済 第40話 赤城建設と橘CEOと世界のコマチ
地球
西暦2031年10月10日金曜。
東京、某高級料亭の一室。
「ところでパンダ。」
料亭の個室で座布団に腰を下ろしたポルガンが、お茶を口にして尋ねた。
「俺達はレオンとパンダに随分お金を払っているけど、その大金は何に使っているんだ? 爺に聞いたら、異世界と日本の全ての取引や事業に五%のマージンを取っているそうじゃないか。」
パンダは苦笑いした。
「うーん。それを説明するために、今日は東京の土木建設会社の人達と、コマチ重工の会長、それからウチのCEOになる予定の人を呼んだにゃ。」
「CEO?」
「そうにゃ。これから造るエオンモールなんて、小さな街を一つ造るような規模なんだにゃ。お金の管理も、人の管理も、専門家が必要になってくるんだにゃ。」
パンダは真面目な表情になった。
「そうだ、ポルガン。前にも聞いたけど、土地は本当に大丈夫かにゃ? そこには動物や虫達も住んでいるにゃよ。」
ポルガンは力強く頷いた。
「心配はいらない。俺の領地には広い海もある。パンダがiPadで見せてくれた無人島も開発してくれるんだろう?」
「もちろんにゃ。」
「動物達や虫達は俺が責任を持って安全な場所へ移動するよう説得する。領主として、それくらいは当然だ。」
「頼りになるにゃー。」
その時だった。
コンコン。
「失礼いたします。橘様、赤城様ご夫妻、コマチ重工・小町剛三会長がお見えになりました。」
「入ってにゃ!」
襖が開く。
「パンダさーん!」
最初に入ってきたのは赤城夫妻だった。
「律子さん、ご懐妊おめでとうにゃー! つわりは大丈夫?」
律子は優しく微笑んだ。
「ありがとう。安定期に入ったみたいで、だいぶ落ち着いたわ。でも生ものとカフェインは、まだ控えてるの。」
「ちゃんと電話で聞いておいたにゃ。律子さんだけ特別メニューをお願いしてあるにゃよ。」
「ありがとう。本当に助かるわ。」
その隣で赤城が元気よく頭を下げる。
「パンダ先生! お久しぶりです!」
「赤城ー!」
「律子さん、最近までつわりが続いてたんですよ。心配で心配で、俺なんか三キロ痩せました!」
「律子さんは?」
「食べつわりだったので二キロ増えました!」
「もう、あなたったら!」
律子が赤城の腕を軽く叩く。
パンダは自分の左隣の座布団をパンパンと叩いた。
「律子さん、ここにゃ。段差気をつけるにゃ。」
赤城はすぐに妻へ手を差し伸べた。
「ゆっくり座って。」
その様子を見たパンダは笑った。
「赤城ー。お前が建設会社の御曹司だったなんて知らなかったにゃ。やっぱり持つべきものは人脈にゃね。」
「俺もまさか異世界で街づくりするなんて思いませんでしたよ。」
続いてスーツ姿の橘が頭を下げた。
「パンダさん、お久しぶりです。」
「橘! よくぞレオンカンパニーのCEOを引き受けてくれたにゃ! ありがとうにゃ!」
橘は苦笑した。
「総理からの直々のお願いですからね。それに後釜の政治家達の教育も順調です。今は私が口を挟む場面も少なくなりました。」
「嘘つけ!」
赤城が笑う。
「お前、防衛大臣の席を蹴ってきたんだろ!」
「赤城先生、それは内緒にしてください。赤城先生だって」
「俺は二世議員だから気楽なもんですよ。しかも次男だし。あわあわしてるのは親父だけかも」
赤城は嬉しそうに続ける。
「それに親父なんか、孫ができるって聞いて大喜びですよ。家を建ててやるって張り切ってます。」
「景気の良い話ですな。」
最後に入ってきた恰幅の良い男性が豪快に笑った。
「コマチ重工会長、小町剛三です。」
「会長さん、ようこそにゃー!」
パンダは立ち上がって握手する。
「重機をたくさん買っていただき、本当にありがとうございます。」
「こちらこそ助かってるにゃ。何台頼んでも足りないくらいにゃ。作業員も赤城に頼んで送ってもらってるにゃ。」
パンダは右隣に座る青年を紹介した。
「それと、このパンダの右に座ってるのがポルガン。」
ポルガンが立ち上がる。
「異世界、アルメリア公領の領主です。」
「アルメリア公領?」
「千葉県と茨城県を合わせたくらいの広さがある都市国家です。」
一同は思わず息を呑んだ。
「現在、その領地にエオンモールを建設する許可を持っている人物にゃ。」
ポルガンは順番に握手を交わした。
「よろしくお願いします。」
コマチ会長は感心したように言う。
「お若いですね。」
「もうすぐ二十歳になります。」
「領主はいつから?」
「十三歳からです。」
「それは立派だ。」
橘も驚いた。
「日本語もお上手ですね。」
ポルガンは笑顔で答える。
「パンダから頂いた翻訳グミキャンディのお陰です。一粒食べるだけで、世界中の言葉が理解できるようになりました。古文書の解読もできるようになったので、本当に助かっています。」
橘が興味津々で身を乗り出す。
「パンダさん。そのグミ、効き目はどれくらい続くんですか?」
「未来の道具らしくてにゃ。一粒十万円。パッケージには『∞』って書いてあったにゃ。食事の後でみんなにも配るにゃ」
「永久ですか……。」
「ただし、未来の道具だから使用制限があるにゃ。一年間で五百人までしか配れないにゃ。」
「そんな貴重な物を頂いて良いんですか?」
「赤城議員には奥さんの分と作業員さん達の分も必要になりそうにゃ。正直、この先数が足りるか不安にゃ。」
その時、橘が静かに口を開いた。
「なら、日本で翻訳機作りましょう。」
全員の視線が橘へ集まる。
「翻訳企業へ投資して、異世界語も自動翻訳機にデータとして入れて貰うんです。」
赤城も頷く。
「確かに。」
橘は笑った。
「異世界の道具に頼り続ける必要はありません。令和の日本人の技術を異世界の神々に見せつけましょう。」
「良い考えだにゃ!」
パンダが勢いよく立ち上がる。
「さすがウチのCEOにゃ!」
その後も食事は和やかに続いた。
事業計画。
建設予定地。
作業員の確保。
異世界への物流。
話題は尽きなかった。
食事を終えた頃、ポルガンが静かに立ち上がる。
「皆様。」
全員が顔を上げる。
「よろしければ、このあと私の国をご覧になりませんか?」
小町会長が首を傾げた。
「異世界……ですか?テレビでは見ていますが」
「ええ。」
「どのくらい掛かるのでしょう?」
「私は問題ありませんが、赤城議員の奥様は長距離移動が大変でしょう。」
パンダはニヤリと笑った。
「安心するにゃ。」
そう言うと、小さな金色の扉を取り出した。
「ドコデモゲート、オープンにゃ!」
ガチャッ――。
扉の向こうには、どこまでも続く青空。
巨大な城壁。
広大な街並み。
人々で賑わう異世界最大級の都市。
「……。」
誰一人、言葉が出なかった。
「ここが……異世界。」
コマチ会長が思わず呟く。
パンダは胸を張って笑う。
「日帰り可能にゃ。」
そして親指を立てた。
「歩いて1分にゃ!」
橘です。
先日は、弟の雷蔵と弟の妻・梅子がお世話になりました。
私もレオン財団CEOを務めております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。




