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リア充天才パンダとレオンの異世界日本化計画※毎日20時更新。そんなに全削除して欲しいですか?  作者: ヘタレパンダ


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第119話 記録に残す作業とは?未来のトリセツ



――精神と時の空間。


工房。


地球からやって来た取材班は、朝から工房の中を忙しなく歩き回っていた。


魔石を削る者。


細い魔力の糸を通す者。


完成した魔道具を何度も動かし、不具合がないか確かめる者。


以前なら考えられなかったほど、作業は細分化されている。


そして何より――。


誰もが、自分の仕事を理解していた。


「では、皆さん」


「昨日の話、覚えてるにゃ?」


パンダが三人を見回した。


「パンダが欲しいのは、ここで何が作られてるかを書いただけの記事じゃないにゃ」


三人がパンダを見る。


「今見えているものだけを飾り立てた文章で書くのなら、それはAIでも出来る作業にゃ」


パンダは作業台の一つを指差した。


そこでは、一人の女性が小さな魔石を慎重に削っている。


「例えば、あの人」


「はい」


「昔は、あんな仕事出来なかったにゃ」


取材班の女がメモを取る。


「出来るようになりました、凄いですね。で終わった物をドラマチックに描く、それだけじゃ駄目にゃ」


パンダは続けた。


「どうして出来なかったのか」


「……はい」


「どうやって、自分が何につまずいているのか見つけたのか」


男の記者が顔を上げた。


「誰かが答えを教えたのか。それとも、本人が見つけたのか」


「そうにゃ」


パンダが頷く。


「誰が何を言って、本人がどう考えて、何を試して、失敗して、何を変えた結果、今ここにいるのか」


パンダは工房全体を見回した。


「パンダは、それを残して欲しいにゃ」


一瞬、静かになった。


「完成品の写真や動画だけ残しても、百年後の人には作れないにゃ」


「パンダは現実に今いる人間を芸術的演出して、都合良い存在に祀りあげて後世に残す作業じゃない」


ポルガンが横で笑った。


「設計図つまり、誰かが作ったトリセツが必要ってことですね」


「そういうことにゃ」


パンダはポルガンを指差した。


「しかも物の設計図じゃない」


「人の成長の設計図?」


取材班の男が言う。


パンダはニヤリとした。


「近いにゃ」


三人は、それぞれ取材を始めた。


――一時間後。


一人目の女性記者は、工房の中央で働く職人を眺めながら猛烈な勢いで文章を書いていた。


『魔石が星屑のように煌めき、職人達の指先から奇跡が紡ぎ出されていく。


かつて未開だった異世界の工房はいま、地球の技術と魔法文化が交差する幻想的な未来工場へと姿を変えていた――』


「……」


パンダが後ろから読む。


文章は上手い。


物凄く上手い。


写真映えもする。


読者も喜ぶだろう。


だが。


「それで?」


パンダが聞いた。


女性が振り返った。


「え?」


「なんで、この人達はこんなこと出来るようになったにゃ?」


「ポルガン様の指導によって技術力が向上して――」


「どういう指導?」


「え?」


「何を変えた?」


「……」


「本人は何に困ってた?」


「……」


「どうして、それまで改善出来なかった?」


女性のペンが止まった。


「そこまで必要でしょうか?」


パンダの指がピクリと動いた。


「必要だから頼んだにゃ」


「ですが、読者に伝える記事としては、こういう書き方のほうが――」


「私パンダ読者を酔わせろとは頼んでないにゃ」


周囲が静かになる。


女性は少しムッとした顔をした。


「事実を記録しています」


「今ある事実だけにゃ」


パンダは原稿を指差した。


「結果しか書いてない」


女性は黙った。


「これを百年後の人が読んだら、どうやって同じところまで辿り着くにゃ?」


返事はない。


パンダは少し考えた。


理解していないのか。


それとも。


――パンダの注文自体が間違っていると言いたいのかにゃ?


それなら、それでも構わない。


ただし。


「出て行けと言いたいところだが、失敗サンプルも必要にゃから取材は続けていいにゃ」


パンダはそれだけ言って離れた。


答えを押し付けても仕方がない。


理解するかどうかも含めて、結果を見るしかない。


――別の場所。


もう一人の女性記者は、随分苦戦していた。


「えっと……その……昔は何が苦手だったんですか?」


「全部です」


職人が笑った。


「全部?」


「魔力を細く出すのが出来なかったんです」


「どうしてですか?」


「それが分からなかったんですよ」


女性記者は困った顔をした。


「じゃあ……何で分かったんですか?」


「ポルガン様に、細くしろって言われるんじゃなくて、一回好きにやってみろって言われたんです」


「好きに?」


「はい。それで壊しました」


「あはは……」


「大切な魔石を三個」


「三個も?」


「でも、その時に分かったんです。俺、力が強過ぎるんじゃなくて、途中で怖くなって一気に魔力を止めてたんですよ」


女性記者のペンが止まった。


「怖かった?」


「失敗するのが」


「……なるほど」


彼女はゆっくりと書き始めた。


文字を消す。


また書く。


もう一度聞く。


「そのあと、どうしたんですか?」


「失敗しても壊れない安い素材で百回くらい練習しました」


「それを考えたのはポルガンさん?」


「最初はそうです。でも途中から、俺達で練習方法を変えました」


「どうして?」


「こっちのほうが早いって気付いたからです」


彼女はまた書いた。


文章は、先ほどの女性ほど華麗ではない。


何度も言葉に詰まる。


だが。


『彼は才能がなかったわけではない。


失敗を恐れ、魔力を止めてしまう癖を、自分でも理解していなかった。


最初に与えられたのは答えではなく、失敗しても許される環境だった。


そこで初めて、自分自身の癖を観察出来るようになったという――』


パンダは少し離れたところから読んでいた。


「うん」


まだ粗い。


でも。


ちゃんと昨日から今日まで線が繋がっている。


「惜しいにゃ」


女性記者がビクッとした。


「す、すみません!」


「怒ってないにゃ」


パンダは文章を指差す。


「この後、この人だけじゃなくて、同じ方法で伸びた人と、逆に伸びなかった人も聞いてみるといいにゃ」


「あ……」


女性の目が変わった。


「一人だけだと、この方法が本当に有効だったのか分からない?」


「そういうことにゃ」


「分かりました!」


女性は慌てて別の職人を探しに行った。


パンダは少し笑った。


「こっちは育ちそうにゃね。パンダは失敗を美化し改善されなかった事を正当化しろとは言ってないんだにゃ」


――そして。


三人目。


男の記者は、なかなか戻ってこなかった。


「どこ行ったにゃ?」


「朝から工房だけじゃなくて訓練所にも行ってますよ」


ポルガンが答える。


「なんで?」


「分かりません」


夕方。


ようやく男が戻ってきた。


手には大量のメモ。


「パンダさん」


「はいにゃ」


「少し確認していいですか?」


「どうぞ」


男は椅子に座った。


「ポルガンさんは、最初から彼らの適性を見抜いていたわけじゃないんですね?」


ポルガンが答える。


「才能があるのは応募履歴書でわかってましたが、全然ですよ」


「むしろ、何をやらせたらいいか分からなかった?」


「はい」


「だから何種類もやらせた」


「そうですね」


男はメモを見る。


「その中で本人の成績だけでなく、作業中のストレスや、楽しそうに続けられるか、他人に教えられるかまで見た」


パンダが男を見る。


「ほう」


「それで配置を変えた」


「はい」


「配置を変えたあとも固定しなかった。本人から不満が出た場合、我慢させるのではなく理由を聞いた」


ポルガンが笑った。


「よく調べましたね」


「三十二人に聞きました」


「そんなに?」


「同じことを複数人が言うか確認したかったので」


パンダの尻尾が揺れた。


男は原稿を見せた。


『この工房を変えたのは、一人の天才が与えた正解ではない。


最初に行われたのは、失敗の観察だった。


誰が、どこで、なぜ止まるのか。


本人が苦手だと思っていることと、実際につまずいている場所は同じなのか。


指導する側も仮説を立て、外せば修正した。


働く側も、自分に合う方法を提案するようになった。


やがて「教える者」と「教えられる者」という関係そのものが変化した。


現在の工房にあるのは完成された教育法ではない。


改善を続けられる仕組みである――』


パンダが黙った。


ポルガンも読む。


「……これ、俺が褒められる記事じゃないですね」


男が首を傾げる。


「褒めて欲しかったですか?」


「あはは! いや、その逆です」


ポルガンは嬉しそうに笑った。


「これなら俺がいなくなっても残る」


パンダがポルガンを見る。


そして。


ニヤッと笑った。


「正解にゃ」


「え?」


男が顔を上げる。


「パンダが残して欲しかったのは、それにゃ」


パンダは原稿を指で叩いた。


「誰が凄かったかじゃない」


「はい」


「何が起きて、何故それが起きて、何を試して、何が失敗して、どう修正したか」


パンダは工房を見る。


今日も職人達が働いている。


百年後。


ここにいる人間は、誰もいないかもしれない。


ポルガンも。


パンダも。


今働いている職人達も。


それでも。


「完成品だけ残したら、次の人はまた最初からやり直しにゃ」


男が頷く。


「過程を残せば、その続きを始められる」


「そういうことにゃ」


パンダは満足そうに笑った。


「文章は、昔あったものを綺麗な言葉で保存するだけの道具じゃないにゃ」


紙に書かれた文字を見る。


映像もある。


音声もある。


今では、人間の表情まで残せる。


ならば。


残すべきものも変わる。


「成功した姿だけじゃなく」


パンダは言った。


「どうやって成功出来る人間に変わったのか」


そして少し考え、訂正した。


「いや」


男を見る。


「どうやって、自分達で変わり続けられるようになったのか」


男が、その言葉を書き留める。


パンダはそれを見て笑った。


「それが記録に残す作業にゃ」


未来の誰かが。


また同じところで困った時。


昔の人間が残した文章を読んで。


そこから続きを始められるように。


「お前の書いた本、未来の匂いを感じたにゃよ」






ポルガン

パンダさんてふざけたり意地悪いったりもするけど。

結局は真面目人間なんですよね。

世界をより良くする為に。

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