第95話 魔法訓練・地球のこれまで 後編
地球
2031年11月18日 火曜。
ポルガンの誕生日まで、あと1ヶ月と29日。
そして十九日後――。
龍一番は約二千名の兵士たちを見渡した。
「諸君、ご苦労だった。」
「本日で基礎訓練は終了する。」
兵士たちの顔には、自信が浮かんでいた。
「本来なら、全ての魔道具を極めてもらいたい。」
「しかし、決戦の日は近い。」
「今回は、自分に最も適性のある魔道具を一つだけ選び、専門的に鍛えてもらう。」
教官たちが希望用紙を配る。
京扇子。
京風呂敷。
千代紙。
剣。
銃。
「剣、銃を希望する者は、自分が最も使い慣れた武器を申告せよ。」
「取り寄せ手提げを使い、こちらで回収する。」
兵士たちが一斉にざわめいた。
「世界中どこにあってもですか?」
龍二番は微笑む。
「ああ。」
「持ち主の許可があれば問題ない。」
日本国内だけではない。
アメリカ。
イギリス。
フランス。
ドイツ。
世界各国に保管されている武器を回収するため、教官たちは取り寄せ手提げを取り出した。
「これが噂の天才パンダ様の魔道具!」
兵士たちは息を呑む。
龍二番は静かに説明する。
「持ち主が許可すれば、世界中どこにある物でも取り寄せられる魔道具だ。」
希望する兵士たちは、一人ずつ許可を出していく。
次の瞬間。
鞄の中へ一本、また一本と剣が現れた。
銃も次々と吸い込まれていく。
「すごい……。」
「まるで夢だ。」
誰もが言葉を失っていた。
その日の夕方。
集められた武器は約五百。
取り寄せ手提げごと、精神と時の空間へ運ばれた。
◇
精神と時の空間――。
工房ではリアとナルが机いっぱいに並べられた剣や銃を見つめていた。
「いっぱいあるね。」
リアが苦笑する。
「うん!」
ナルは元気よく頷いた。
「頑張る!」
ユリウスは微笑みながら説明する。
「一本一本、丁寧に魔力を流すのじゃ。」
「武器にも個性がある。」
「急いではならぬ。」
二人は真剣な表情で頷いた。
一本。
また一本。
静かに魔力を流していく。
地球では数時間。
精神と時の空間では、三日目――。
「うぅ……。」
ナルは大きく伸びをした。
「もう飽きたー!」
机へ突っ伏す。
「同じことばっかり!」
リアも黙々と作業を続けていたが、小さく欠伸をした。
幼い二人には、さすがに単調な作業が長すぎた。
ユリウスは苦笑する。
「十分じゃ。」
「ここまでよく頑張った。」
その時だった。
「後は俺達が引き継ごう。」
工房の扉が開く。
ポルガン。
リリー。
真央。
三人が笑顔で入ってきた。
ポルガンはリアとナルの頭を優しく撫でる。
「二人とも、本当によく頑張った。」
「でも……。」
リアは少し申し訳なさそうに俯く。
「まだ終わってないよ?」
リリーが微笑む。
「大丈夫。」
「残りは僕達が仕上げるから。」
真央も笑顔で頷いた。
「リアちゃん、ナル君。」
「花火師さんの工房を見学に行く約束だったでしょう?」
ナルの顔が一気に明るくなる。
「あっ!」
「そうだった!」
リアも笑顔になった。
「舞台の演出も見られるんだよね。」
ポルガンは優しく頷く。
「本物を見ることも、大切な勉強だ。」
「行っておいで。」
「うん!」
二人は元気よく返事をすると、花火師の工房や舞台演出の見学へ向かって駆け出した。
その背中を見送りながら、ポルガンは一振りの剣を手に取る。
「さて。」
「続きを始めよう。」
リリーと真央も隣へ並ぶ。
静かな工房には、再び魔力が流れ始めた。
決戦の日へ向けて。
世界中の兵士たちの相棒となる武器が、一つずつ魔道具へ生まれ変わっていくのだった。
◇
それから一か月半――。
日本・某自衛隊基地。
広大な訓練場では、世界初の魔法部隊が着実に成長を遂げていた。
京扇子部隊は空高く舞い上がり、上空から風魔法で標的を正確に吹き飛ばす。
京風呂敷部隊は小型トラックや発電機を次々と収納し、数キロ先へ瞬時に運搬する訓練を繰り返していた。
千代紙部隊が放った数百羽の折り鶴は、基地上空を旋回しながら偵察を続ける。
剣部隊は魔力を纏った斬撃で鋼鉄製の標的を切り裂き、銃部隊は数百メートル先の的へ魔力弾を正確に撃ち込んでいく。
最初は百均の道具で魔力を制御することすら苦労していた兵士たち。
しかし今では、それぞれが選んだ魔道具を自在に操れるまで成長していた。
龍一番は静かに頷く。
「順調だ。」
龍二番も訓練場を見渡した。
「予想以上じゃ。」
龍三番は微笑む。
「世界初の魔法部隊としては、十分すぎる成長ですね。」
兵士たちは誰一人として、自分たちが世界の歴史を変えようとしていることを知らない。
ただ、大切な誰かを守るために。
今日も黙々と魔法を磨き続けるのだった。
ポルガンです。
チャッピーったら酷いんですよ。
他の魔道具は百個単位で一気に魔力を込めさせていたのに、
剣と銃だけは「一本ずつ魔力を込めろ」なんて言い出したんです。
しかも、三歳児と五歳児にですよ。
「そんなの飽きるに決まってるだろ!」
と、リリーと真央を連れて、急いで仕事を切り上げて工房へ駆けつけました。
……チャッピー、たまには子供の気持ちも考えてあげてくださいね。




