済 第60話 天才パンダの宝物
精神と時の空間を出たミカエラ、真央、ポルガン、橘の四人は、ドコデモゲートを潜り、千葉にあるレオン邸宅へやって来た。
「この前の出口とは違うのね?」
真央はリビングを見回しながら、小さく微笑む。
「なんだか家族の強い想いを感じるわ。あったかい場所ね。」
橘が頷く。
「ええ。この前は茨城のレオン様の巨大倉庫へ繋ぎました。今回は千葉の邸宅です。ここはリビング。ご家族が毎日くつろぐ場所ですよ。照明さん、ここは撮影NGです。」
ミカエラが辺りを見回した。
「つまり、パンダちゃんの武器になる物のヒントがあるかもしれないわね。」
「ちょっと私、最近あまり魔道具の鑑定に自信がないのよ。ポルガン君ほど詳しくないし。」
「えー?」
真央が驚く。
「ママって魔界で一、二を争う鑑定士じゃなかったっけ?」
「レオンへ魔力を半分あげちゃったでしょう?」
ミカエラは苦笑する。
「真央よりはまだ魔力あるけど、昔ほど細かく見えなくなっちゃったのよ。」
するとポルガンが、小さな革製のポーチを開いた。
「それでしたら、このモノクルを使いますか?」
中から、銀色に輝くモノクルが五つ現れる。
「俺が作った魔道具です。魔力鑑定用ですよ。」
「さすがポルガン君!」
真央が満面の笑みになる。
「未来の私の旦那様!」
ポルガンは少し照れたように笑った。
橘が不思議そうに尋ねる。
「どうして今まで使わなかったんですか?」
「俺も真央様も、なんとなく魔力が分かりますから。」
ポルガンはモノクルを眺めた。
「それに、少し可愛らしくないでしょう?今度は真央様に似合うデザインへ改良する予定です。」
「橘さんも掛けてみますか?」
「え? 私ですか?」
橘は驚いた。
「私にも魔力なんてあるんでしょうか。」
「あると思いますよ。」
五人はモノクルを掛けた。
「わぁ……綺麗。」
真央が思わず声を漏らす。
部屋中に、色とりどりの光が漂っていた。
橘が感心したように言う。
「青い光はレオン様ですね。」
「緑がパンダ様。」
「ピンクがリアちゃん。」
「黄色がナル君でしょうか。」
「小さな色取り取りの光は使用人の物か、お客人の物でしょうか?」
「すごーい!」
真央が拍手した。
「橘やるじゃーん! 全部正解!」
ミカエラは緑色の光を追い始める。
「パンダちゃんの部屋はどこかしら?」
「この先みたいね。」
廊下へ出て階段を上がっていく。
「ちょっと!」
橘が慌てる。
「勝手に歩き回ったら怒られますって!照明さんは、リビングで待っててください。」
「言わなきゃ分からないってー。」
真央は笑う。
「パンダさんのお部屋、少し気になります。」
ポルガンも素直に頷いた。
「知的好奇心です。」
ミカエラは一つ目の扉の前で立ち止まる。
「多分ここね。」
「パンダちゃんとレオンの強い気を感じるわ。」
ドアを開ける。
「……。」
乱れた寝室。
四人は顔を見合わせた。
パタン。
何事もなかったようにドアを閉める。
「……気を取り直して。」
ミカエラが咳払いをした。
「こっちね。」
「そっちは青い光です!」
橘が慌てる。
「レオン様のお部屋ですよ!」
部屋へ入ると、大きなデスクには高性能なパソコンが三台並んでいた。
本棚には医学書がぎっしり。
さらにIT関連の専門書も大量に並んでいる。
「本当に医者なのね。」
ミカエラが感心する。
「それに、この本の量……。」
橘が説明する。
「レオン様はアメリカの全寮制学校を優秀な成績で卒業され、飛び級も経験されています。」
「医師になる前は、十六歳からシリコンバレーで医療AIやシステム開発に携わっていたそうです。」
「優秀な方なんですよ。」
しかし三人は既にウォーキングクローゼットを見ていた。お洒落な服や帽子が並んでいる。
橘だけが少し寂しそうである。
「……聞いてます?」
返事はなかった。
「じゃあ、この部屋。」
「それはナル様のお部屋ですね。」
部屋へ入ると、チェンバロが置かれていた。
テレビ。
パソコン。
iPad。
さらにゲームセンターと同じ『太鼓の達人』まで置かれている。
「三歳児に普通ここまでお金を掛けますか?」
橘が苦笑した。
棚にはトルコ製のモザイクランプが五つ並んでいる。
「これ、綺麗なんですよ。」
スイッチを入れる。
赤、青、緑、黄色、紫。
五色のランプが幻想的に光り始めた。
「うわぁ……。」
四人は思わず見入った。
ウォークインクローゼットを覗く。
「女の子の服も三着ありますね。」
橘が笑う。
「ナル君、リアちゃんの真似をするのが大好きなんですよ。」
「カムサイスムやポレのハルフローレンの服ですね。」
「冬でも半ズボンを履きたがるって、パンダ様が仰っていました。」
ベッドにはヌパイダーマン柄のコヌトコ製タオルケット。
「可愛い。」
一同が笑顔になる。
次の部屋。
「それはリアちゃんのお部屋ですね。」
橘が即座に言った。
「わざと間違えてませんか? ミカエラ様。」
「気のせいよ。」
ミカエラは平然としている。
部屋にはパソコン。
iPad。
大きなウォークインクローゼット。
中にはチャーリーテンプレや、メゾンピアノの洋服や靴下や帽子が綺麗に並んでいた。
「意外と物が少ないですね。」
ベッドにはリラッコマ柄のタオルケット。
「これもコヌトコでしょうね。」
続いて子ども部屋。
おもちゃが所狭しと並んでいる。
部屋の中央には、大きく組まれたプラレール。
新幹線や特急列車が何本も走れるようになっていた。
「これはリアちゃんのですね。」
橘が微笑む。
「リアちゃんは電車が大好きなんですね。」
棚には、りまちゃん人形、パーピー人形、メモちゃん人形が綺麗に並んでいる。
人形用の洋服も大量にあった。
「女の子なら大喜びですね。」
橘は人形を手に取る。
「でも、不思議ですね。」
「メモちゃんだけ、よく遊ばれた跡があります。」
「ナル君がメモちゃんで遊ぶのが大好きなんですね。」
「リアちゃんも時々遊びますが、一番遊んでいるのはナル君ですね。」
「ヴィンテージのパーピーまで遊ばせようとしていたんですね。」
「金銭感覚が少しバグっています。」
橘は苦笑した。
「……というか。」
「私達、パンダ様の魔道具を探していましたよね。」
「今度こそ、この部屋ですね。」
緑色の光が最も強く集まる部屋。
そこがパンダの部屋だった。
シルバニアファミリー。
アニメのフィギュア。
タッフィフレンズの縫いぐるみ達。
棚いっぱいの思い出。
ウォーキングクローゼットはスカスカで、パンダ柄の衣装が何着か掛けてあるのみだった。
「わぁ。可愛い」
真央が目を輝かせる。
その時。
ミカエラが手に取った一つの箱が、ひときわ強い緑色の光を放った。
「この箱……。」
ポルガンも驚く。
「部屋の中で一番強い魔力反応です。」
「開けてもいいのでしょうか。」
「うるさいわよ、橘。」
ミカエラは静かに箱を開いた。
中には、レオンから貰ったプラスチックの小さなイルカ。
色が変わる絵葉書。
写真。
小さなプレゼント。
「これは深雪さんから貰った絵葉書ね。」
「二十年近く大切にしてるのね。」
さらに奥から、比較的新しいおもちゃが現れた。
ポルガンが静かに微笑む。
「その玩具ですね。」
「レオンさんが初めてのデートで、パンダさんへ買ってくださった物です。」
「シャボン玉が自動で出る玩具ですね。」
「一度しか使っていません。」
ミカエラは優しくその玩具を撫でた。
「パンダちゃんの宝物……。」
「思いが強すぎるわ。」
「これは使えない。」
真央が尋ねる。
「同じ物、買えるかな?」
橘はスマートフォンで写真を撮った。
「簡単ですよ。」
画像検索を開く。
「ネズニーランドの屋台で販売されている商品ですね。」
「部下へ買ってくるよう指示します。」
「一ダースでよろしいですか?」
「スマホって、そんなことまで出来るんですね。」
ポルガンが感心する。
真央は笑顔になった。
「これならパンダちゃんの宝物は大事にしまっておけるね。」
ミカエラも頷く。
「ええ。」
「思い出は残して、新しい武器を作りましょう。」
橘はスマートフォンをしまった。
「それでは皆さん。」
「エオンモールへ向かいましょうか。」
四人はもう一度パンダの部屋を見回し、静かに扉を閉めた。
大切な宝物は、そこに残したまま――。
なに、ひとんち勝手に荒らし回ってんだよ!
レオンです。




