済 第42話 呪いの増幅
「爺! 父上は見つかったか?」
城へ戻るなり、ポルガンが叫んだ。
「はい! あまりにも禍々しい魔力でしたので、すぐに居場所は判明いたしました。しかし現在、城の魔法使い十名が総出で押さえ込んでおります!」
「なんだと!?」
「ここ数日、先王様の魔力は日に日に増しておりました。まさか隔離部屋を破壊するほどとは……。魔法使いたちも限界が近づいております。」
老執事は苦しそうに頭を下げた。
「実は……ポルガン様にはご報告しておりませんでしたが、ニ十日前にも先王様のお抱えモンク僧侶が、隔離部屋から逃げ出しておりました。」
「何故、俺に言わなかった!」
「幸い鍵を壊しただけで済み、先王様は部屋で眠っておられました。モンク僧侶様は城下を彷徨っていたところを兵士が保護しております。」
執事は静かに続けた。
「白魔法の結界も、もう限界なのでしょう。モンク僧侶様ご自身も命が尽きようとしております。……もって、あと十日ほどかと。」
ポルガンは目を閉じた。
「そうか……。祖父の代から父上を守り続けてくれた人だったな。」
「はい。」
「最後の願いは?」
「コンビニのお握りが食べたいと仰っております。」
「好きなだけ食べさせてやれ。父上の分もな。」
「かしこまりました。」
執事が静かに退室すると、玉座の間には重苦しい沈黙だけが残った。
ポルガンは玉座へ腰を下ろし、両手で顔を覆った。
その時だった。
「ポルガン!」
聞き慣れた声が響く。
深雪がテレビクルーを連れて駆け込んできた。
「どうしたんだ? 血相変えて。」
「コヌトコの撮影はいいのか?」
「ああ、大丈夫だ。」
深雪は肩をすくめる。
「さすがに異世界のコヌトコでも、オープンの話ばっかり毎日流してたら視聴者から苦情が来るって。」
テレビクルーが苦笑する。
「明日からは異世界の面白い場所を撮ろうと思ってさ。おすすめの観光地とか、撮影許可をもらおうと思って来たんだ。」
「構わぬ。好きに撮れ。」
そう答えたポルガンの顔色は明らかに悪かった。
深雪は表情を変える。
「……それより、お前の父親って死んだんじゃなかったのか?」
振り返る。
「おい、カメラ止めろ! 音声も切れ! 少し離れて待機!」
「了解です! 三角ディレクター!」
スタッフたちは素直に離れていった。
深雪は小さく息を吐く。
「悪いな。」
「構わない。」
ポルガンは静かに微笑んだ。
「俺の国民は皆、知っている話だ。」
「そうなのか?」
ポルガンは自分の右目に触れた。
「俺の目だ。」
深雪はその瞳を見る。
金色と青。
宝石のように美しいヘテロクロミアだった。
「綺麗な目だよな。パンダから送られた写真で見た時は驚いた。」
深雪は素直に言った。
「宝石みたいだ。」
ポルガンは少しだけ笑った。
「そう言ってくれた者は、俺が生まれた時には一人も居なかった。」
「え?」
「この国では昔から言い伝えがある。」
ポルガンは遠くを見るように語り始めた。
「色違いの目は”親殺しの目、呪われた目”だと。」
深雪の顔が固まる。
「父は、生まれたばかりの俺を見るなり剣を抜いた。」
「……。」
「俺を殺そうとした父を、母が庇った。」
ポルガンは静かに言った。
「父の剣は……母の胸を貫いた。」
深雪の喉が鳴る。
「そんな……。」
「母の血を浴びた父は正気に戻った。」
静かな声だった。
「そして白魔法のモンク僧侶――父の宰相だった男が告げた。」
『奥様の命と引き換えに、呪いは二十年間だけ封じられました。』
『ですが王子が二十歳を迎えた時、再び呪いは目覚めます。』
『助かる道は一つだけ。黒い薔薇の呪いを断ち切ること。』
『そのためには魔王を討つしかありません。』
深雪は首を振った。
「そんな……。」
「魔王はいい奴だ。」
ポルガンは苦笑した。
「だから俺は苦しかった。」
「……。」
「勇者一家と手を組んだのも、国を守るためだった。」
「……。」
「パンダには最初から魔王を殺す気なんて無かった。」
ポルガンは自嘲気味に笑う。
「だから俺は諦めた。」
「俺は三か月後の誕生日の前日に、俺自身の命を絶てばいいと思っている。」
深雪の目から涙が溢れた。
「そんな……ひでぇよ。」
言葉にならない。
震える手でポルガンを抱き締めた。
「なんだよ、その話……。」
鼻をすすりながら言う。
「お前が可哀想すぎるじゃねぇか……。」
ポルガンは目を閉じた。
「俺には幸い腹違いの弟が居る。王家の血は途絶えない。」
「馬鹿野郎!」
深雪が叫ぶ。
「そんな悲しいこと言うな!」
涙を拭きながらポルガンの肩を掴む。
「パンダに相談しよう!」
「アイツ、腹立つくらい頭いいだろ!」
「顔も良いけど!」
思わず付け足す。
「きっと何か思いつく!」
「それに法王様だって、お前を気に入ってる!」
「悲劇のイケメン王様を助けるなんて、俺の国じゃ大スクープなんだぞ!」
ポルガンは少しだけ笑った。
「ありがとう、深雪。」
だが、その笑顔は儚かった。
「……間に合わないかもしれない。」
「母上の守護が、もう解けかけている。」
深雪はすぐに振り返った。
「ポルガンの爺や!」
「はい!」
「法王様へ連絡!」
「俺とポルガンはパンダの所へ行く!」
「急げ!」
しかしポルガンは首を振る。
「その必要はない。」
「え?」
ポルガンは空を見上げた。
「パンダ。」
「聞こえるか?」
『うん! 構わないにゃ!』
元気な声が頭の中へ響く。
『みんなは、ポルガンの兵士さん達に半日観光連れてってもらう話になったにゃ!』
深雪は目を丸くした。
「便利だな!」
「会話までできるのか!?」
「スマホじゃねぇか!」
ポルガンは笑う。
「深雪。」
「俺に抱き付け。」
「絶対に離れるな。」
「きっと驚くぞ。」
「……は?」
「いいから。」
「早く!」
深雪は慌ててポルガンにしがみつく。
ポルガンは離れた所にいる、テレビクルーへ手を振った。
「少し、お前たちのボスを借りるぞ!」
スタッフたちは焼き菓子を食べながら心配そうに手を振った。
次の瞬間――。
ポワン。
白い煙が二人を包み込む。
景色が揺らぎ、城が消える。
そして。
アルメリア領泉の広場。
「深雪! 久しぶりにゃ!」
満面の笑みで手を振るパンダが立っていた。
「パンダ!?」
深雪は辺りを見回す。
「瞬間移動か!?」
「一日に一回だけだけどにゃ。」
ポルガンが肩をすくめる。
深雪はぽかんと口を開けた。
「……この世界便利すぎるだろ。」
レオンです!
次回!俺が出ます!
経った連載五日で、十万文字突破する勢いです。
一体、なろうって。どれくらい書いたらいいんだろ?
これじゃあ、またスマホ勢がついてこられなくなるよね?




