第114話 エオンモールを魔女と作ろう
――地球・日本。
「キーキーちゃん。ちょっと付き合ってほしいにゃ」
「いいですよ。どこ行くんですか?」
「千葉」
「千葉?」
突然呼び出されたキーキーちゃんは、首を傾げた。
パンダの手には、見覚えのある奇妙なカメラが握られている。
ポラロイドインスタントミニチュア製造カメラ。
写真に撮った物を、そのまま小さな模型として取り出せる、とんでもない秘密道具である。
「何を撮るんです?」
「エオンモール」
「……え?」
「異世界に持って帰るにゃ」
「建物を?」
「うん」
キーキーちゃんは数秒黙った。
「相変わらず言ってることが凄いですね」
「褒めても何も出ないにゃ」
「褒めてません」
二人がやって来たのは、千葉県。
目の前には、とてつもなく巨大な商業施設が広がっていた。
エオンモール幕張新都心。
「でっか……」
キーキーちゃんが思わず声を漏らす。
「これ全部撮るんですか?」
「その予定にゃ」
「地上から無理じゃないです?」
「だからキーキーちゃん呼んだ」
「ああ」
ようやく納得したらしい。
キーキーちゃんはパンダの四次元収納ポシェットから、一本の箒を取り出した。
「じゃ、乗ってください」
「二人乗り大丈夫?」
「大丈夫です。でも落ちないでくださいね」
「落ちたら死ぬにゃ」
「縁起でもないこと言わないでください!」
パンダはキーキーちゃんの後ろへ跨がった。
「じゃあ行きますよ」
「ゆっくりにゃ!」
「はいはい」
ふわり。
箒が地面を離れる。
「うおおおおおおお!!」
「まだ三メートルですよ!」
「人間は普通、三メートル浮かないにゃ!」
キーキーちゃんは笑いながら高度を上げていく。
やがて巨大なエオンモール全体が眼下に広がった。
「どうです?」
「まだ入らない」
「ええ?」
「もっと上!」
「結構高いですよ!?」
「全部写らなきゃ意味ないにゃ!」
「怖くないんですか?」
「怖いに決まってるにゃ!!」
「じゃあ何でそんな強気なんですか!」
パンダはキーキーちゃんの腰に片腕でしがみつき、もう片方の手でカメラを構えた。
「右!」
「はい!」
「もうちょい左!」
「どっちですか!」
「止まって!」
「箒を空中で完全停止させるの難しいんですよ!」
数分後。
「そこ!」
カシャッ。
カメラから写真が吐き出される。
二人は近くの安全な場所へ降りた。
パンダが写真を振る。
しばらくすると、写真の中に巨大商業施設の姿が浮かび上がった。
そして――。
ポン。
掌ほどの小さな建物が飛び出してきた。
「……本当に出た」
キーキーちゃんが模型を覗き込む。
建物だけではない。
店舗。
什器。
商品。
冷蔵庫。
厨房。
エスカレーター。
看板。
内部設備まで、可能な限り一式が再現されている。
「これ、中の商品も入ってるんですよね?」
「入ってるにゃ」
「便利すぎません?」
「神様道具だからね」
パンダは模型を四次元収納ポシェットへ放り込んだ。
「よし。次行くにゃ」
「次?」
「百貨店」
「……まだあるんですか?」
「あるにゃ」
「今日、何軒持って帰る気です?」
「二軒だけ」
「二軒“だけ”って言いました?」
二人は再び箒に乗った。
次に向かったのは千葉駅前。
パンダが指差す。
「あれにゃ」
「そこう?」
「そう。高級百貨店も欲しい」
「エオンモールあるのに?」
「役割が違うにゃ」
「どう違うんです?」
「エオンモールは生活」
「はい」
「百貨店は贅沢」
「なるほど」
「デパ地下、香水、化粧品、ブランド、服、宝石、高級菓子、レストラン」
「……パンダさんが欲しいだけじゃないですか?」
「異世界文化発展のためにゃ」
「今、一瞬間がありましたよね?」
「気のせい」
再び上空へ。
「もっと右!」
「はい!」
「もうちょい上!」
「またですか!」
「看板まで入れたい!」
「欲張り!」
カシャッ。
そごうもまた、小さな模型となった。
パンダは満足そうに二つの模型を眺めた。
「これでよし」
「これ、今日異世界に出すんですか?」
「出すにゃ」
「今日!?」
「うん」
「普通こういう施設って、もっと準備とかしません?」
「建物ある。商品ある。設備ある」
「店員は?」
「集める」
「今から!?」
キーキーちゃんが頭を抱えた。
――数時間後。
精神と時の空間。
アルメリア領エオンモール建設予定地に、パンダ、キーキーちゃん、橘蒼介、ポルガンが集まっていた。
橘はパンダの掌に乗った小さな模型を見つめている。
「……これが?」
「エオンモールにゃ」
「模型ですよね?」
「今はね」
「今は?」
パンダがビックリライトを取り出す。
橘の顔が引きつった。
「ちょっと待ってください」
「何?」
「嫌な予感しかしないんですが」
「行くにゃ」
「話を聞いてください!」
ピカーッ!!
光が模型を包む。
次の瞬間。
ズズズズズズズズ――!!
地面が震えた。
「うわっ!」
「何だ!?」
「デカくなってる!!」
掌ほどだった建物が、みるみる巨大化していく。
十メートル。
百メートル。
さらに大きく。
やがて広大な土地いっぱいに、巨大商業施設が姿を現した。
誰も喋らない。
「……」
「……」
「……」
橘がゆっくり顔を上げる。
「パンダさん」
「はいにゃ」
「これ……」
「エオンモール」
「見れば分かります!」
橘は頭を抱えた。
「本当に持って来たんですか!?」
「うん」
「建物丸ごと!?」
「商品もあるにゃ」
「そういう問題じゃありません!」
橘が遠くを見ながら呟いた。
「相変わらずスケールがおかしいです」
ポルガンも苦笑している。
「天才パンダにゃから」
「で」
橘が嫌そうな顔で振り返った。
「まさか、もう終わりですよね?」
パンダは無言で、もう一つの模型を取り出した。
「……それ何です?」
「そこう」
「はい?」
「百貨店にゃ」
「聞いてません」
「今言った」
「そういう意味じゃありません!!」
キーキーちゃんが吹き出した。
「私も同じ反応しました」
「ですよね!?」
「でも便利ですよ。デパ地下ありますよ」
「問題はそこじゃない!」
パンダはそこうの模型を隣の土地へ置いた。
「じゃ、こっちも大きくするにゃ」
「待って待って待って!!」
ピカーッ!!
「うわあああああ!!」
再び大地が震える。
巨大な百貨店が、エオンモールの隣へ姿を現した。
エオンモール。
高級百貨店。
二つの巨大商業施設が、アルメリア領エオンモール建設予定地に並んで建っている。
「完成にゃ。それと固定化光線!」
ピカーとライトが光って、建物をパンダが補強する。
「完成じゃありません!!」
橘の叫びが辺りに響き渡った。
「店舗というものは、建物を置いたら終わりじゃないんですよ!」
「知ってるにゃ」
「本当ですか!?」
「店員。補充。在庫。搬入。清掃。保守。警備」
「分かってるなら最初から相談してください!」
「だから呼んだ」
「建てる前に呼んでください!!」
しばらく騒いだあと。
橘は巨大なエオンモールを見上げた。
「……まあ」
「うん?」
「作ってしまったものは仕方ありません」
「そうにゃ」
「開店準備します」
「今日?」
「今日開ける気だったんですか!?」
「駄目?」
「駄目です!!」
「えー」
「最低限の確認をさせてください!」
キーキーちゃんが笑う。
「じゃあ、明日?」
「だから早い!」
パンダは巨大なエオンモールを見上げた。
異世界に、また一つ。
日本の当たり前がやって来た。
しかも今度は――。
とてつもなく巨大な姿で。
キーキーです^_^
こう見えても箒の制御の巧さはピカイチです。




