第十八話 スジロウで一時間半食べ放題 お代は魔王持ち
鴉バス観光は、大型回転寿司店『スジロウ』の駐車場へ到着した。
今日は異世界東京視察団のため、一部エリアが貸切となっている。
深雪はマイクを握り、最後の説明を始めた。
「はい、皆さん注目!」
一同が静かになる。
「本日の昼食はスジロウ!」
「今日は一部貸切プランだから、一時間半食べ放題・飲み放題です!」
歓声が上がる。
「お酒もありますよー!」
ドワーフ達の耳がぴくっと動く。
深雪は続ける。
「注文は、このタッチパネル!」
バスの前方モニターに、操作画面が映し出される。
「食べたい物を押すだけで注文できます!」
魔王が感心する。
「店員を呼ばずに料理が来るのか。」
「そう。」
「文明ってすげぇだろ?」
深雪はニヤリと笑う。
「そして!」
「本日のお代は……。」
一拍置く。
「なんと!」
「太っ腹、魔王様のおごりでーす!」
車内に拍手が響く。
「おおーーっ!」
「ありがとうございます!」
「さすが魔王様!」
「太っ腹!」
魔王は少し照れくさそうに笑った。
「皆が喜ぶなら、それでよい。」
法王も微笑む。
「魔王殿、ありがとうございます。」
村長も深々と頭を下げた。
「村を代表して感謝いたします。」
深雪は人差し指を立てる。
「ただし!」
「タダだからって残すのは禁止!」
「食べられる分だけ注文すること!」
「よく考えてから頼んでください!」
「はーい!」
全員が元気よく返事をした。
深雪が笑う。
「そういえば、みんなコンビニで寿司は食べたことあるよな。」
魔王が頷く。
「うむ。握り寿司は何度か食べた。」
法王も微笑む。
「しかし、回転寿司は初めてですな。」
村長はレーンの映像を見つめる。
「寿司が自分から運ばれてくるとは……。」
深雪は笑った。
「そこが日本らしいところなんだ。」
◇
貸切ゾーンの席は自由。テーブルが一つの通路を挟み12席確保されていた。
店内には昼食中の客が何組もいた。
エルフや魔王達を見ても、ちらりと視線を向けるだけで、ほとんどの客は何事もなかったように寿司を食べ続けている。
深雪が苦笑した。
「最近の日本人はロケとかコスプレイベントを見慣れてるからな。」
「写真を勝手に撮る人も少ない。」
「見て見ぬふりをするのが、日本流のマナーってやつだ。」
自然と、法王、魔王、村長の三人は同じテーブルへ座っていた。
回転レーンを眺めながら、村長が目を丸くする。
「寿司が流れております……。」
法王も感心する。
「料理が旅をしておりますな。」
魔王は腕を組んだ。
「敵陣へ補給物資を送る仕組みにも応用できそうだ。」
深雪が笑う。
「まずは寿司を楽しめ。」
レオンは深雪と並び、魔王、法王、村長と同じテーブルへ腰を下ろした。
「みんな、思ったより行儀良く食べてるな。」
「もっと大騒ぎすると思ってた。」
深雪はビールを飲むドワーフ達を見ながら笑った。
「十分騒がしいけどな。」
レオンはタッチパネルを操作する。
「俺は、えんがわと炙りサーモン。」
「あと茶碗蒸し。」
深雪が画面を覗き込む。
「医者らしく地味だな。」
「寿司屋で医者らしさは関係ないだろ。」
そこへ注文した皿が到着する。
レオンは炙りサーモンを口に運び、静かに頷いた。
「うん。」
「これは異世界にも必要だな。」
深雪が眉をひそめる。
「回転寿司まで造る気か?」
「パンダなら絶対に造る。」
二人は同時にため息をついた。
その頃、魔王は中トロを追加注文していた。
猫獣人二人は、席へ着くなりタッチパネルを連打していた。
「まぐろ!」
「サーモン!」
「えび!」
「ねぎとろ!」
「全部食べたい!」
注文ボタンを押すたびに、
『ご注文ありがとうございます』
という音声が流れる。
猫獣人達は尻尾を大きく振った。
「来る!」
「魚が来る!」
やがてレーンに乗って寿司が到着する。
猫獣人がまぐろをひと口で頬張る。
舌に乗せた瞬間、ひんやりとした赤身がほどけ、じゅわっと旨味が広がる。
「んにゃあああっ! とろける!」
目を見開き、耳をぴんと立てる。
もう一人はサーモンを食べる。
脂が舌にまとわりつき、甘く濃厚な香りが鼻に抜ける。
「これ、魚なのに甘い!」
尻尾がぶんぶん振られ、椅子が揺れる。
エルフ達は上品に注文を始める。
「えんがわ。」
「炙りサーモン。」
「茶碗蒸し。」
「抹茶パフェ。」
銀髪エルフがえんがわを口に運ぶ。
コリッとした歯ごたえのあと、じんわりと脂が広がる。
「……繊細な食感。」
目を細め、静かに頷く。
黒髪エルフは炙りサーモンを食べる。
表面の香ばしさと中のとろける脂が重なり、ふわりと煙の香りが鼻をくすぐる。
「火を通すことで、香りが立つのですね。」
感嘆の息を漏らす。
茶碗蒸しをすくえば、ぷるんと揺れる柔らかな表面。
口に入れると、出汁の優しい旨味が広がり、思わず肩の力が抜ける。
「これは……飲む料理ですね。」
一方、ドワーフ達。
タッチパネルを何やら連打している。
運ばれてきた黄金色のビール。枝豆。冷奴。
細かな泡がきめ細かく立ち上り、冷気がグラスを曇らせる。
「おおーーっ!」
ジョッキを掲げる。
「異世界と日本の友好に!」
「乾杯!」
「乾杯!」
ごくごくごく。
喉を通る冷たい液体と、弾ける炭酸。
苦味のあとに広がる麦の香ばしさ。
ぷはぁーーっ!
「うまい!!」
「この泡がたまらん!」
口ひげに泡をつけたまま笑う。
「喉が生き返る!」
すぐに寿司をつまむ。
酢飯の酸味と魚の旨味がビールの苦味と混ざり合う。
「ほんとに合うぞこれ!」
法王は湯飲みで緑茶を飲みながら笑った。
湯気とともに立ち上る青い香り。
一口含めば、ほのかな渋みが口の中を整える。
「皆さん、本当に楽しそうですな。」
村長も初めて食べる玉子寿司に感動している。
ふわふわとした食感、ほんのり甘い味わい。
「甘い……。」
「まるで菓子のようです。」
目を丸くしながら何度も頷く。
魔王は静かに中トロを口へ運んだ。
舌に触れた瞬間、脂が体温で溶け、濃厚な旨味が一気に広がる。
一口。
二口。
三口。
しばらく黙ったまま食べ続ける。
深雪が聞く。
「どうだ?」
魔王は真剣な顔で答えた。
「……口の中で消えた。」
そして一言。
「もう一皿。」
その一言に、店内は笑いに包まれた。
エルフ達はデザートまで楽しみ始める。
「わらび餅。」
ぷるんとした透明な餅にきな粉が香る。
口に入れると、ひんやりと柔らかく、すっと溶ける。
「儚い食感……。」
「プリン。」
スプーンを入れると、なめらかに沈む。
卵のコクとカラメルのほろ苦さが広がる。
「甘味と苦味の調和が見事です。」
「ショートケーキ。」
ふわふわのスポンジと軽いクリーム、甘酸っぱい苺。
「軽やかで上品ですね。」
「抹茶アイス。」
ひんやりとした冷たさと、抹茶のほろ苦い香り。
「大人の甘味です。」
エルフが微笑んだ。
「料理を作ってくださった方への感謝です。」
深雪はカメラマンへ小声で言う。
「この雰囲気いいな。」
「戦争してた世界とは思えない。」
カメラマンも頷く。
「みんな笑顔です。」
一時間半後。
誰一人料理を残すことなく、食事は終了した。
深雪が席を見回す。
「残飯ゼロ!」
「素晴らしい!」
魔王は立ち上がり、店員へ深く一礼した。
「美味しい料理をありがとう。」
法王も続いて頭を下げる。
「ごちそうさまでした。」
村長も感謝を伝える。
「また必ず参ります。」
店員達は笑顔で答えた。
「ありがとうございました!」
こうして異世界東京視察団の昼食会は、大きな笑い声とたくさんの「ごちそうさま」に包まれながら幕を閉じた。
次なる目的地は、ショッピングとサブカルチャーの街――池梟である。




