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リア充天才パンダとレオンの異世界日本化計画※毎日20時更新。そんなに全削除して欲しいですか?  作者: ヘタレパンダ


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第106話 梅子イメチェン



 ――異世界・龍の巣。


 研究所。


「パパー!」


「はいはい! 今行くから!」


「パパ!」


「だから三人同時に呼ぶなって!」


 研究所の一角に急遽作られた育児スペースを、雷蔵が右へ左へ走り回っていた。


 人工子宮から出たばかりとは思えないほど、三人の子供たちは元気だった。


 一歳三ヶ月。


 女の子のカナリア。


 男の子のメジロ。


 そして、もう一人の女の子、ウグイス。


「メジロ! そっちは研究室だから入っちゃ駄目!」


「やー!」


「やー、じゃない!」


 よちよち逃げるメジロを雷蔵が追いかける。


 その隙にカナリアは梅子の白衣へしがみつき、ウグイスは――。


「…………」


 アーネストの背後に立っていた。


 長く美しい髪が、ちょうど目の前に垂れている。


 小さな手が伸びた。


 ぎゅっ。


「…………」


 グイッ!


「痛っ!」


 アーネストが振り返った。


「ウグイス」


「きゃはは!」


「離せ」


「やー!」


 さらに引っ張る。


「痛い。離せ」


「きゃははは!」


「雷蔵」


「今メジロ捕まえたところ!」


「お前の娘をどうにかしろ」


「お前も面倒見るって言っただろ!」


「面倒を見るのと髪を引き抜かれるのは別問題だ」


 雷蔵はメジロを抱えたまま駆け寄り、ウグイスの手をアーネストの髪から外した。


「こら、ウグイス。これは玩具じゃないぞ」


「パパ!」


「はい、パパですよ」


 ウグイスまで抱き上げる。


 右腕にメジロ。


 左腕にウグイス。


「ほら! 二人同時に抱っこできるようになった!」


「昨日まで一人で慌てていたのにな」


「俺、成長早いだろ!」


「子供より先にお前が成長してどうする」


「いいじゃん!」


 アーネストは乱れた長い髪を手で整えた。


「…………」


 その髪をじっと見る。


「切るか」


「え?」


 雷蔵が固まった。


「何を?」


「髪だ」


「えええええ!?」


「うるさい」


「本当に切るの!?」


「ああ」


「でも俺、お前の長い髪好きなんだけど!」


「知っている」


「今日だって触ってたじゃん!」


「それも知っている」


「だったら!」


「毎日これをやられてみろ」


 アーネストがウグイスを見る。


「そのうち禿げる」


「…………」


 雷蔵もウグイスを見る。


 ウグイスはニコニコしている。


「…………確かに」


「だろう?」


 すると、少し離れたところで資料を確認していた梅子が顔を上げた。


「なら私も切るか」


「梅子さんまで!?」


「ああ」


 梅子は自分の長い髪を持ち上げる。


「研究中も邪魔だったんだ。子育てまで始まったとなれば、なおさらだな」


 その瞬間。


「ママー!」


 カナリアが梅子へ抱きついた。


「どうした、カナリア」


「だっこ!」


「よし」


 梅子が抱き上げる。


 カナリアは嬉しそうに梅子の首へ腕を回し――。


 長い髪を掴んだ。


「…………」


 梅子が止まる。


 カナリアが引っ張ろうとする寸前、その小さな手を捕まえた。


「なるほど」


「何が?」


「切ろう」


「決断早いな!」


     ◇ ◇ ◇


「というわけで呼んだ」


「いやいやいや」


 数時間後。


 龍の巣の研究所に、とんでもなく場違いな人物が立っていた。


 可愛らしい服。


 綺麗に整えられた髪。


 ぱっと見ただけなら、どう見ても可愛い女の子。


 だが――。


「なんで髪切るためだけに、俺が異世界まで呼び出されてんだよ」


 口から飛び出したのは、低く響く男の声だった。


 誠也である。


 見た目は可愛い女の子。


 声はイケボ。


 そして喋り方は、見た目に反してかなり男らしい。


「悪かったって、誠也」


 雷蔵が笑う。


「こっちは外の一日で十六日進むんだよ。三つ子連れて美容院まで行くより、来てもらった方が早いだろ?」


「俺の時間は普通に進むんだぜ?」


「そこを何とか!」


「仕方ねえな」


 誠也が美容道具を置いた。


 周囲を見回す。


 人工子宮。


 魔道具。


 研究設備。


 白衣姿の研究員たち。


 その真ん中に、美容師用の椅子と鏡が置かれている。


「俺も色んなところで髪切ってきたけどよ」


 誠也はため息をついた。


「人工子宮の横でカットするのは初めてだぜ」


「多分、世界初だよ」


「嬉しくねえ世界初だな」


「で、最初は俺だ」


 アーネストが椅子へ座った。


 誠也が長い髪を手に取る。


「相変わらず綺麗な髪してんな」


「ああ」


「どこまで切る?」


「短く」


「…………マジか?」


「ああ」


「結構いくぞ?」


「構わない」


「ちょっと待って!」


 雷蔵が割り込んだ。


「お前は黙ってろ」


「だって!」


「切られるのは俺だ」


「俺、この髪好きなの!」


「朝から何回言うんだ」


 誠也が笑った。


「雷蔵、お前未練たらたらじゃねえか」


「だって綺麗なんだよ!」


「じゃあ切った髪、残しとけばいいだろ」


「残す?」


 アーネストが頷いた。


「そのつもりだ」


「何に使うの?」


「ウィッグを作る」


「自分の髪で?」


「ああ。モデルの仕事では長髪が必要になることもあるからな」


 誠也も頷く。


「それなら綺麗に束ねて切ってやるよ。自毛なら色も質感も本人そのものだからな」


「頼む」


 雷蔵は少し安心した。


「じゃあ……完全になくなるわけじゃないんだな」


「そういうことだ」


 誠也が髪をいくつかの束に分け、丁寧にまとめていく。


「よし。切るぜ」


「待って!」


「まだ言うのかよ!」


「最後に一回だけ!」


 雷蔵がアーネストの長い髪を手に取った。


 指の間を滑らせる。


「やっぱり綺麗だなぁ……」


「…………」


「本当に好きだったんだぞ」


「髪が?」


 アーネストが鏡越しに雷蔵を見る。


 雷蔵が笑った。


「お前が」


「…………そうか」


 誠也がハサミを構えた。


「お前ら、俺の前でイチャイチャするなら追加料金取るぞ」


「なんでだよ!」


「見せつけ料金だ」


「そんな料金あるか!」


「じゃあ切るぜ」


 ジョキン――。


「あああああ!」


「うるせえ!」


     ◇ ◇ ◇


 長い髪が次々と切られていく。


 誠也のハサミが動くたび、アーネストの印象が大きく変わっていった。


 そして――。


「よし。終わりだ」


 クロスが外された。


「…………」


 雷蔵が黙った。


「どうした?」


 アーネストが振り返る。


 すっきりとした短髪。


 今まで長い髪に縁取られていた整った輪郭が、はっきりと見える。


 美しいという印象が強かった顔立ちに、精悍さが加わっていた。


「…………格好いい」


「そうか」


「いや、めちゃくちゃ格好いい!」


「二回言わなくていい」


「何で短くしても似合うんだよ!」


 誠也が笑う。


「元がいい奴は何やっても似合うんだよ」


「ずるい!」


「モデルだからな」


「自分で言うな!」


 雷蔵はアーネストへ近づき、短くなった髪を触った。


「おお……」


「なんだ」


「こっちもいい」


「結局どっちでもいいんじゃないか」


「アーネストなら何でもいい!」


「…………そうか」


 アーネストは僅かに笑った。


     ◇ ◇ ◇


「次は私だ」


 梅子が椅子へ座った。


 誠也が梅子の長い髪を見る。


「お前もバッサリいくのか?」


「ああ」


「どんな感じにする?」


「研究と育児の邪魔にならない髪型だ」


「それだけか?」


「いや」


 梅子は鏡の中の自分を見る。


「どうせ切るなら、私が一番綺麗に見えるようにしてくれ」


 雷蔵が吹き出した。


「梅子さん、そこ重要なんだ?」


「当たり前だろう」


「研究の邪魔だから切るんじゃなかったの?」


「それとこれとは別だ」


 梅子は胸を張った。


「私は研究者だが、モデルでもあるんだぞ。どうせなら目立つ方がいい」


 誠也がニヤリと笑った。


「そういう注文、俺は好きだぜ」


 梅子の顔を左右から確認する。


「お前ならボブがいいな」


「私もそう思っていた」


「じゃあ決まりだ」


「頼む」


 誠也は梅子の長い髪も丁寧に束ねた。


「これもウィッグにするんだろ?」


「ああ。取っておいてくれ」


「モデルの仕事用か?」


「そうだな。来年一月にはパリへ行く予定もある」


 雷蔵が目を丸くする。


「梅子さん、子育て始まったばっかりだよ!?」


「だから何だ?」


「え?」


「研究もする」


 梅子が指を一本立てる。


「子育てもする」


 二本目。


「モデルもやる」


 三本目。


「全部やればいい」


「全部!?」


「当たり前だ」


 梅子は鏡の中の自分を見ながら続ける。


「それに、この前は深雪お兄ちゃんの方が私よりスポットライトを浴びていたからな」


「まだ気にしてたの!?」


「当たり前だ!」


「そこそんなに重要!?」


「次は私が一番目立つ」


 アーネストが腕を組んだ。


「パリコレは目立つためだけに出る場所ではないぞ」


「分かっている」


「本当か?」


「出るからには一番目立ちたいだけだ」


「同じじゃん!」


 雷蔵が突っ込んだ。


 誠也は楽しそうに笑った。


「いいじゃねえか。俺が目立つ髪にしてやるぜ」


「頼もしいな」


「じゃあ切るぞ」


「ああ」


 ジョキン――。


     ◇ ◇ ◇


 しばらくして。


「できたぜ」


 誠也がクロスを外した。


 梅子が鏡を見る。


 長かった髪は、すっきりとしたボブになっていた。


 軽やかでありながら華やか。


 研究所でも邪魔にならない。


 それでいてモデルとしての存在感も失っていない。


「…………」


 梅子が右を見る。


 左を見る。


 髪を指先で整える。


「どうだ?」


 誠也が尋ねる。


「悪くない」


「そうか?」


「…………いや」


 梅子がもう一度鏡を見る。


 口元が緩んだ。


「かなりいいな」


「だろ?」


 誠也も満足そうに頷いた。


「やっぱお前、ボブ似合うぜ。かなり可愛いじゃねえか」


「そうか?」


「ああ。俺、こういう女好きなんだよな」


「誠也!」


 雷蔵が即座に割って入った。


「なんだよ」


「近い!」


「髪切ったんだから近いの当たり前だろ」


「そういう意味じゃない!」


 誠也が呆れた顔をする。


「俺は褒めただけだぜ?」


「お前、女好きだろ!」


「そうだけどよ」


「ほら!」


「何が『ほら』なんだよ!」


 梅子が二人を見て笑った。


「雷蔵君、嫉妬してるのか?」


「するよ!」


「そうかそうか」


 梅子は妙に嬉しそうだった。


 雷蔵が改めて梅子を見る。


「…………」


「今度はなんだ?」


「梅子さん、可愛い」


「そうか?」


「うん。めちゃくちゃ可愛い」


「そうかそうか!」


 梅子が嬉しそうにボブを触る。


「やはり私の判断は正しかったな」


「誠也の腕じゃないの?」


「私の素材もいい」


「自分で言うんだ!?」


 その後ろから。


「…………」


 アーネストが無言で雷蔵を見ていた。


「何?」


「いや」


「言えよ」


「ついさっきまで俺に『お前が好きだ』と言っていた男とは思えなくてな」


「お前も好きだよ!」


「『も』?」


「そこ拾うなって!」


 誠也が吹き出した。


「雷蔵、お前忙しい奴だな」


「ふん!別に良いだろ!」


     ◇ ◇ ◇


「ママー!」


 カナリアが走ってきた。


「おお、カナリア」


 梅子がしゃがむ。


 カナリアは母親の顔をじっと見た。


 いつもと違う。


 短くなった髪へ、小さな手を伸ばす。


 ちょん。


「…………」


「どうした?」


「ママ、かわいい!」


「…………!」


 梅子の顔が一気に緩んだ。


「そうか! カナリアもそう思うか!」


「かわいい!」


「そうだろう!?」


 雷蔵が目を丸くした。


「梅子さん、今日一番嬉しそう」


 アーネストが淡々と答える。


「目立ちたがりだからな」


「聞こえてるぞ!」


 そこへメジロとウグイスもやってきた。


「ママー!」


「だっこ!」


「順番だ。三人とも来い」


 梅子が笑う。


 一方、ウグイスはアーネストのところへ行き――。


「…………」


 短くなった髪を見上げた。


 手を伸ばす。


 届かない。


「…………」


 もう一度伸ばす。


 やっぱり掴めない。


 アーネストが僅かに笑った。


「残念だったな」


 するとウグイスは――。


 アーネストのズボンを掴んだ。


「…………」


 雷蔵が笑う。


「別のところ掴まれてるじゃん!」


「…………子育てというのは難しいな」


「三つ子だからね!」


     ◇ ◇ ◇


「さて」


 誠也が道具を片付け始めた。


「二人終わったし、俺は帰るぜ」


「あの……」


「ん?」


 一人の女性研究員が、おずおずと手を挙げた。


「私も切ってもらっていいですか?」


「…………」


 誠也の手が止まった。


「まあ、一人くらいならいいぜ」


「私もお願いします!」


 別の女性研究員が手を挙げる。


「俺も!」


「私も!」


「俺もそろそろ切りたかったんだよな」


「私も!」


「…………」


 誠也がゆっくり顔を上げる。


 いつの間にか、研究員たちが並び始めていた。


「ちょっと待て」


 列が伸びる。


「おい」


 さらに伸びる。


「何人いるんだよ!?」


 梅子が平然と答えた。


「研究員なら大勢いるぞ」


「全員切る気か!?」


「せっかく来たんだからいいだろう?」


「よくねえよ!」


 女性研究員が椅子へ座った。


「お願いします」


 誠也がその女性を見る。


「…………まあ、可愛い女なら歓迎だけどな」


「おい!」


 雷蔵が突っ込む。


「お前、本当に分かりやすいな!」


 誠也は女性研究員の髪を確認する。


「どんな感じにしたい?」


「似合うようにお願いします」


「任せろ。最高に可愛くしてやるぜ」


 次に並んでいた男性研究員が尋ねる。


「俺もお任せで」


「はいはい。座れ」


「テンション違いません?」


「気のせいだ」


「絶対違いますよね?」


 研究室に笑い声が響いた。


 やがて。


 研究員の一人が何気なく言った。


「でも、これからも必要ですよね。美容師」


「ん?」


「ここ、外の一日で十六日でしょう? 長期間研究するなら、髪も伸びますし」


「…………」


 全員が黙った。


 梅子が顎に手を当てる。


「確かにな」


 嫌な予感がしたのか、誠也が梅子を見る。


「おい」


「研究所の中に美容室を作るか」


「やっぱりそうなるのかよ!」


「美容師も何人か雇おう」


「勝手に話を進めるな!」


「誠也、責任者をやらないか?」


「やらねえよ!!」


 龍の巣の研究所に――。


 新たに美容室が作られることが決まった。


 人工子宮。


 研究施設。


 育児スペース。


 そして美容室。


「ここ、何の研究所だよ!」


 誠也のイケボが、龍の巣いっぱいに響き渡った。





誠也だぜ

結局、泊まり込みで二日掛けて、30人の研究員の髪を切らされたぜ!

しかも最後は専属契約まで押し切られた。

断ったはずなんだけどな!?

どうなってんだよ、本当にまったく!


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