第十九話 池梟のドドバシカメラ
鴉バス観光は、ショッピングとサブカルチャーの街――池梟へ到着した。
巨大な商業ビルが立ち並び、人々が忙しそうに行き交っている。
その中でもひときわ目立つ建物。
『ドドバシカメラ』
入口の前で深雪がマイクを握った。
「はい、到着!」
「ここは家電なら何でも揃う店だ!」
魔王が建物を見上げる。
「……城より大きいな。」
ドワーフ達も口を開けたまま動かない。
「全部、店なのか?」
「全部だ。」
深雪は笑う。
「今日は好きな物を見て回っていいぞ!」
「配送先は全部、レオンの千葉県の家を指定してある!」
「だから大きい物でも気にせず買っていい!」
レオンが頷く。
「異世界へは、あとでドコデモゲートを使って運ぶ。」
「遠慮はいらない。」
一同は歓声を上げた。
「おおーーっ!」
エルフ達は迷うことなく調理家電売り場へ向かう。
「炊飯器が欲しいですね。」
「電子レンジも便利そうです。」
「コーヒーメーカーも気になります。」
コンビニ店員として働き始めてから給料を貯めていたため、財布には十分なお金が入っていた。
銀髪エルフが笑う。
「働くって素晴らしいですね。」
「お給料で好きな物が買えます。」
黒髪エルフも頷いた。
「店長には感謝しなくてはいけません。」
一方、村長は値札を見て固まっていた。
「……。」
「高い。」
「とても手が出ません。」
手に取った炊飯器を、そっと棚へ戻す。
その様子を見た魔王が歩み寄った。
「村長。」
「はい。」
「欲しい物があるのか?」
村長は苦笑する。
「便利そうですが……。」
「村の予算では、とても買えません。」
魔王は笑った。
「そんなことか。」
財布を取り出す。
「金のことは気にするな。」
「百万円までなら、我が奢ろう。」
村長は固まった。
「……え?」
「百万円。」
「好きな物を選べ。」
「村のためになる物なら遠慮はいらん。」
村長の目に涙が浮かぶ。
「魔王様……。」
二人は固く握手を交わした。
「ありがとうございます!」
法王はその光景を見ながら穏やかに微笑んだ。
「良いことですな。」
「助け合うのが仲間というものです。」
深雪も思わず笑う。
「最初に会った頃は戦争寸前だったのにな。」
「今じゃ一緒に家電買ってる。」
レオンも苦笑した。
「人生、分からないものだね。」
その頃、ドワーフ達は工具売り場で目を輝かせていた。
「この電動ドリル!」
「凄い!」
「木も鉄も削れるぞ!」
「全部欲しい!」
猫獣人達は大型テレビ売り場で立ち止まる。
巨大な画面いっぱいに海の映像が映し出されていた。
「魚……。」
「本物みたい。」
「家に欲しい。」
魔王が笑う。
「それも百万円の中なら構わん。」
猫獣人達は大喜びした。
一方、法王は電子書籍リーダーを手に取っていた。
「これ一台で、何千冊もの本が読めるのですか。」
店員が頷く。
「はい。」
法王は感心したように微笑む。
「図書館を持ち歩くようなものですな。」
⸻
店内を歩いていると、猫獣人が立ち止まった。
「……なんだこれ?」
そこには何百台ものカプセルトイマシーンが並んでいた。
エルフ達も集まってくる。
「小さな自動販売機でしょうか?」
深雪が笑う。
「これはガチャガチャ。」
「カプセルトイっていう遊びだ。」
透明なケースの中には見本の写真。
猫。
ドラゴン。
電車。
動物。
ミニチュアの食べ物。
さまざまな種類が並んでいる。
「中身は選べないのか?」
魔王が聞く。
「見本の中から、どれか一つが出てくる。」
「運試しみたいなものだ。」
ドワーフが価格を見て驚く。
「三百円。」
「四百円。」
「五百円まであるぞ。」
深雪は頷いた。
「最近は五百円のガチャも多い。」
「その分、作りもすごく細かい。」
猫獣人が財布を開く。
「五百円玉を入れればいいのか?」
「それが違う。」
深雪は百円玉を五枚並べた。
「百円玉を五枚入れる。」
「五百円玉は使えない機械が多いから、両替機で崩すんだ。」
猫獣人達は目を丸くする。
「わざわざ?」
「そう。」
深雪は百円玉を入れ、ハンドルを回した。
ガチャ。
コロン。
カプセルが転がり落ちる。
「出た!」
中から出てきたのは、可愛いパンダのフィギュアだった。
猫獣人が歓声を上げる。
「もう一回!」
ドワーフも笑う。
「これは危険だ。」
「気が付いたら金が無くなる。」
レオンが苦笑する。
「それがガチャガチャなんだよ。」
深雪はカメラへ向かって話す。
「異世界東京視察団。」
「家電爆買い中でーす!」
カメラマンが笑う。
「今日だけで、かなり売り上げが伸びそうですね。」
レオンは大量の配送伝票を書きながらため息をついた。
「……全部。」
「うちに届くんだよな。」
深雪が肩を叩く。
「頑張れ。」
「異世界物流センター長。」
レオンは苦笑しながらペンを走らせる。
「今日も忙しくなりそうだ。」
こうして異世界東京視察団は、それぞれお気に入りの文明の利器を手に入れ、大満足で次の目的地へ向かう準備を始めた。




