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リア充天才パンダとレオンの異世界日本化計画  作者: ヘタレパンダ


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第二十五話 不誠実の指輪


 帝王ホテルの夜。


 異世界東京視察団の多くは、それぞれの部屋へ戻り、明日の視察に備えて休んでいた。


 しかし、レオンと深雪の部屋だけは、まだ明かりがついている。


 深雪は窓際に立ち、東京の夜景を眺めていた。


 その背後から、レオンが静かに近付く。


「深雪。」


「僕にも限界がある。」


「いい加減、僕を誘うのはやめろ。」


 そう言いながら、レオンは深雪を後ろから抱き締めた。


 深雪は呆れたようにため息をつく。


「言ってることと、やってることが逆だろ。」


「お前が悪い。」


「俺は何もしてねえよ。」


 深雪はレオンの腕へ視線を落とした。


 左手には、見慣れない指輪が嵌まっている。


 太い銀色の輪に、大きな宝石がついた指輪だった。


「なあ、レオン。」


「今回ばかりは、イチャイチャしたらまずいことになると思うぞ。」


「何がだ?」


「その指輪。」


 深雪は指輪を指差した。


「パンダに着けられたんだろ?」


「格好いい指輪だけどさ。」


「東京へ来る前から、石の色が変わってたんじゃないか?」


 レオンは左手を持ち上げ、宝石を眺めた。


「そうかもしれないな。」


「最初は青かった気がする。」


「今は赤いな。」


「だからやめろって。なにか有るってその指輪!」


 レオンが顔を近付けると、深雪は手で軽く押し返した。


「俺は忠告したからな。」


「分かってる。」


 そう答えながら、レオンは深雪へ優しく口付けた。


 その瞬間だった。


「痛っ!」


 レオンは勢いよく顔を離した。


「どうした?」


「腕が……!」


 左手首から肘へ向かって、紫色が広がっていく。


 まるで濃い紫色のインクを皮膚の下へ流し込まれたようだった。


「なんなんだ、これは!」


 レオンは驚いて左腕を擦る。


 しかし色は落ちない。


 むしろ指輪の周囲から、さらに濃くなっていく。


 深雪は一歩下がった。


「知らないぞ、俺は。」


「だからやめろって言っただろ。」


「どうすればいい?」


「法王様に聞くしかないな。」


 ◇


 数分後。


 レオンは紫色になった左腕を隠しながら、法王と魔王が泊まっているスイートルームを訪れた。


 扉を開けた法王は、レオンの腕を見るなり眉を上げる。


「これは……。」


「心当たりがありますか?」


「ありますとも。」


 法王は指輪を確認すると、静かに頷いた。


「不誠実の指輪ですな。」


「不誠実?」


「恋人や伴侶に対して、不誠実な行動を取った者へ罰を与える魔道具です。」


 法王は紫色の腕を見ながら、穏やかに言った。


「レオン殿。」


「浮気しましたね。」


 レオンは視線をそらした。


「……していません。」


「腕が答えております。」


「軽く口付けただけです。」


「十分でしょう。」


 法王はあっさり言い切った。


 部屋の奥で話を聞いていた魔王が、大声で笑い出す。


「はっはっは!」


「勇者の夫が、見事に指輪へ裁かれたか!」


「笑い事じゃない!」


 レオンは紫色の腕を押さえた。


「治るんですか?」


「心配なさらずとも、浮気心を抑えれば半日ほどで元へ戻るでしょう。」


「本当に?」


「恐らく。」


「恐らく?」


 法王は微笑んだ。


「それ以上、不誠実なことをしなければですが。」


 レオンは少し安心して息を吐いた。


「パンダには……。」


「バレませんか?」


「指輪が自ら告げ口をすることはありません。」


「良かった……。」


 その言葉を聞いた魔王が、さらに笑う。


「安心するところが違うぞ、レオン殿!」


 レオンはすぐにスマホを取り出した。


 深雪へ電話を掛ける。


『もしもし?』


「深雪!」


『何だよ。』


「今夜、僕は法王様と魔王様の部屋のソファで寝るからな!」


『好きにしろよ。俺は最初から止めたぞ。』


「分かってる!」


 レオンは電話を切り、ソファへ座り込んだ。


「屈辱だ。」


「こんな悪戯をパンダにされるなんて。」


「可愛さ余って憎さ百倍だ。」


 魔王は呆れた顔でレオンを見る。


「レオン殿。」


「貴様が悪いのだろう。」


「少しくらい同情してくれてもいいでしょう。」


「できん。」


 魔王は指輪を指差した。


「それにな。」


「その指輪は、前科のない者には嵌められない。」


 レオンの顔が止まった。


「……何?」


「着けられた時点で、『私は浮気したことがあります』と宣言しているようなものだ。」


「俺達の世界では、恋人同士が遊び半分で使う有名な魔道具だ。」


 法王も静かに頷いた。


「指輪が拒絶する者には、そもそも指へ通りません。」


「そんな設定、聞いてないぞ!」


「パンダ殿は知っていたのでしょうな。」


 魔王は楽しそうに続けた。


「腕の色が変わっても浮気を続ければ、一週間ほどゴブリンの姿へ変えられる。」


 レオンは立ち上がった。


「ご、ゴブリン!?」


「顔も身体も、立派なゴブリンになるぞ。」


「戻れるんですか!?」


「一週間、誠実に過ごせばな。」


 レオンは紫色の腕を抱え、青ざめた。


「恐るべし……。」


「パンダの呪い……!」


「呪いではない。」


「不誠実な者への教育だ。」


「魔王に説教された……。」


 レオンは力なくソファへ倒れ込んだ。


 ◇


 翌朝。


 帝王ホテルの朝食会場。


 レオンの左腕は、まだ薄紫色のままだった。


 長袖の隙間から見える腕に気付いた異世界人達が、次々と小声で笑う。


「指輪が反応したらしいです。」


「まあ。」


「誰と何をしたのでしょう。」


 エルフ達は口元を隠して、くすくす笑っている。


 ドワーフ達は遠慮がない。


「レオン!」


「腕、いい色になったな!」


「ゴブリンになる前に止めとけよ!」


「うるさい!」


 猫獣人達も鼻をひくひくさせる。


「不誠実の匂いがする。」


「どんな匂いだ!」


 魔王と法王は、何も言わず朝食を食べている。


 しかし二人とも、明らかに笑いを堪えていた。


 レオンは耐え切れず、ホテル内のコンビニへ駆け込んだ。


「白い手袋!」


「白い手袋をください!」


 店員は驚きながらも、商品を差し出した。


「こちらでよろしいでしょうか。」


「何でもいい!」


 レオンは慌てて両手へ白い手袋を嵌めた。


 鏡を見る。


 紫色の腕は何とか隠れている。


「よし。」


 その背後から、深雪の声がした。


「それ、余計に怪しいぞ。」


 レオンは振り返らずに答えた。


「黙れ。」


「今日一日、僕に近付くな。」


 深雪は笑いながら肩をすくめた。


「だから昨日から、そう言ってるだろ。」


 こうして異世界東京視察団の四日目は、不誠実の指輪に敗北したレオンの白い手袋姿とともに始まった。

あーついにレオンの病気が出ました。

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