済 第63話 フェイ太郎と桜子の一回目のお遣い
杉並区――三角深雪のマンション。
「たーいへーん!」
キッチンで冷蔵庫を開けたまきが、思わず声を上げた。
「もうすぐアマジョンから重い荷物が届くのに、牛乳が切れちゃった! 桜子の大好きなフルーチェ作ろうと思ってたのにー。」
リビングで遊んでいた桜子が首を傾げる。
「どーしたの? ママ?」
すると、ソファでゴロゴロしていたフェイ太郎が、七歳くらいの人間の姿に変身しながら立ち上がった。
栗色に日焼けした肌。
フェレットの耳と尻尾はそのまま。
目元にはパンダみたいなメイクが入っている。
「どうしたみゃ? まき?」
「うーん……やっぱりCOPUかオシヒックス契約した方がいいのかなぁ。でもアタシ、実物見て買い物するの好きなんだよなぁ。まさかこんなに早く牛乳がなくなっちゃうなんて。」
フェイ太郎は耳をぴくっと動かした。
「あー、オイラがマンゴーラッシー飲みまくったからみゃ。ごめんみゃ、まき。でもまたマンゴーラッシー飲みたくなってきたみゃ。」
頭をぽりぽり掻きながら笑う。
「オイラが桜子と買い物に行ってやろうか? お昼にまきが連れてってくれたスミットに行けばいいみゃろ? フードコートで食べたお寿司、美味しかったみゃー。」
まきは少し考えたあと、にっこり笑った。
「フェイ太郎ー。じゃあ、今夜は桜子もスミットのお弁当でいいよね。」
「やったー!」
桜子が飛び跳ねる。
「アタシのは、お店の人に『妊婦さんでも食べられるお弁当を一つください』って聞いて買ってきてね。スミットは歩いて五分くらいだから。」
「任せるみゃ!」
フェイ太郎は胸を張る。
「ちゃんと覚えるし、半分ゴブリン男のくれたスマホも持ってるから大丈夫みゃ!」
「任せてよ、ママー!」
桜子も元気よく返事をする。
「あ、このカート持ってって。」
買い物用のタイヤ付きバッグを差し出すまき。
「フェイ太郎、あんたって本当に役に立つ護衛なのね。今朝、人間の姿で玄関に飛んできた時はびっくりしたけど。」
「そうだ、お金は?」
「半分ゴブリン男がベイベイに百万円くらいチャージしてくれたみゃ。しばらく困らないみゃ!」
フェイ太郎はスマホを見せながら笑う。
「行くみゃー! 桜子!」
「はーい!」
フェイ太郎は片手でカートを引き、もう片方で桜子の小さな手を握る。
二人は仲良く玄関を出た。
◇
エレベーターに乗り、一階のボタンを押す。
「なーんてこーとーないさぁー♪」
「そーんなこーとーないさぁー♪」
桜子が『一回目のおつかい』の歌を楽しそうに歌う。
フェイ太郎も笑いながら一緒に口ずさむ。
マンションを出て一分。
「フェイ太郎ちゃん……疲れたぁ。」
桜子が足を止めた。
「仕方ないみゃ。」
フェイ太郎はしゃがみ込む。
「オイラがおんぶしてやるみゃ!」
「わーい!」
桜子は嬉しそうに背中へ飛び乗った。
「ありがとう、フェイ太郎ちゃん!スミットは左に曲がるんだよ!」
「了解だみゃ。軽いみゃー!」
そのまま五分ほど歩き、スミットへ到着した。
「着いたみゃ!」
店内に入ると、お昼にも対応してくれた店員さんが二人に気付いた。
「あらあら、桜子ちゃん。ママは?」
「留守番!あのねぇ。」
桜子は得意げに答える。
「従兄弟で護衛のフェイ太郎ちゃんと、一回目のおつかいに来たのー!」
フェイ太郎はぺこりと頭を下げた。
「オイラ、フェイ太郎って言います。まきちゃんと桜子ちゃんの護衛です。今は妊婦さんでも食べられるお弁当と牛乳を買ってくるように言われてます。綺麗なお姉さん、妊婦さんでも食べられるお弁当はどれですか?」
店員は思わず笑顔になった。
「あらー。しっかりしてるわねぇ。それに、お世辞まで上手。」
耳と尻尾を見ながら尋ねる。
「七歳くらいかしら?」
フェイ太郎は真顔で答えた。
「もうすぐ生後四か月になります。」
「……え?」
店員は固まった。
桜子はくすっと笑う。
「フェイ太郎ちゃん、フェレットなんだよ!」
「あ、そ、そうだったのね!」
店員も笑い出した。
「じゃあ、これとか、これとか、このお弁当なら妊婦さんでも安心よ。」
「このお弁当、ママ好きだと思う!」
桜子が指を差す。
「じゃあ、それにするみゃ!」
牛乳を三本。
まきのお弁当。
そして二人で仲良く選んだお弁当を一つ。
さらにテイカワの絵が描かれたお菓子も買う。
フェイ太郎はスマホを取り出し、ベイベイで支払いを済ませた。
「ありがとうございました!」
「また来てね。」
◇
帰り道。
「ママと一緒にお弁当食べたいなぁ。」
桜子が甘える。
「フェイ太郎、抱っこしてー。」
「抱っこより早い方法があるみゃ。」
フェイ太郎はにやっと笑った。
「じゃあ、すっ飛んで帰るみゃ!」
ふわっ。
風魔法が二人とまきの持たせた買い物カートを包み込む。
「わぁー!」
桜子が大喜びする。
二人は空へふわりと舞い上がった。
異世界との交流が始まってまだ一ヶ月半。
それでも、テレビで異世界人を見慣れ始めた街の人たちは、
「あ、異世界の子だ。」
「可愛いねぇ。」
と笑って手を振るだけだった。
数分後。
マンションのベランダでは、まきがスマホで電話をしながら待っていた。
「おかえりー!」
フェイ太郎がベランダへふわりと着地する。
「ただいまだみゃ!」
「ママー!」
桜子が飛びついた。
スマホの向こうから深雪の声が聞こえる。
『まき!買い物から帰ったのか? 二人とも無事か?』
「うん、無事よ。」
『良かった……。』
まきは苦笑した。
「ねぇ深雪。」
『ん?』
「今日はもう四回も電話してきてるわよ?」
『え?』
深雪は本気で驚く。
『俺、一日に一回しか電話してないぞ?』
まきは笑いながら頷いた。
「パンダが時差があるって言ってたものね。」
『そうそう。こっちじゃ今、まきと桜子連れて産婦人科行ってからもう四日目だぜ。』
「なら安心した。でもね?」
『うん?』
「地球だと三時間おきくらいに電話が鳴るから、夜中は勘弁してね。」
『……マジか。』
深雪は頭を抱えた。
『じゃあ明日から電話する時間、考えるよ。』
まきは優しく笑う。
「ありがとう。」
その横では早速、フェイ太郎が自分で牛乳で割った、マンゴーラッシーを飲みながら、桜子と今日買ってきたお菓子を嬉しそうに分け合っていた。
フェイ太郎だみゃ。
オイラ最近、人間に変身する事ができるようになったミャ。
深雪が修行する2ヶ月頑張って護衛するミャ




