第二十六話 いざ秋派薔薇!
東京視察も、いよいよ終盤。
朝食を終えた一行は、鴉バスへ乗り込み、本日の目的地へ向かっていた。
深雪がマイクを握る。
「皆さん、おはようございます!」
「今日の目的地は、日本が世界に誇るサブカルチャーの街――秋派薔薇です!」
車内から歓声が上がる。
「地下アイドル、ゲームセンター、ショッピング!」
「今日は遊びながら日本文化を学びます!」
魔王は窓の外を眺めながら、スマホを取り出した。
「深雪殿。」
「娘の写真を見るか?」
「おっ、見せて見せて。」
画面には銀色の長い髪をした美しい少女が映っていた。
年齢は八十歳。
しかし魔族は長命なため、人間なら高校生くらいの年頃である。
「名前は魔王真央。」
「私の一人娘だ。」
深雪は写真を見ながら感心する。
「スマホの使い方、覚えてきたな。」
「意外とゴツくなくて可愛いのな。」
魔王は少し照れくさそうに笑った。
「娘は嫁に似たのだ。」
「嫁はハイエルフだからな。」
「なるほど。」
「父親似じゃなくて良かったな。」
「おい。」
魔王は笑いながら深雪の肩を軽く叩いた。
車内は笑いに包まれた。
◇
秋派薔薇へ到着すると、一行は街並みに目を奪われた。
大型ビジョン。
色鮮やかな看板。
行き交う人々。
どこを見ても活気に満ちている。
最初に案内されたのは地下アイドル劇場だった。
この日の公演は異世界視察団の貸切である。
元気いっぱいに歌い、踊るアイドル達。
猫獣人は尻尾を振り、エルフ達は手拍子をし、ドワーフ達は大きな声で応援する。
深雪から渡されたペンライトを振る魔王の姿に、法王は思わず吹き出した。
「魔王殿。」
「その姿は少々新鮮ですな。」
「応援とは楽しいものだ。」
魔王は満面の笑みでペンライトを振り続けた。
ライブ終了後、アイドル達も異世界からの観客に大喜びだった。
◇
一行はアニメショップやフィギュア専門店を巡る。
ショーケースに並ぶ精巧なフィギュアを見て、エルフ達は息を呑んだ。
「なんて美しい造形でしょう……。」
「まるで芸術作品ですね。」
法王も静かに頷く。
「魂が宿っているように見えます。」
ドワーフはケースの周りを何度も歩く。
「これほど細かい細工ができる職人がいるのか。」
レオンは笑う。
「全部アニメやゲームのキャラクターなんだけどね。」
「何の人物かは、そのうち教えるよ。」
◇
続いてゲームセンター。
クレーンゲーム。
音楽ゲーム。
レースゲーム。
太鼓ゲーム。
どれも初めて見るものばかりだった。
猫獣人達はぬいぐるみを大量に獲得し、ドワーフ達はレースゲームで本気になっていた。
魔王は太鼓ゲームで思い切りバチを振る。
「これは戦の訓練にもなるな!」
「ならねぇよ。」
深雪が笑う。
◇
昼食はスイーツパラダイア。
本日は貸切営業だった。
色とりどりのケーキ。
アイスクリーム。
プリン。
チョコレートファウンテン。
フルーツ。
さらにサンドイッチ、パスタ、唐揚げ、フライドポテトまで並んでいる。
エルフ達は歓声を上げた。
「夢の国です!」
「甘い物しかないと思ったら、お食事もあるのですね!」
美容ウォーターを飲んだ女性陣も大喜び。
深雪は笑う。
「ここなら何時間でも居られそうだな。」
◇
午後はドドバシカメラ。
最新ゲーム機売り場で、魔王は迷わず店員を呼んだ。
「Switch3を頼む。」
「視察団全員分。」
「魔王軍団長達の分。」
「家族への土産もだ。」
店員は驚きながら頭を下げた。
「ありがとうございます!」
レオンが苦笑する。
「また爆買いか。」
「東京経済に貢献しているぞ。」
魔王は満足そうに笑った。
◇
夜。
一行が訪れたのは、大正浪漫をテーマにした和風豚カツ専門店だった。
店内は木の温もりに包まれ、ステンドグラスの灯りが優しく照らしている。
店員達は華やかな着物ロリータ姿。
レースのエプロンを身に着け、笑顔で頭を下げた。
「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様。」
エルフ達は目を輝かせる。
「なんて可愛らしい衣装でしょう。」
法王も感心する。
「和の美しさと可愛らしさが見事に調和していますな。」
目の前ですり鉢に胡麻を入れ、香りを楽しみながらソースを作る。
揚げたての豚カツを一口食べたドワーフが立ち上がった。
「衣が軽い!」
「肉も柔らかい!」
魔王も満足そうに頷く。
「これも異世界へ持ち帰りたい文化だ。」
◇
帝王ホテルへ戻ると、レオンは左手を眺めた。
紫色だった腕は、すっかり元の色へ戻っている。
「明日で終わりだな。」
「散々な目にも遭ったけど……。」
「楽しい視察だった。」
深雪が笑う。
「良かったな。」
「治ったのか、レオン。」
レオンは深雪を見るなり、両手を前へ突き出した。
「色っぽい顔で僕に近づくな、深雪。」
「シッシッ。」
深雪は肩を落とした。
「酷い。」
「この顔は生まれつきだ。」
そのやり取りを見ていた魔王と法王、そして視察団全員が大笑いする。
笑い声の響く帝王ホテル。
東京視察も、いよいよ明日で最終日となるのだった。




