済 第61話 魔道具を買おう!
レオン邸を後にした一行は、駐車場へ向かった。
待っていたのは、黒く輝くレオンカンパニー所有のアルファードだった。
スライドドアが自動で開く。
「大きい車ね。」
ミカエラが感心する。
「自動運転です。」
橘が答えた。
「目的地を入力するだけで到着します。」
真央は楽しそうに車へ乗り込む。
「未来の馬車だ!」
ポルガンも静かに後部座席へ座る。
最後に照明担当がカメラを肩に担ぎながら乗り込んだ。
ドアが閉まり、アルファードは静かに走り始める。
橘がナビを操作しようとした、その時だった。
「あ……。」
指が止まる。
「どうしました?」
ポルガンが尋ねる。
橘は少し考えてから口を開いた。
「思ったのですが、レオン様のお宅を拝見した限り、比較的強い魔力を持つ品物は、高価な物が多く見受けられました。」
「百円ショップの商品も十分魔道具になりました。しかし、日本の職人が心を込めて作った品なら、更に優れた魔道具になる可能性があります。」
「予定を変更しましょう。」
「エオンモールではなく、そこう千葉店へ向かいます。」
ミカエラは頷いた。
「それは良い考えね。」
「今日は橘に任せるわ。」
「ブランド巡りだー!」
真央が喜ぶ。
「研究です。」
橘が即座に訂正した。
「今日は研究ですよ。」
「はーい。」
アルファードは静かに進路を変え、そこう千葉店へ向かった。
◇
約一時間後。
地下駐車場へ到着する。
「ここが百貨店……。」
ポルガンは店内へ一歩足を踏み入れるなりモノクルを掛けた。
「これは……。」
「凄いですね。」
「あちらこちらから魔力を感じます。」
ミカエラも片モノクルを掛ける。
「本当ね。」
「百円ショップとは比べ物にならないわ。」
照明担当は無言で撮影を続けていた。
橘は三人を見回す。
「いいですか。」
「今日は鑑定だけです。」
「絶対に魔力を使わないでください。」
「買い物だけですよ?」
三人は揃って頷く。
「はーい。」
橘は嫌な予感しかしなかった。
◇
最初に案内されたのは京扇子売り場だった。
金箔。
蒔絵。
螺鈿。
繊細な彫刻。
一本一本が芸術品だった。
「綺麗……。」
ミカエラは一本手に取る。
「百円の扇子とは全然違うわ。」
モノクルで見る。
「魔力も凄い……。」
「少しだけなら。」
ミカエラはほんの僅かに魔力を流した。
ゴォォォォォォッ!!
店内を暴風が駆け抜ける。
扇子。
箱。
展示品。
飾り棚の商品。
一斉に吹き飛んだ。
「きゃあああ!」
店員が悲鳴を上げる。
「ミカエラ様!」
橘が青ざめた。
「だから魔力を使わないでくださいって言ったじゃないですか!」
照明担当は夢中で撮影している。
「これは凄い……。」
橘は慌てて店員へ頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「レオンカンパニーが全て弁償いたします!」
ミカエラは床へ落ちた扇子を拾い上げる。
「気に入ったわ。」
「この扇子、三十本ください。」
店員は苦笑いした。
「ありがとうございます。」
橘は頭を抱える。
「ありがとうございますじゃないんですよ……。」
◇
バッグ売り場。
ポルガンは大きなブランドバッグを手に取った。
片眼鏡で鑑定する。
「……やはり。」
「どうしたの?」
真央が尋ねる。
「このバッグ。」
「魔力を少し流すだけで、四次元収納の媒体になりそうです。」
「本当?」
「完全な四次元ポシェットほどではありませんが、大容量収納の魔道具なら作れそうです。」
ポルガンは店員を見る。
「この一番大きなバッグをください。」
「研究用ですか?値段からして、馬車一台くらい入りそうですね。」
橘が笑う。
「異世界の物流が変わるかもしれません。俺の一番小さな別邸くらいならなんとか、入ると思います。」
店員は愛想笑いを浮かべた。
「……大きなお屋敷なんですね。」
ポルガンは静かに頷く。
「はい?それ程でも。一番小さな別邸ですので。」
橘は静かに天井を見上げた。
◇
続いて美しい風呂敷売り場。
「これは面白いですね。」
ポルガンが広げる。
「布そのものが空間魔法と相性抜群です。」
「包むだけで収納魔法を付与できる可能性があります。」
真央は目を輝かせた。
「風呂敷まで魔道具になるんだ!」
「沢山買いましょう。」
ミカエラも頷いた。
◇
宝石。
腕時計。
漆器。
包丁。
茶碗。
箸。
陶器。
職人が作った品々を片っ端から鑑定する。
「これは魔力が強い。」
「これも。」
「こちらもですね。」
照明担当は夢中で撮影していた。
◇
買い物を終え、一行はレストラン街へ向かった。
「今日は和食にしましょう。」
橘が案内した店では、寿司、天ぷら、刺身、うどん、蕎麦、ローストビーフ、茶碗蒸し、デザートが並ぶ。
「いただきます。」
ミカエラは天ぷらを口に運ぶ。
「美味しい……。」
「衣まで魔力を感じるわ。」
真央は寿司を頬張る。
「幸せー!」
ポルガンは茶碗蒸しを食べて目を丸くした。
「この滑らかさ……。」
「異世界でも再現したいですね。」
橘は微笑む。
「日本は料理人も職人ですから。」
照明担当は食事風景もしっかり撮影していた。
◇
最後に会計。
店員が伝票を見る。
「本日のお会計ですが……。」
「合計、七千五百万円になります。」
橘は固まった。
「…………。」
「レオン様に怒られるーーっ!」
真央は笑いながら言う。
「吹き飛んだ商品も全部買ったからね!」
ミカエラは満足そうに頷く。
「京都の名品も沢山手に入ったわ。」
「魔道具として役立ちそうね。」
ポルガンも大きく頷く。
「今日だけで研究は大成功です。」
橘はレシートを見つめながら肩を落とした。
「お願いですから……。」
「次の買い物では、誰も魔力を使わないでください……。」
その言葉に三人は顔を見合わせる。
「善処します。」
橘は天井を見上げた。
(それ、一番信用できない返事なんですよ……。)
照明担当のカメラは、その瞬間までしっかり撮影していた。
◇
帰り際、そごうの店内を歩いていると、真央がふと足を止めた。
「わぁ!」
その視線の先には、買い物を楽しむ一人の女の子。
白いフリルのブラウスに、レースをあしらったふんわりとしたスカート。リボンの付いたヘッドドレスまで身につけた、まるでお人形のような可愛らしい服装だった。
「ポルガン君! 見て見て! あの娘の服、すっごく可愛い!それに魔力もかなり高いよー」
真央は目を輝かせる。
ポルガンも振り返り、感心したように頷いた。
「本当に美しい衣装ですね。」
ミカエラも興味深そうに見つめる。
「細かい刺繍まで丁寧ね。職人の技術も高そうだわ。」
橘はスマートフォンを取り出し、少し調べてから答えた。
「あれはロリータファッションですね。残念ながら、千葉には専門店がほとんどありません。有名なお店なら、原宿に何軒も集まっていますよ。」
「原宿!」
真央の瞳がさらに輝く。
「行ってみたい!」
橘は時計を確認した。
「現在二時前です。これから向かえば、三時頃には到着するでしょう。数軒でしたら、今日中に十分見て回れます」
「じゃあ、今から行こう!」
「もちろんよ!」
ミカエラも目を輝かせる。
ポルガンは微笑みながら橘を見る。
「では、原宿まで案内していただけますか」
「分かりました。ただし、今度こそ魔力は使わないでくださいね」
「善処します」
三人の返事を聞き、橘と照明のカメラマンは小さくため息をついた。
◇
原宿。
ロリータファッション売り場。
真央が突然叫ぶ。
「ママー!」
「これ着て!私はこっちのにする!」
「えっ?」
数分後。
フリルたっぷりのロリータ服とヘッドドレスを纏ったミカエラと真央が試着室から現れた。
「どう……かしら?」
ミカエラ。
真央が拍手した。
「ママ、可愛いー!」
ポルガンは目を潤ませる。
「……。」
「ポルガン君?」
「二人ともとても似合っています……。」
真央が笑う。
「ほら!」
「魔力が漲るでしょ!お買い上げね!」
「このパラソルも買いましょう。魔王真央。」
「いや、それは関係ないと思います。」
橘が苦笑した。
パンダにゃ!
そこう千葉店と原宿なら、パンダも行きたかったにゃー!
狡いにゃ狡いにゃー!
パンダはジジイ3人とつまらないSkype会議だったにゃ!
ぷんぷん。




