第11話 東京視察団
レオンが、コンビニ二号店、三号店、四号店、コヌトコ、ワーキュマン、ウニクロの建設に追われている頃。
パンダは泉の前に大きな机を置き、その上に東京の観光案内本を広げていた。
「さてさて。」
「レオンが必死に働いている間に、異世界東京視察団を結成するにゃ!」
遠くの建設現場から、レオンの声が聞こえる。
「僕が働いている間に旅行の計画を立てるなー!」
パンダは聞こえないふりをした。
「深雪!」
「まきちゃん!」
「子供達!」
「異世界東京視察団を案内して、東京にある作って欲しい物を案内しまくるにゃ!」
深雪はすぐに手を挙げた。
「了解でーす!」
まきも笑顔で頷く。
「子供達の面倒は私が見るよ。」
リアが飛び跳ねる。
「東京行く!」
ナルも両手を挙げた。
「アイス食べる!」
桜子も真似をする。
「アイスー!」
深雪は手帳を取り出した。
「じゃあ、視察団のメンバーを募るか?」
「誰を連れていく?」
パンダは指を折りながら答えた。
「法王様。」
「魔王様。」
「各店舗のチームリーダーをしてるエルフ達。」
「村長。」
「ドワーフ。」
「獣人も欠かせないにゃね!」
深雪が頷く。
「都市計画を見るなら、それぞれ違う立場の奴がいた方がいいな。」
「政治担当。」
「商業担当。」
「建築担当。」
「住民代表。」
「ちょうどいいじゃん。」
話を聞いていた魔王が近付いてくる。
「トウキョウとは、勇者達の国にある都市だったな。」
「そうにゃ。」
「人がいっぱい住んでて、店も建物もいっぱいあるにゃ。」
法王も興味深そうに観光案内本を覗き込む。
「この、空まで届きそうな建物は何ですか?」
「高層ビルにゃ。」
「人が住んだり、働いたり、飯を食べたりするにゃ。」
「一つの建物の中で、それほど多くのことを?」
法王は感心したようにページをめくった。
魔王は別の写真を指差す。
「この地下へ下りていく乗り物は何だ。」
「地下鉄にゃ。」
「地面の下を走る電車にゃよ。」
「地中を掘り進んで敵地へ侵入する兵器か?」
「通勤用にゃ。」
「毎朝、何百万人も乗るにゃ。」
魔王の顔が引きつった。
「何百万人が毎朝、地下へ……。」
「恐ろしい国だ。」
深雪は手帳へ視察先を書き始めた。
「まず鈍器ホーテーは絶対だよな。」
「夜中でも何でも売ってる巨大な店だ。」
ドワーフが目を輝かせる。
「武器も売っているのか?」
「鈍器って名前だからな。」
「たぶん期待してるような鈍器は売ってないけど。」
「何でもあるぞ。」
パンダが頷く。
「お菓子、化粧品、家電、衣類、玩具、日用品。」
「店内は迷路みたいにゃ。」
村長が不安そうに尋ねる。
「迷った者は帰って来られるのでしょうか。」
「大抵は帰って来られるにゃ。」
「大抵?」
村長の顔が青ざめた。
深雪は構わず予定を書き足していく。
「ファミレス。」
「回転寿司。」
「牛丼屋。」
「ラーメン店。」
「エオンモール。」
「映画館。」
「国会議事堂。」
「幼稚園。」
「学校。」
「病院。」
「新宿駅。」
「秋派薔薇!」
エルフ達は聞き慣れない言葉に首をかしげた。
「カイテンズシとは何ですか?」
まきが答える。
「お寿司がお皿に乗って、店の中をぐるぐる回ってくるの。」
「料理が自ら移動するのですか!」
「魔法でしょうか?」
「機械だよ。」
エルフ達は顔を見合わせた。
「魔法を使わず料理を動かす……。」
「勇者の国は高度ですね。」
獣人の代表が手を挙げる。
「牛丼屋とは、牛を食べる店か?」
「そうにゃ。」
獣人は一瞬黙った。
「……牛の獣人は連れていかない方が良いのではないか?」
深雪が頷く。
「それはそうだな。」
「今回は猫の獣人にしよう。」
猫獣人の女性が尻尾を揺らす。
「魚料理はありますか?」
「回転寿司があるにゃ。」
「参加します。」
即答だった。
ドワーフは案内本の家電量販店を指差した。
「この建物には何がある。」
「電気で動く道具を売ってるにゃ。」
「冷蔵庫。」
「洗濯機。」
「掃除機。」
「電子レンジ。」
「テレビ。」
「ゲーム機。」
ドワーフは椅子から立ち上がった。
「必ず連れていけ!」
「全て分解して中を調べたい!」
「分解するな。」
深雪が即座に止めた。
「買った物なら好きにしていいけど、店の商品を勝手に分解したら警察に捕まるぞ。」
「警察とは何だ。」
「国の治安を守る組織だ。」
魔王が興味を示す。
「騎士団のようなものか。」
「まあ、近いな。」
「ならば警察署も視察しよう。」
深雪は予定表へ書き足す。
「警察署追加。」
「消防署も見るか。」
「火事を消す専門部隊だ。」
村長が驚いた。
「火事の時に、民が桶を持って集まらなくてもよいのですか?」
「消防車が来るからな。」
「水も大量に出る。」
「それはぜひ導入していただきたい!」
村長は身を乗り出した。
「我が村では昨年、納屋が三棟焼けました!」
「消防署も異世界に作るにゃ!」
パンダが勢いよく決定した。
法王は静かに手を挙げる。
「病院は必ず見学したいですね。」
「我が国では、重い病にかかれば治癒魔法に頼るしかありません。」
レオンが建設現場から叫ぶ。
「病院の視察あるなら僕も行く!」
パンダは振り返る。
「店を作り終わったらにゃ!」
「旅行前に全部作れというのか!?」
「頑張ればできるにゃ!」
「医師を建設業者みたいに使うな!」
深雪は予定表を眺めた。
「学校と幼稚園も外せない。」
「給食。」
「体育館。」
「図書室。」
「保健室。」
「遊具。」
「異世界に必要な物が一気に見られる。」
リアが手を挙げる。
「幼稚園で遊んでいい?」
「視察だからな。」
「少しだけならいいんじゃないか?」
ナルも手を挙げた。
「滑り台!」
桜子も叫ぶ。
「ブランコ!」
まきが三人を見る。
「視察団じゃなくて、遠足になりそうだね。」
深雪は笑った。
「どうせなら遊園地も入れるか?」
子供達が一斉に叫ぶ。
「行くー!」
パンダは腕を組んだ。
「チョット回り過ぎな気がするにゃけど。」
「何日行くんだにゃ?」
深雪は当然のように答えた。
「五泊六日くらいで大丈夫だろ!」
「朝六時から夜十二時まで回れば行ける。」
まきが呆れた顔をする。
「子供がいるんだけど。」
「じゃあ子供組は夜八時まで。」
「大人組は深夜の鈍器ホーテー視察だな。」
「それ視察じゃなくて買い物にゃ。」
魔王は腕を組んで考える。
「五泊六日……。」
「城をそれほど長く空けてもよいだろうか。」
将軍がすぐに答えた。
「ご安心ください、魔王様。」
「コンビニ二号店が開店するのであれば、我々は城を守りながら買い物もできます。」
「留守番する気満々にゃね。」
法王の従者も頭を下げる。
「法王様。」
「都の運営は我々にお任せください。」
「可能であれば、土産にチョコレートをお願いいたします。」
法王は厳かに頷いた。
「承知しました。」
「冷凍庫も買ってきましょう。」
村長は嬉しそうに両手を合わせる。
「東京へ行けば、村を豊かにする方法が学べるのですね!」
ドワーフは興奮して拳を握る。
「新しい建築技術!」
「新しい道具!」
「新しい金属!」
猫獣人は尻尾を大きく揺らしている。
「回転寿司。」
エルフ達も笑顔になった。
「私達も、勇者様の国の接客を学びたいです。」
「本物のコンビニも見てみたいです。」
「制服の着こなしも研究します。」
魔王は静かに立ち上がった。
「よし。」
「異世界東京視察団に参加しよう。」
法王も続く。
「私も参ります。」
「民の暮らしを豊かにするため、勇者の国を学ばせていただきましょう。」
パンダは机の上に飛び乗った。
「決まりにゃ!」
「異世界東京視察団、結成!」
深雪はテレビカメラへ向き直る。
「法王と魔王が一緒に東京観光!」
「いや、東京視察!」
「視聴率取れそうだな!」
テレビクルー達が歓声を上げる。
「密着六日間ですか!」
「特番にできます!」
「異世界人、初めての新宿駅!」
「絶対に迷うぞ!」
「カメラを増やせ!」
まきが不安そうに聞く。
「でも、魔王様や獣人が東京を歩いて大丈夫なの?」
全員が静かになった。
魔王。
法王。
金髪のエルフ。
銀髪のエルフ。
髭だらけのドワーフ。
猫耳と尻尾のある獣人。
どう見ても普通の東京観光客ではない。
深雪はしばらく考えたあと、親指を立てた。
「秋派薔薇なら大丈夫だ。」
「全員コスプレだと思われる。」
パンダも頷いた。
「新宿でも撮影中って言えば何とかなるにゃ。」
魔王が眉をひそめる。
「我はコスプレではない。」
「説明が面倒だから、東京にいる間だけコスプレって事にするにゃ。」
「魔王本人なのにか?」
「東京では、本物の魔王よりコスプレイヤーの方が信じてもらえるにゃ。」
魔王は納得できない顔をしていた。
深雪は勢いよく予定表を掲げる。
「出発は三日後!」
「全員、お金いっぱい持ってこいよ!」
「東京は見る物も多いが、買う物も多い!」
パンダが首をかしげた。
「異世界の金貨は東京で使えないにゃよ。」
全員の笑顔が止まった。
「……。」
「……。」
魔王がゆっくり尋ねる。
「では、どうするのだ。」
パンダは満面の笑みを浮かべた。
「金貨を日本円に両替するにゃ!」
「異世界初の外貨両替所も作るにゃよ!」
遠くの建設現場から、レオンの絶叫が響いた。
「仕事を増やすなああぁぁ!」
こうして法王、魔王、エルフ、ドワーフ、獣人、村長、そして勇者一家による、五泊六日の異世界東京視察旅行が決定した。
その目的は異世界の発展。
ただし、参加者の半分以上は、すでに買い物と食事のことで頭がいっぱいになっていた。
コスプレイヤーの皆様お待たせしました!出番です!
今回は非公開作品では無いので、堂々と読んだと口にして大丈夫です。
イイネ、コメントなど待ってます。




