなたも使ってみるにゃ。」
パンダはシャボン玉製造機を女僧侶へ手渡した。
その瞬間だった。
「……あれ?」
視界がぐらりと揺れる。
全身から一気に力が抜けた。
「にゃ……。」
そのままパンダは前へ倒れ込む。
「パンダ様!」
女僧侶が慌てて抱き留めた。
「パンダ様! しっかりなさってください!」
周囲の僧侶たちも駆け寄り、急いで法王庁の宿屋へ運び込んだ。
◇
西暦2031年10月23日木曜。
地球。
ポルガンの誕生日迄後2ヶ月と25日。
精神と時の空間。
25日目。
時の間に居られる時間、後456日
「……ん。」
柔らかなベッドの感触。
ゆっくり目を開けると、見慣れた宿屋の天井が見えた。
「起きられましたか、パンダ様。」
女僧侶が安心したように微笑み、パンダの額に乗せた冷たいタオルを新しい物へ取り替える。
「パンダ様は二日間眠っていらっしゃいました。急激に魔力を増やされた影響で、魔力酔いを起こされたようです。」
「二日も寝てたにゃ!?」
パンダは目を丸くした。
「レオン達の所じゃ十六日経ってるにゃ……。やっぱり精神と時の空間で休めば良かったかにゃ。」
起き上がろうとすると、女僧侶が優しく肩を押さえる。
「まだ起き上がってはいけません。状態異常は治療いたしましたが、無理をすると命に関わります。」
「それは困るにゃ。」
パンダは素直に枕へ頭を戻した。
「それより、シャボン玉の威力はどうだったにゃ?」
その質問に、女僧侶は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「大変仕事が捗るようになりました。」
「おお!」
「試してみたところ、シャボン玉を二分ほど魔力を込めながら照射すると、一層分を丸ごと浄化できました。」
「にゃ!?」
「さらに、あの一台だけで第四層まで浄化が完了しております。」
「凄いにゃ!」
パンダは思わずガッツポーズを作った。
すぐにペンダントへ手を当てる。
「ポルガン、聞こえるかにゃ?」
『ええ。聞こえます、パンダ様。』
穏やかな声が返ってきた。
『皆、とても心配しておりました。半月も連絡がありませんでしたので。』
「ごめんにゃ。ちょっと色々あったにゃ。それより、シャボン玉製造機の魔道具化、お願いできるかにゃ?」
『もう十一個完成しております。さらに増やしますか?』
「仕事が早いにゃ!」
思わず笑ってしまう。
すると女僧侶が横から答えた。
「十一個で十分かと思います。シャボン玉液を補充しながら繰り返し使えますので。」
「そうにゃね。」
パンダは頷いた。
「シャボン玉液はDASASOでも、他の100均でも売ってるにゃ。橘に頼んで100個くらい買い占めてもらうにゃ。」
『承知いたしました。』
ポルガンは続ける。
『皆、修行を頑張っております。レオン様と深雪様は先ほどレベル上げを終えられました。』
「本当に?」
『リア様もナル様も大きく成長されています。ユリウス様が大変喜んでおられました。』
パンダは思わず笑顔になる。
「頼もしいにゃ。」
少し考えてから答えた。
「今から魔王の所へ行って、梅子の様子を見てくるにゃ。あと半月もしないうちには帰れると思うにゃ。みんなによろしく伝えてほしいにゃ。」
『かしこまりました。』
通信が切れる。
部屋に静けさが戻った。
「宿屋でご飯食べたら、魔王の所へ行くにゃ。」
パンダは小さくため息をつく。
「またコンビニ飯かぁ。毎回だと、さすがに飽きるにゃね。」
四次元ポシェットへ手を入れる。
「あっ。」
嬉しそうに取り出したのは、生クリーム入りのこしあんぱんと蕩けるビーフシチューだった。
「疲れた時は甘い物に限るにゃ。女将さーん。ビーフシチュー魔法で温めてにゃ」
「勇者様、少々お待ちくださいね。」
宿の女将がビーフシチューのレトルトパウチを受け取る。
もう一つ取り出し、女僧侶へ差し出す。
「女僧侶さんも食べるにゃ?」
「よろしいのですか? こんな貴重な物を……。」
「もちろんにゃ。」
二人は並んであんぱんを頬張る。
「……とても美味しいです。」
女僧侶が幸せそうに微笑んだ。
パンダも満足そうに頷く。
「そうにゃね。」
「美味しいは正義にゃ。」
パンダにゃ
魔力酔いって怖いにゃ
天井がグルグル回って死ぬかと思ったにゃ




