済 第62話 修行だ!③
精神と時の間――休憩用宿舎一室。
コヌトコで買い込んだ荷物が入った段ボール箱を三人の使用人に持たせて、ユリウスとナル、リアが戻ってきた。
ナルとリアは、コヌトコ名物のバニラソフトクリームを一つ買い、二つのカップに分けて仲良く食べている。
部屋の隅では、iPadが宙に浮かび、外で修行を続けるレオンや深雪達の様子を映し出していた。
ユリウスは時折その画面を確認するものの、実戦訓練は魔王軍でも屈指の実力を持つ団長達に任せ、自分は二人の教育に集中することにした。
「それでは二人とも。ワシが用意した道具の使い方を教えるぞ。」
「うん!」
「わかったー!」
ナルとリアが元気よく返事をする。
「リアは五歳。ナルは三歳半。魔導書を読めるのは七歳を過ぎてからじゃ。どれほど魔力が強くても、今は無理をする時期ではない。」
「うん。」
リアは真面目に頷く。
一方ナルは、机の上に置かれた眼鏡を見つけると、早速手に取って遊び始めた。
「その眼鏡はコヌトコで選んだ子供用の眼鏡じゃ。視力を補助する道具らしい。モノクルより子供には使いやすいじゃろう。」
リアはソフトクリームを食べながら、きちんと話を聞いている。
ナルは眼鏡を掛けたり外したりして遊び始めた。
「わっ! ユリウス! 裸ー! チンコ、パパよりでけー!」
「……。」
ユリウスは一瞬だけ固まり、咳払いをした。
「そのレンズにはワシが魔力を注いでおいた。もう使えたのか、ナル。透視能力じゃな。」
「本当だ!」
リアも興味津々で眼鏡を掛けてみる。
「……あれ? リアには裸に見えないよ。ユリウス、すごい筋肉。」
「ふむ……。」
ユリウスは顎に手を当てた。
(やはりリアはまだ魔力操作がナルより下手かの。)
「まずは魔力の使い方を覚えるのが修行じゃ。しかし、お前達は既に寝ている間も二人で交代しながら、ポルガンが作った家族のネックレスを使いこなしておった。iPad越しにわしも前領主様も見ておったぞ。」
ナルは部屋中を歩き回りながら眼鏡で覗き込む。
「骸骨のユリウスとリアー! 全然面白くなーい!」
「真面目にやりなさい! ナル!」
リアが注意する。
「リアは筋肉のナルとユリウス先生しか見えないよ。」
「ナル……お前は凄いのう。」
ユリウスは段ボールを開けた。
「簡単な魔道具なら作れるかもしれん。ワシとお前達で、コヌトコから買ってきた物へ魔力を流して試してみよう。壊れても構わん。思い切りやってみるのじゃ。まずは真央様とポルガンが買ってきた、その白い袋に入ったDASASOの商品じゃ。」
「やってみるー!」
ナルはビニール袋を漁り、プラスチック製の玩具の剣を取り出した。
「カッコいい!」
勢いよく魔力を流し込む。
パチンッ!
乾いた音とともに、プラスチックの剣が破裂した。
「あー! 壊れちゃった! 魔力入れ過ぎかー!」
「リア、今度はお前じゃ。」
ユリウスはリアの眼鏡を受け取り、自らさらに魔力を注ぎ込んで返す。
「お前にはもう少し魔力の流れを感じ取ってほしい。」
「はい。ユリウス先生。」
リアは小さく頷き、別のプラスチックの剣を両手で持った。
目を閉じ、ゆっくりと魔力を流していく。
その瞬間――
玩具の剣が淡く金色に輝いた。
次の瞬間。
ゴォォォォッ――!!
刀身から黄金の光が炎のように吹き上がる。
部屋全体が金色の輝きに包まれた。
玩具とは思えないほど神々しい魔力が溢れ出し、空気まで震え始める。
「えっ……。」
リア自身が一番驚いていた。
壊れるどころか、プラスチックの剣は完全な魔道具へと変化していた。
「ナルー! こうやるんだよ!」
リアが軽く剣を振る。
ゴォォォッ!
黄金の魔力が軌跡を描き、部屋の壁まで照らした。
「すげぇー!」
ナルが目を輝かせる。
その時だった。
iPadから苦しそうな声が響く。
「痛い! 痛い痛い痛い! 本当に感電したみたいなんだよ!」
深雪だった。
リアの表情が一変する。
「パパと深雪……痛そう。」
ユリウスも画面を見る。
「おかしいのう。痛み止めの指輪を使っておるはずじゃ。」
画面の中では、レオンと踊り子達まで顔をしかめていた。
「俺も……かなり痛い。」
「もしかして……!」
ユリウスは立ち上がる。
「二人とも! DASASOの道具に魔力を注いで試しておるのじゃ! ワシはレオン達の所へ行ってくる!」
姿が一瞬で消える。
同時にiPadの映像には、現地へ転移したユリウスの姿が映し出された。
ナルはまた一本、玩具の剣を手に取る。
パチン!
「あー! また壊れたー!」
リアは笑いながら黄金に輝く剣を見せる。
「ナルー! 力を入れ過ぎなんだよ。」
画面の向こうでは、ユリウスがレオン達の前へ現れていた。
「どうした? 深雪、痛むのか?」
「痛い痛い痛い! 本当に痛いんだよ! 刀で斬られた所も、肌もズキズキするし!身体が熱い!」
半べそをかく深雪。
レオンは傷だらけの深雪をそっと支えながら言った。
「深雪の言ってることは本当だ。俺もかなり痛い。」
「私達もです。」
踊り子達も頷く。
「各自、何回目の蘇生じゃ?」
「俺は二十八回目。深雪は五十二回。踊り子達は七十回くらいだ。俺は二十回目辺りから痛みを感じ始めた。」
ユリウスはすぐに理解した。
「指輪の魔力切れじゃ! 団長、お主、気付かんかったのか?」
「申し訳ありません……。魔道具が魔力切れを起こすほど使った経験がありませんでした。」
団長は深く頭を下げた。
ユリウスは新しい指輪を取り出し、深雪へ差し出す。
「ほら、深雪。」
レオンが優しく深雪の指から魔力の切れかかった指輪を外し、新しい指輪を着けてやる。
「……痛くない!」
涙を拭った深雪が笑顔になる。
「ちょっとピリピリするくらいだ! レオンも早く!」
「レオン、お主はよく我慢したな。」
ユリウスが新しい指輪を差し出す。
レオンは引きつった笑みを浮かべながら受け取り、小さく息を吐いた。
「……深雪があれだけ痛がってるのに、俺だけ弱音は吐けないだろ。」
新しい指輪をはめた瞬間。
全身を焼くような激痛が、嘘のように消えていった。
「……助かった。」
その時、リアは黄金に輝く玩具の剣を、じっと見つめていた。
「ナル。これ、まだ光ってるよ。」
刀身からは、炎のような黄金の魔力が静かに揺らめいている。
ナルも隣へ駆け寄り、目を輝かせた。
「すげぇー! リア、もう一回振って!」
「うん!」
リアが玩具の剣を軽く振る。
ゴォォォッ!
黄金の光が大きな軌跡を描き、休憩室の天井近くまで吹き上がった。
「わぁー!」
二人は同時に歓声を上げる。
「魔法って面白いねー。」
リアが嬉しそうに笑った。
「ナルも作るー!」
ナルは新しいプラスチックの剣を握り締め、もう一度魔力を流し込む。
パチンッ!
「あー! また壊れたー!」
iPadの画面の中では、まだユリウスがレオン達の指輪を交換している。
誰もまだ気づいていなかった。
五歳のリアが、たった一度で玩具の剣を強力な魔道具へ変えてしまったことに。
ナルだよー
ユリウスはパパの会社の企業会員になって。
リア
コヌトコに入れたよー!




