済 第59話 天才パンダの宗教革命
地球。
西暦2031年10月21日水曜。
ポルガンの誕生日迄後2ヶ月26日。
精神と時の間。
9日目。
時の間に居られる時間、後471日
精神と時の空間を出たパンダは、そのままドコデモゲートを潜り、東京にあるレオンのタワマンの最上階に居た。
「ふぅー。少し頭を整理するにゃ。」
リビングのソファへ寝転び、スマートフォンを取り出す。
画面を軽く叩くと、聞き慣れた低く落ち着いた声が流れた。
「どのようなご用件でしょうか。」
イケボのAIチャッピーだった。
「異世界の主要な宗教を教えてにゃ。」
少し間を置いて、チャッピーが答える。
「異世界の情報へアクセスするには、顔認証とパスワードが必要です。」
「了解にゃ。」
スマートフォンへ顔を向ける。
「顔認証を開始します。」
数秒後。
「顔認証が許可されました。」
「パスワードを入力してください。」
「miyuki_love_leon。」
「確認が取れました。天才パンダ様ですね。」
画面に一枚の世界地図が表示される。
「現在、この世界で確認されている主要な宗教は三つです。」
一つ目の紋章が表示された。
精霊信仰(エルディア信仰)
泉。
森。
太陽。
風。
大地。
自然そのものへ感謝を捧げる最古の宗教。
地球で例えるなら、日本の神社信仰や八百万の神、ヒンドゥー教の思想に近い性質があります。
美しい森や泉、人々が祈りを捧げるアニメーションが流れる。
続いて二つ目。
ルーメン教。
法王庁を中心とした宗教です。
慈愛と赦しを重んじます。
歴史上、何度も暗黒宗教と呼ばれているノクス教と対立しています。
教会や法王庁の様子が映し出される。
そして最後。
ノクス教。
魔王領を中心に広まった宗教です。
勇気。
力。
生き抜くこと。
犠牲。
これらを尊ぶ宗教ですが、歴史上、ルーメン教との争いを繰り返してきました。
魔王城や古代遺跡の映像が流れる。
パンダは腕を組んだ。
「ふむ……。」
チャッピーが続ける。
「なお、ルーメン教とノクス教は、歴史を遡ると同一宗教から分かれたと考えられています。」
「地球で言えば、キリスト教とイスラム教の関係に少し似ています。ただし完全に同じではありません。」
「双方の歴史資料では、互いを悪として記録しています。」
「ふむ。」
パンダは静かに頷く。
「そのデータの信用度は?」
「アルメリア図書館、図書データは収集率八十パーセント。」
「法王庁図書館、約七〇パーセント。」
「暗黒図書館、約七〇パーセント。」
「統計的には十分な量を確保しています。」
「なるほどにゃ。」
パンダは満足そうに微笑んだ。
「やっとにゃ……。レオンがデジタル化の許可貰ってから役二週間。かなりの数の精霊にスキャンさせてたもんなぁ。大変な作業だったにゃ。」
「レオン様のお導きにより、効率的に進捗しております。」
「よくやったにゃ、チャッピー。」
「粗取りは終わってるにゃね。」
「はい。天才パンダ様のおっしゃる通りです。」
「じゃあお願いにゃ。」
「この三つの宗教を、それぞれ十五分くらいのアニメーションにまとめてくれるかにゃ?」
「可能です。」
「製作に少々お時間をいただきます。」
「構わないにゃ。」
パンダは立ち上がる。
「その間に、お風呂へ入ってくるにゃ。」
◇
一時間後。
精神と時の空間。
Skypeの画面へ三人の姿が映し出された。
法王。
魔王。
そしてアルメリア領前領主。
「今日は、みんなに見てもらいたい物があるにゃ。」
パンダが画面を操作する。
最初に流れたのは、精霊信仰の歴史だった。
森。
泉。
太陽。
風。
自然へ感謝を捧げながら暮らす人々。
続いてルーメン教。
そしてノクス教。
同じ始祖から枝分かれし、争いを繰り返す歴史。
三十分ほど経ち、映像が終わった。
しばらく誰も口を開かなかった。
最初に口を開いたのは魔王だった。
「……我々の宗教も、同じなのかもしれぬな。」
法王も静かに頷く。
「互いに正義を名乗り、相手を悪としてきました。」
「では……。」
法王がパンダを見る。
「我々は、誰と戦えば良いのでしょう。」
パンダは静かに答えた。
「テーウス。」
「可哀想なプロメテーウスにゃ。」
「三千年間、世界中の呪いや憎しみを押し付けられ続けた存在にゃ。」
画面が切り替わる。
黒い瘴気に包まれ、一人で立ち尽くす巨大な存在。
「魔王側では、願いを叶えてくださいと祈る。」
「法王側では、我々の罪を赦してくださいと祈る。」
「でも、それは全部、一人に押し付けているだけなんだにゃ。」
静かな空気が流れる。
「日本には神社という考え方があるにゃ。」
「八百万の神。」
「自然にも、山にも、川にも、動物にも感謝する。」
「一人に責任を押し付ける考え方ではないにゃ。」
アルメリア領前領主が口を開く。
「勇者、天才パンダ様。」
「あなたは、我が子ポルガンを新たなプロメテーウスにするため、この世界へ遣わされたのではありませんか。」
「違うにゃ。」
パンダは即答した。
法王が尋ねる。
「では……魔王様に背負わせるのですか。」
「違うにゃ。」
魔王も静かに首を振る。
「では……。」
パンダは三人を真っ直ぐ見つめた。
「誰か一人が世界中の罪を背負うなんて、絶対にやっちゃ駄目なんだにゃ。」
「罪は、自分で償うもの。」
「償いきれないほどの罪を犯すこと自体が、烏滸がましいことなんだにゃ。」
「すべての生き物は、それぞれ自分の罪を背負う。」
「誰か一人へ押し付けちゃ駄目なんだにゃ。」
画面の向こうで三人が静かに頷いた。
「だから。」
パンダは続ける。
「だから、まず黒魔法秘術《呪いの収集》そのものを消す必要があるんだにゃ。」
「その役目を果たせるのは、レオンの白魔法秘術だけなんだにゃ。」
沈黙。
そして法王がゆっくりと立ち上がった。
胸へ手を当て、深く頭を垂れる。
「勇者、天才パンダ様。」
「お導きに感謝いたします。」
魔王も頭を下げる。
アルメリア領前領主も続いた。
パンダは少し照れくさそうに笑う。
「感謝するなら、これから出会う人にも、動物にも、自然にも感謝するにゃ。」
「世界は、一人で支えるものじゃない。」
「みんなで支えるものなんだにゃ。」
その言葉に、三人はもう一度静かに頭を下げた。
異世界を変える革命は。
剣ではなく、一人の勇者・天才パンダの言葉から始まろうとしていた。
パンダにゃ!
どーだ!どーだ!
パンダは天才にゃろー




