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リア充天才パンダとレオンの異世界日本化計画  作者: ヘタレパンダ


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第二十一話 帝王ホテルのおもてなし


 帝王ホテルへ到着した異世界東京視察団は、最上階にあるスイートルームへ集められていた。


 法王と魔王が宿泊する、ホテルで一番大きな部屋である。


 広い居間。


 大きな窓。


 東京の街を一望できる夜景。


 巨大なテレビ。


 ふかふかのソファ。


 そして、大理石で造られた広い浴室。


 村長は部屋へ入った瞬間、足を止めた。


「これが……宿の一室なのですか?」


 魔王も窓の外を眺める。


「城の迎賓室より広いぞ。」


 法王はソファへ腰掛け、その柔らかさに目を丸くした。


「身体が沈みますな。」


 エルフ達は室内を見回しながら、熱心にメモを取っている。


「照明の配置が美しいです。」


「家具の色も統一されています。」


「接客だけでなく、空間そのものがお客様を迎えているのですね。」


 ドワーフ達は壁や床を叩いていた。


「この石は何だ?」


「継ぎ目が見えんぞ。」


「あとで調べるなよ。」


 深雪が釘を刺す。


 猫獣人達は大きなベッドへ近付いた。


 指先で布団を押す。


 ふわっ。


「柔らかい。」


「寝たら戻れなくなりそう。」


 深雪は全員が揃ったことを確認すると、手を叩いた。


「はい、注目!」


「これからホテルの部屋にある設備の使い方を説明する!」


「特に風呂!」


「異世界とは入り方が違うから、よく見ておけよ!」


 魔王が浴室を覗き込む。


「この白い器に入るのか。」


「器じゃない。」


「浴槽だ。」


 深雪はレオンの肩を叩いた。


「では先生。」


「実演をお願いします。」


 レオンは眉をひそめた。


「どうして俺が実演するんだ。」


「医者だろ。」


「風呂の入り方は医学じゃない。」


「でも健康には関係ある。」


「雑な理屈だな。」


 レオンはため息をつきながら服を脱いで浴室へ入った。


 深雪がタオルを巻く時は身体で隠して見えない様にする。


 やがてレオンは腰には大きな布を巻いていた。


 その姿を見た魔王が真剣に頷いた。


「勇者の国では、入浴にも正装が必要なのか。」


「撮影用だよ。みんなはタオル湯船に入れるなよ」


 深雪が答える。


 レオンは浴槽の横にある操作盤を指差した。


「まず、ここを押す。」


 ぴっ。


『お湯張りを開始します』


 浴室に機械の声が響いた。


 異世界人達が一斉にざわめく。


「風呂が喋った!」


「水の精霊か?」


「違う。」


 レオンは浴槽へお湯が溜まっていく様子を見せる。


「温度も量も自動で調整される。」


「四十度前後に設定すれば、熱過ぎない。」


 ドワーフが操作盤を覗き込んだ。


「火を使わず湯を沸かしているのか?」


「建物の設備が沸かしている。」


「便利だろ。」


 浴槽へお湯が溜まる間に、レオンはシャワーを手に取った。


「次に、身体と髪を洗う。」


「湯船へ入る前に汚れを落とすんだ。」


 シャワーを出す。


 勢いよく温かい湯が流れた。


 猫獣人の耳がぴくりと動く。


「雨を手で持っている……。」


「シャワーだよ。」


 レオンは椅子へ座ると、身体を洗い始めた。


 続いて髪へシャンプーをつける。


 泡立てる。


 頭が白い泡だらけになる。


 魔王が腕を組んだ。


「毒に侵されたのか。」


「洗ってるだけだ。」


 レオンはシャワーで泡を流した。


「泡が残らないよう、よく流す。」


「それから浴槽へ入る。」


 湯船へゆっくり浸かる。


「熱過ぎると思ったら、無理に入らないこと。」


「長時間入り過ぎるとのぼせるから、最初は二十数えるくらいでいい。」


 深雪が大声で数え始めた。


「いーち!」


「にーい!」


「さーん!」


 全員も続く。


「よーん!」


「ごー!」


「ろーく!」


 魔王も法王も、エルフもドワーフも、真剣な顔で数えている。


 二十まで数え終えると、レオンは浴槽から上がった。


「これで終わり。」


 深雪が大きなバスタオルを広げる。


「いや、まだだ。」


「身体を乾かす。」


 深雪はレオンの肩へバスタオルを掛け、勢いよく拭き始めた。


「痛い痛い!」


「もっと優しくやれ!」


「分かった分かった。」


 異世界人達は、深雪の動きを一つも見逃すまいと見つめている。


 続いて、深雪はドライヤーを取り出した。


「これがドライヤー。」


 スイッチを入れる。


 ごおおおおっ!


 温かい風が吹き出した。


 猫獣人二人が飛び上がる。


「風の魔法!」


「火の風だ!」


「逃げるな。」


「髪を乾かす機械だ。」


 深雪はレオンの髪へ風を当てる。


 濡れていた髪が少しずつ乾いていく。


 銀髪エルフが感心したように頷いた。


「なるほど。」


「入浴後は、一人が布で身体を拭き、もう一人が風で髪を乾かすのですね。」


 村長もメモを取る。


「二人一組。」


「入浴後の介助が必要。」


 法王は穏やかに微笑んだ。


「互いに助け合う、素晴らしい文化ですな。」


 魔王も大きく頷く。


「我が国でも二人一組を基本としよう。」


 レオンが慌てて立ち上がった。


「違う!」


「一人でもできる!」


「今日は説明のために深雪がやっただけだ!」


 エルフ達は顔を見合わせる。


「遠慮なさらなくても。」


「夫婦や友人で助け合うのは美しいことです。」


「そういう問題じゃない!」


 深雪は腹を抱えて笑っていた。


「もう遅いな。」


「全員、二人一組だと思い込んでる。」


 ◇


 説明会が終わると、視察団はそれぞれの部屋へ分かれた。


 しかし廊下のあちこちから、奇妙な声が聞こえてくる。


「次、私が乾かします。」


「では私は背中を拭こう。」


「熱い風が耳に当たる!」


「動くな、乾かせない!」


 猫獣人の部屋では、一人がドライヤーを持ち、もう一人の尻尾を乾かしていた。


「尻尾までふわふわになった!」


「日本のドライヤー、すごい!」


 エルフ達は長い髪を交代で乾かしている。


「温かい風が気持ちいいですね。」


「髪がいつもより滑らかです。」


 ドワーフ達は髭へドライヤーを当てていた。


「見ろ!」


「髭が膨らんだぞ!」


「立派になった!」


 レオンは廊下を歩きながら頭を抱える。


「完全に二人一組が定着してる……。」


 深雪は笑った。


「楽しそうだからいいだろ。」


 ◇


 入浴を終えた一行は、帝王ホテルのレストランへ集まった。


 夕食は豪華なディナービュッフェである。


 料理が並ぶ長いテーブル。


 ローストビーフ。


 ステーキ。


 天ぷら。


 寿司。


 カレー。


 パスタ。


 グラタン。


 魚料理。


 サラダ。


 パン。


 ケーキ。


 プリン。


 アイスクリーム。


 その種類の多さに、全員が立ち尽くした。


「……全部、食べてよいのか?」


 魔王が尋ねる。


 深雪は頷く。


「好きな物を、食べられるだけ取っていい。」


「ただし残すなよ。」


「それは分かっている。」


 魔王は皿を持ち、料理を一品ずつ慎重に選び始めた。


 法王は和食を中心に取っている。


 焼き魚。


 煮物。


 味噌汁。


 炊き込みご飯。


「落ち着く味がしそうですな。」


 エルフ達は色鮮やかな前菜とデザートに目を奪われていた。


「花のようです。」


「食べるのがもったいないですね。」


 ドワーフ達はローストビーフとステーキを山のように積んでいる。


「肉!」


「ビール!」


「今日も乾杯だ!」


 猫獣人達は刺身と魚料理の前から動かない。


「こっちにも魚。」


「あっちにも魚。」


「ここに住みたい。」


 村長はカレーを一口食べ、目を見開いた。


「辛い!」


 もう一口。


「しかし美味い!」


 さらに一口。


「止まりません!」


 レオンと深雪はその様子を眺めながら食事をしていた。


「昼も寿司だったのに、まだ食べるな。」


「旅行中は別腹なんだろ。」


「全員、パンダに似てきた。」


「それは危険だな。」


 レストランには笑い声が絶えなかった。


 料理を取りに行く者。


 味の感想を言い合う者。


 初めて飲むジュースに驚く者。


 デザートを別腹だと言い張る者。


 戦争をしていた者達とは思えないほど、穏やかで賑やかな夕食だった。


 ◇


 夕食後。


 深雪は再びマイクを持った。


「このまま寝るにはまだ早い!」


「今から新塾へ行くぞ!」


「巨大な猫を見せてやる!」


 猫獣人が目を輝かせる。


「巨大な猫?」


「本物か?」


「見れば分かる。」


 鴉バス観光は、夜の新塾へ向かった。


 高層ビル。


 光り輝く看板。


 絶え間なく行き交う人々。


 異世界人達は、窓へ張り付くようにして景色を眺めていた。


 やがてバスが停車する。


 深雪がビルの上を指差した。


「あれだ!」


 全員が顔を上げる。


 巨大な画面の中に、一匹の猫が座っていた。


「猫だ。」


 魔王が呟く。


 次の瞬間。


 巨大な猫が画面の奥から身を乗り出した。


 まるでビルから飛び出してくるように見える。


「うおっ!」


 ドワーフ達が後ずさる。


「出てきたぞ!」


「巨大魔獣だ!」


 エルフ達も息をのむ。


「立体になっています!」


「幻術でしょうか?」


 猫獣人二人は、完全に固まっていた。


「……大きい。」


「王様だ。」


 画面の猫が鳴く。


『にゃーん』


 猫獣人達は両手を振った。


「にゃーん!」


「こっち見てー!」


 深雪はカメラマンへ叫ぶ。


「今の撮ったか!」


「猫獣人が巨大猫に挨拶してるぞ!」


「撮れてます!」


 魔王は画面を見上げたまま尋ねる。


「本当に魔法ではないのか。」


 レオンが答える。


「映像だよ。」


「見る角度を利用して、飛び出しているように見せている。」


 法王は感心したように微笑む。


「人を驚かせ、楽しませるための技術ですか。」


「平和な使い方ですな。」


 通行人達は一行をちらりと見るだけで、そのまま歩いていく。


 魔王も法王も、エルフもドワーフも、巨大な猫を背景に何枚も写真を撮った。


 集合写真。


 二人組。


 種族ごと。


 魔王と法王の記念写真。


 深雪は時計を見て頭を抱えた。


「写真撮り過ぎだ!」


「ホテルへ戻るぞ!」


「もう一枚だけ!」


「それ、十回目だぞ!」


 ◇


 帝王ホテルへ戻った頃には、夜も遅くなっていた。


 それでも異世界人達は興奮が冷めず、なかなか眠ろうとしない。


 廊下では、今日撮ったスマホの写真を見せ合う声が聞こえる。


「この料理、綺麗に撮れている。」


「巨大猫と一緒に写っているぞ。」


「明日は何を見るのだろう。」


 法王と魔王は、二人のスイートルームへ戻った。


 大きな窓の向こうには、東京の夜景が広がっている。


 魔王はソファへ深く腰掛けた。


「……こんなに幸せで良いのだろうか。」


 法王は隣へ座り、穏やかに答える。


「良いのではありませんか。」


「人は幸せになるために生きているのでしょう。」


 魔王はしばらく黙って夜景を眺めた。


「戦争など、アホのすることだな。」


 法王は微笑んだ。


「平和が一番じゃ。」


 魔王はテレビのリモコンを手に取る。


「何か見られるのか?」


「昼に教わったユーチューブという物を見てみましょう。」


 二人はテレビでYouTubeを開いた。


 画面には、日本の美しい風景を紹介する動画が映し出される。


 桜。


 富士山。


 京都の寺。


 北海道の雪景色。


 沖縄の海。


 映像の題名は、


『日本に惚れ惚れする絶景百選』


 魔王は腕を組んだまま見入っている。


「日本には、まだこれほど多くの場所があるのか。」


 法王も頷く。


「五泊六日では足りませんな。」


「次はもっと長く来よう。」


「賛成です。」


 次の動画が自動で始まる。


 日本の食事。


 祭り。


 新幹線。


 温泉。


 テーマパーク。


 二人はソファに並びながら、いつまでも画面を眺めていた。


 やがて魔王の頭がゆっくり傾く。


 法王も目を閉じる。


 テレビから流れる穏やかな音楽の中、二人はそのまま眠ってしまった。


 戦争ではなく、買い物と食事と観光に疲れて眠る夜。


 異世界の魔王と法王にとって、それは生まれて初めて味わう、平和で幸せな夜だった。

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