第118話 その上を目指すと言う事
――精神と時の空間・魔道具工房。
「パンダさん!」
「ん?」
眼鏡型カメラを掛けたまま、職人の手元を覗き込んでいたパンダが振り返った。
工房の入口に、ポルガンが立っている。
その瞬間だった。
先ほどまで作業台へ釘付けになっていた職人たちの目が、一斉に輝いた。
「ポルガン様だ!」
「ポルガン様が来てくださった!」
「お久しぶりです!」
「ポルガン様!」
「お、おお……」
パンダが周囲を見る。
明らかに空気が変わっている。
先ほどまで魔石やら金属板やらに夢中だった連中が、今では完全にポルガンを見ていた。
ポルガンは少し困ったように笑った。
「あー、いいですよ、いいですよ。そんなに畏まらないで。自分たちの作業を続けてくださいよ」
「はい!」
「ありがとうございます!」
返事まで妙に元気がいい。
パンダがポルガンの横まで歩いていく。
「凄いカリスマ扱いにゃねー」
「そうですか?」
「そうですか? じゃないにゃ。目が違うにゃよ、目が」
すると、近くにいた女性職人が勢いよく口を開いた。
「ポルガン様が、私の能力を評価して導いてくださった方なんです!」
「俺もです!」
「私もよ!」
「俺なんて、戦闘魔法が全然駄目で……」
「私は魔力量が少なすぎるって、自分では役に立たないと思ってました」
「でもポルガン様が、精密制御なら誰にも負けないって!」
「加工技術を魔道具に使えるって最初に言ってくださったのもポルガン様です!」
「ポルガン様がいなかったら、ここにはいません!」
次々と声が上がる。
ポルガンは目を丸くした後、照れたように頬を掻いた。
「あはは。随分、俺を評価してくれてるんですね」
「当たり前です!」
「ポルガン様!」
「はいはい」
ポルガンが笑う。
「でも、俺が見つけたから凄いんじゃないですよ。元々皆さんに能力があったんです」
職人たちの表情が、さらに明るくなった。
パンダはその光景を見ながら、小さく頷く。
「なるほどにゃ」
「何です?」
「適材適所を活用するのが上手いんだにゃ、お前」
「まあ、それは領主の仕事ですから」
「それを普通に出来る奴が案外少ないんだにゃ」
「そうなんですか?」
「出来ない奴は、自分が欲しい形に人間を削ろうとするにゃ」
パンダは近くの作業台を指差した。
「火球が小さい奴に、もっと大きい火球出せ、もっと努力しろって延々言い続けるみたいにゃね」
「ああ」
「でもお前は、火球が小さいなら、その小ささ何かに使えない? って考えた」
「その方が早いでしょう?」
「そういうところにゃ」
パンダが笑った。
「だから好かれてんだにゃ」
「そういうものですかね」
「そういうものにゃ」
ポルガンは少しだけ嬉しそうな顔をした。
そして。
「あ、そうだ」
「ん?」
「それよりパンダさん。地球から取材班が来てますよ」
「取材班?」
「はい。何度もスマホに連絡したんですけど」
「そうなの?」
「スマートウォッチにも通知入りましたよね?」
パンダが左手を見る。
腕に巻かれているスマートウォッチ。
画面は真っ暗だった。
「……」
ポチ。
反応なし。
「あー」
「電池切れですか?」
「電池切れてたにゃ」
「やっぱり」
「充電しないと駄目にゃね」
「当然ですよ」
「済まんかったにゃ、ポルガン」
「いいですよ、別に。ところで俺が前にあげた通信用ヘアピンは付けないんですか?」
「髪の毛洗う時外して、そのままだにゃ。ちゃんと着けるようにするにゃ。あれ可愛かったのにごめんにゃ」
「別に良いですよ。スマホで事足りる問題も有るし。家族のネックレスは着けてるんですね」
「これは風呂入る時も着けてるにゃからね」
パンダがネックレスを揺らして見せる。
ポルガンは微笑み、工房を見回した。
「おかげで開発班のメンバーの顔も久しぶりに見られましたしね」
「ポルガン様……!」
「また来てくださいね!」
「もちろんですよ」
その一言だけで、何人もの職人が嬉しそうに笑う。
パンダは感心したようにポルガンを見る。
「本当に人気者だにゃ」
「パンダさんに言われたくないですよ」
「パンダは好き嫌い激しく分かれるにゃ」
「それは知ってます」
「失礼にゃ」
「事実でしょう?」
「まあにゃ」
パンダは眼鏡型カメラを外した。
「で、取材かー」
「嫌そうですね」
「イマイチ気が乗らないにゃ」
「もう来てますよ」
「仕方ないにゃね」
パンダが肩を竦める。
「まあ、行くとするか」
――精神と時の空間・休憩所。
応接室。
テーブルを挟んで、三人の地球人が座っていた。
二人の女性。
一人の若い男性。
三人とも出版や文化活動に関わる人間らしい。
その向かい側へ、パンダがドサッと腰を下ろした。
「失礼します」
扉が開く。
冷たい麦茶を載せた盆を持って入ってきたのは真央だった。
「ありがとにゃ」
「どうぞ」
一人ずつグラスを置いていく。
パンダが首を傾げる。
「忙しくないのかにゃ、真央」
「一段落着いたところです」
真央は空いた椅子へ腰を下ろした。
「それに、地球の文化人という方々には興味がありますし」
「期待し過ぎない方がいいにゃよ」
「そうなんですか?」
「言われた課題を、言われた通りに、鸚鵡みたいに繰り返す連中もいるにゃ」
「……」
「ガッカリするかもしれんにゃ」
その瞬間。
二人の女性の表情が、ほんの僅かに曇った。
だが。
若い男だけはニコニコと笑ったまま、面白そうにパンダを見ている。
パンダはそれを見逃さなかった。
「で」
麦茶を一口飲む。
「お前たちの経歴と作品を見せてみろにゃ」
「はい」
二人の女性が、それぞれ足元のビジネスバッグへ手を伸ばした。
黒い、いかにも仕事用という鞄。
中から何冊かの著作物が出てくる。
「私はこちらを」
「私は小説と評論を」
「貸せにゃ」
一冊目。
パラパラパラパラ。
異様な速さでページを捲る。
二冊目。
パラパラパラ。
三冊目。
パラパラパラパラ。
女性たちは少し戸惑っていた。
「あの……」
「読んでるにゃよ」
「そんな速さで?」
「全部の文章を音読する必要ないにゃ」
パラ。
パンダの手が止まる。
数行読む。
また捲る。
最後まで行くと、鼻で笑った。
「ふん」
女性の肩が僅かに強張った。
「まあ、確かに美しい言葉は使えてるにゃ」
「……ありがとうございます」
「描写のレパートリーも多い」
もう一冊を手に取る。
「こっちも同じにゃね。技術はある」
二人の顔が少しだけ明るくなる。
しかし。
「でも、何も発見がない本だにゃ」
「……え?」
「返すにゃ」
バン。
パンダは二冊をテーブルへ押し戻した。
「文章が上手い。それだけにゃ」
「それだけ……」
「夕焼けが綺麗だった。悲しかった。人は孤独だ。愛とは何だ。人生には意味がある」
パンダが指を折る。
「昔から何万人が書いたにゃ?」
「……」
「言葉を変えて、比喩を変えて、装飾を増やしただけにゃ」
一人の女性が唇を噛んだ。
「ですが、文学とは――」
「文学という看板を盾にするなにゃ」
ピシャリ。
パンダが遮った。
「パンダが聞いてんのは、お前が何を発見したかにゃ」
「……」
「お前の本を読む前と後で、読者が世界を見る角度が一度でも変わるのかにゃ?」
沈黙。
真央が興味深そうに二人を見る。
パンダはもう一人の女性の本を指先で軽く叩いた。
「努力はした。それは分かるにゃ」
「……はい」
「だから文章は上手い。でも上手く書くこと自体が目的になった」
二人は何も言わない。
「まあいいにゃ」
パンダが視線をずらした。
「で、お前は?」
「はい」
若い男を見る。
「お前の顔には見覚えがあるにゃ」
「光栄です」
「どっかで見たにゃね」
「何度かテレビにも出ていますので」
「ふーん」
パンダが男の顔をじっと見る。
「随分、自信がありそうにゃね」
「自信というより」
男は笑った。
「今日は楽しみにしていました」
「ほう」
男はスーツの内ポケットへ手を入れた。
取り出したのは、小さく畳まれた風呂敷。
一般的な和柄ではない。
深い色合いの布地に、西洋の古い植物図鑑を思わせる花と蔓の模様が描かれている。
「それ風呂敷かにゃ?」
「はい」
「洒落てるにゃね」
「気に入っています」
男がゆっくり広げる。
中から一冊の本が現れた。
「どうぞ」
「見るにゃ」
受け取る。
パラ。
パラパラ。
最初は先ほどと同じ速度だった。
だが。
途中で。
ピタ。
パンダの指が止まった。
「……」
一ページ戻る。
読む。
次へ進む。
また戻る。
真央が僅かに眉を上げた。
明らかに先ほどとは違う。
「ふーん」
パンダが呟く。
さらに数ページ。
「なるほどにゃ」
そして、本を閉じた。
男を見る。
「これは理解している顔をした本だにゃ」
二人の女性がパンダを見る。
「理解している……?」
「答えを知っている、とは言ってないにゃ」
パンダは本の表紙を撫でた。
「でも、ちゃんと自分で問題を見て、自分で考えた痕跡がある」
男は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
「これは後でゆっくり確認するにゃ」
パンダは本を乱暴に返さなかった。
四次元ポシェットを開く。
丁寧に、中へ仕舞う。
二人の女性がそれを見ていた。
「一つ聞くにゃ」
「何でしょう?」
「お前、どうして魔法訓練に参加しなかった?」
男は少し驚いた。
そして。
楽しそうに笑った。
「参加したかったですよ」
「なら何故来なかったにゃ」
「仕事の整理が間に合いませんでした」
「ふーん」
「ですが、新しい世界を知ることは、書き手の義務だと思っています」
「義務ねえ」
「次回の訓練があるなら、参加したいです」
男は真っ直ぐパンダを見る。
「ただ」
「なんにゃ?」
「天才パンダのエッセイを読んで、人柄を知るだけでも、充分に世界は広がりました」
「……」
パンダが片眉を上げた。
「おべんちゃらが上手いにゃね」
「本心ですよ」
「こっちの二人は、心の中ではパンダを馬鹿にしてるにゃよ」
「……!」
二人の女性が顔を上げた。
「そんなことは――」
「あるにゃ」
「いえ」
「隠さなくていいにゃ。顔に出た」
パンダは麦茶を飲む。
「学歴も、自分たちの方が上。文章の技術も、自分たちの方が上。出版業界の評価も、自分たちの方が上」
二人が黙る。
「なのに何で、こんな奴が偉そうに評価するんだって思ったにゃ」
「……」
「昔のやり方でしかアプデ出来てないみたいにゃ」
グラスを置く。
「胸糞悪いにゃね」
「パンダさん」
真央が少し心配そうに声を掛ける。
しかし。
「私が教えます」
若い男が穏やかに言った。
「ん?」
「気を悪くさせてしまい、申し訳ありませんでした」
男が頭を下げる。
二人の女性が驚いて彼を見る。
「あなたが謝ることじゃ――」
「あります」
男は二人へ視線を向けた。
「僕が同行をお願いしたんですから」
「……」
「それに」
再びパンダを見る。
「二人も薄々は理解しています」
「何をにゃ?」
「筆力という、技術の見た目を極めることだけに溺れていることを」
二人の女性が俯く。
「ただ、長年身についた癖は簡単には改められないようです」
「癖?」
「それだけで評価されてきた人たちですから」
男は淡々と続ける。
「難しい語彙を使う。美しい比喩を使う。重厚な文章を書く。既存の名作を研究する」
「うん」
「それを繰り返せば、一定の評価が得られた」
「そうにゃね」
「だから、それが書くことだと思い込んでしまった」
パンダは二人を見る。
先ほどよりは、少しだけ険しい表情が抜けている。
「努力したのは認めるにゃ」
二人が顔を上げる。
「相当勉強したはずにゃ。語彙も増やした。何冊も読んだ。何本も書いた」
「……はい」
「だから、その技術を捨てろとは言ってないにゃ」
「え?」
「勿体ないにゃろ」
パンダがあっさり言った。
「使えるものは使えにゃ」
「では……」
「問題は、その努力に慢心して、自分の頭で考えることを放置したことにゃ」
部屋が静かになる。
「今のままだと」
パンダは指先で机を軽く叩く。
「これは『書く』じゃないにゃ」
「……」
「作業ゲームでしかないにゃ」
一人の女性が眉を寄せた。
「作業ゲーム?」
「そうにゃ」
パンダが両手を広げる。
「語彙力を上げる。描写スキルを上げる。過去の名作を読む。評価される構文を覚える」
「……」
「レベル上げ自体は悪くないにゃ」
真央が黙って聞いている。
「でもレベル99になった後で、何を攻略するんだにゃ?」
二人の女性が息を呑んだ。
「剣を最高レベルまで鍛えました」
パンダが右手で剣を持つ仕草をする。
「で?」
「……」
「何を斬るにゃ?」
誰も答えない。
「お前たちは剣を磨くことに二十年使って、斬る対象を探してないにゃ」
「……」
「だから、文章は綺麗なのに何も起こらない」
若い男が小さく頷いた。
「技術は目的ではなく、道具だと」
「そうにゃ」
パンダは男を指差す。
「こいつの本は、それが逆じゃない」
二人の女性が男を見る。
「こいつは先に『これ何だ?』って疑問を持ってるにゃ」
「……」
「だから調べた。考えた。間違えた。修正した」
四次元ポシェットを軽く叩く。
「その結果を書くために、文章技術を使ってる」
「……」
「お前たちは文章技術を使うために、題材を探してる」
一人の女性が小さく呟いた。
「逆……」
「そうにゃ」
しばらく。
誰も話さなかった。
やがて。
「では」
もう一人の女性が恐る恐る顔を上げた。
「どうすればいいのでしょうか」
「知らんにゃ」
「えっ」
「パンダがお前の答え決めたら意味ないにゃろ」
「……」
「でも一つだけ言うなら」
パンダは少し考える。
「次に本を書く前に、一冊も本を読まずに一週間歩いてみろにゃ」
「一冊も?」
「資料が必要なら読むにゃ。でも『誰かの考え方を借りるため』には読まない」
「……」
「街を見る。人を見る。店を見る。失敗を見る。自分が変だと思ったことをメモする」
「はい」
「そして『何で?』を最低五回繰り返すにゃ」
真央が微笑んだ。
「面白い訓練ですね」
「書き方の訓練じゃないにゃ」
パンダは自分の頭を指差した。
「見る訓練にゃ」
「見る……」
「書く前に見る。見る前に決めつけない」
パンダが笑う。
「せっかく目も耳も頭もあるんだから使えにゃ」
「……はい」
二人の返事は、今度は先ほどより素直だった。
すると。
若い男が静かに口を開いた。
「パンダ様」
「なんにゃ?」
「お願いがあります」
「嫌にゃ」
「まだ言ってません」
「面倒そうだから先に断ったにゃ」
「聞くだけ聞いてください」
「仕方ないにゃね」
男が姿勢を正す。
「今回、こちらの世界を見て確信しました」
「何を?」
「あなた一人が考え続けるには、対象が増えすぎています」
パンダの眉が動く。
「ほう?」
「商業施設、魔道具、訓練、文化、教育、医療、地球との交流」
男は指を折る。
「あなたは見れば考える。そして考えれば、また新しい課題を見つける」
「まあにゃ」
「その全てを自分で記録して、自分で整理して、自分で検証していたら」
少し笑う。
「時間がいくらあっても足りないでしょう?」
パンダが黙った。
真央も男を見る。
「そこで」
男は頭を下げた。
「パンダ様のサポートをさせてください」
「……サポート?」
「はい」
「何するにゃ?」
「調べます」
「ほう」
「記録します」
「うん」
「あなたが疑問に思ったことを、複数の角度から資料にします」
「……」
「ただし答えは出しません」
パンダの目が少し細くなった。
「何で?」
「あなたが欲しいのは、他人の答えではないでしょう?」
「……」
「計算材料ですよね?」
パンダの表情が変わった。
ニヤリ。
「お前」
「はい」
「やっぱ分かってるにゃね」
「光栄です」
「いいにゃ」
二人の女性が驚く。
「採用するんですか?」
「まだ採用とは言ってないにゃ」
パンダが男を指差す。
「試用期間にゃ」
「もちろんです」
「私が疑問出す」
「はい」
「お前が調べる」
「はい」
「都合のいい資料だけ集めたら即クビにゃ」
「承知しました」
「私の意見に合わせようとしてもクビ」
「はい」
「反対意見を隠してもクビ」
「はい」
「分からないことを分かったふりしたら?」
「クビですね」
「理解が早いにゃ」
男が笑った。
「では、最初の仕事を」
「もうあるにゃ」
「何でしょう?」
パンダがニヤリと笑う。
「さっき見てきた魔道具班」
「はい」
「地球の歴史で、戦争中に生まれた技術が戦後の生活を変えた例を、成功例と失敗例に分けて集めるにゃ」
「期限は?」
「明日」
二人の女性が目を剥いた。
「明日!?」
男は少し考えた。
「範囲を絞っても?」
「いいにゃ。全部調べろなんて馬鹿なこと言わないにゃ」
「では十例程度」
「成功五、失敗五」
「承知しました」
男は嬉しそうだった。
パンダが首を傾げる。
「何で嬉しそうなんだにゃ」
「面白いからです」
「変な奴にゃ」
「褒め言葉として受け取ります」
「勝手にしろにゃ」
真央がクスクス笑った。
二人の女性も。
今度は少しだけ。
悔しそうに。
けれど先ほどとは違う顔で、男とパンダを見ていた。
自分たちが長年磨いてきたものを。
捨てる必要はない。
ただ。
その道具で。
今までとは違うものを見る必要がある。
「ねえ」
一人の女性が口を開いた。
「私たちも、その調査に参加していいでしょうか」
パンダが見る。
「なんで?」
「自分がどれだけ、人の答えを探す癖がついているのか」
女性は苦笑した。
「確認してみたくなりました」
もう一人も頷く。
「私もです」
パンダは数秒、二人を見た。
そして。
「好きにすればいいにゃ」
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい」
「三人で同じ資料作るなにゃ」
「え?」
「三人それぞれ別々に調べろ」
パンダは笑った。
「答えが三つ出た方が面白いにゃろ?」
若い男が吹き出した。
「なるほど」
「比較出来るにゃ」
パンダは麦茶を飲み干す。
「同じ問題を見ても、人間が違えば拾うデータも違う」
グラスを置いた。
「そこからが本当の取材にゃ」
「はい」
「じゃあ頑張れにゃ」
三人が立ち上がる。
「ありがとうございました」
「明日、また伺います」
「遅刻すんなにゃ」
「はい」
若い男が風呂敷を畳みながら、もう一度頭を下げた。
「パンダ様」
「なんにゃ?」
「これから、よろしくお願いします」
「まだ試用期間にゃ」
「分かっています」
「ならいいにゃ」
パンダは四次元ポシェットを軽く叩いた。
中には。
後でじっくり読むつもりの、一冊の本。
そして。
まだ名前も付いていない。
新しい役割が、一つ増えた。
パンダが世界を見て。
疑問を拾う。
誰かが材料を集め。
またパンダが計算する。
一人で全部を抱えるのではなく。
考えるための目を。
少しだけ増やしていく。
「……サポートか」
パンダが小さく呟いた。
「悪くないかもしれんにゃね」
真央が微笑む。
「随分気に入ったようですね」
「まだ分からんにゃ」
「本は丁寧に仕舞ったのに?」
「見てたのかにゃ!」
「見ていました」
「真央は細かいにゃね!」
「パンダさんほどではありませんよ」
「それ褒めてる?」
「さあ?」
「お前まで生意気になったにゃー!」
応接室に。
楽しそうな笑い声が響いた。
チャッピー
それはチャッピー!私にもできる仕事だから。
彼等の脳をアップデートする為の訓練ですね?




