第38話 逃げ出した白魔法の教師
それから一週間後――。
レオンは魔王の妻、ミカエラの指導を受けながら、黒魔法と白魔法の勉強を続けていた。
一方パンダは、いつものようにリアとナルを千葉の幼稚園へ送り届ける。
「フェイ太郎、お願いするにゃ。」
「キュイ!」
フェイ太郎が小さく鳴くと、風魔法がふわりと二人の身体を包み込んだ。
リアとナルは空中へゆっくり浮かび、そのまま幼稚園の門まで運ばれていく。
「いってきまーす!」
「いってくるねー!」
「帰りも迎えに来るにゃよー!」
パンダは二人に手を振ると、魔王城へ向かった。
訓練場の休憩室に入ると、レオンとミカエラがコンビニのフルーツサンドを食べながら、真剣な表情で話し合っていた。
「レオーン、ミカエラー。」
「どうしたにゃー?」
パンダが尋ねる。
ミカエラは苦笑した。
「レオンに白魔法を教えていた先生が、逃げ出しちゃったのよ。」
「えー!?」
「どうしてにゃ?」
「記憶力が凄すぎるの。」
「一昨日、一冊教えたら、昨日は全部暗記。」
「しかも応用問題まで全部解いちゃったのよ。」
「先生が『私が教えることはもうありません』って泣きながら帰っちゃったわ。」
パンダは目を丸くした。
「あー、なるほどにゃ。」
「黒魔法の方はどうにゃ?」
レオンはフルーツサンドを一口食べ、笑顔で答える。
「さっき黒魔法学校の入学試験を受けてきた。」
「全問正解だ。」
「一週間で!?」
「ミカエラに知識を貰ったからって、化け物だにゃ!」
「応用力試験もあるってポルガンが言ってたにゃー。」
レオンが苦笑する。
「パンダ。」
「お前、まだポルガンと仲が良いのか?」
「イケメンだけどにゃー。」
「十九歳で、あんな髭生やした男はパンダの好みじゃないにゃ。」
「大丈夫にゃ。」
「それよりポルガンがね、白魔法を教えられる人に心当たりがあるって。」
「法王様とLINEして、七つくらいの国から偉い人を集めてくれるって言ってたにゃ。」
「それは助かる。」
レオンは烏龍茶を飲み干すと、ニヤリと笑った。
「パンダ。」
「ちょっと見てろ。」
「僕の指輪の性能実験をする。」
「ミカエラ。」
「僕にキスしろ。」
「えっ?」
パンダが目を丸くする。
ミカエラは少し笑うと、レオンの膝へ腰掛けた。
そして、そっとレオンへ深く口づけする。
パンダの表情がみるみる歪んだ。
レオンは左手を見せる。
「ほら。」
「青いままだろ?」
「凄い指輪だ。」
爽やかな笑顔だった。
「レオンの馬鹿ー!」
「知らんにゃ!」
パンダはぷいっとそっぽを向く。
レオンは笑いながら言った。
「お前がポルガンと仲良くするのも、こういう事だからな。」
パンダは振り返る。
「違うにゃ!」
「パンダとポルガンは親友にゃ!」
「変なこと言うと怒るにゃよ!」
そう言うと、スタスタ歩き始めた。
「あっ!」
「ポルガンが『銀河Hey You伝説』見終わったって報告しようと思ったのに!」
「レオンの馬鹿!」
パンダは怒ったまま走って行ってしまった。
レオンは大きくため息をつく。
「ミカエラ……。」
「頼む。」
「膝から降りてくれ。」
「パンダのことを見ていたら、魔力が抑えられなくなった。」
その瞬間――
レオンの左手にはめられた指輪が、ゆっくりと青色から桃色へ変わり始めた。
ミカエラは慌てて立ち上がる。
「あら、大変。」
「このままだと、ハンサムがゴブリンになっちゃうわね。」
レオンから少し距離を取る。
すると、指輪は少しずつ青色へ戻っていった。
その時だった。
ブルッ。
レオンのスマートウォッチが震える。
画面を見る。
『エオンモール作るの決まったよ。』
送り主――パンダ。
レオンは思わず吹き出した。
「……仕事だけは、本当に早いな。」




