第94話 魔法訓練・地球のこれまで 前編
地球
2031年11月1日 土曜日。
ポルガンの誕生日まで、あと2ヶ月と16日。
午前――。
日本・某自衛隊基地。
普段は演習に使われる広大な訓練場へ、世界各国から集まった約七千五百名の軍人や研究員たちが整列していた。
日本の自衛隊。
アメリカ軍。
イギリス軍。
フランス軍。
ドイツ軍。
その他、多くの国々から選抜された精鋭たちである。
壇上へ姿を現したのは、龍十二兄弟の一番、二番、三番。
世界で初めて、人類へ本格的な魔法を教える教官だった。
龍一番が静かに口を開く。
「諸君、本日は魔法適性試験を行う。」
「魔法は才能だけでも、努力だけでも使えぬ。」
「まずは身体が魔力を受け入れられるかを調べる。」
兵士たちは互いに顔を見合わせる。
昨日まで存在すら信じていなかった魔法。
その世界へ、今まさに足を踏み入れようとしていた。
龍一番、二番、三番はゆっくりと地面へ片手を置く。
次の瞬間。
訓練場全体へ膨大な魔力が流れ込んだ。
「ぐっ……!」
「頭が……!」
「熱い……!」
あちこちで兵士たちが苦しみ始める。
激しい眩暈に耐え切れず、その場へ倒れ込む者。
膝をつきながら必死に意識を保とうとする者。
一方で、何事もなかったように立ち続ける者も大勢いた。
「……終了だ。」
龍一番が静かに告げる。
「立っている者は退場。」
場内がざわついた。
「なっ……!」
「どういうことだ!?」
龍二番が続ける。
「魔力へ反応しなかった者は、今回の訓練対象外だ。」
「倒れた者だけを搬送せよ。」
自衛隊の衛生隊が担架を運び込み、意識を失った兵士たちを次々と医務室へ運んでいく。
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数時間後――。
目を覚ました約二千名の兵士たちは、大講義室へ集められていた。
龍三番が穏やかに微笑む。
「諸君、おめでとう。」
「君たちは第一期魔法訓練兵として選ばれた。」
静まり返っていた室内が、一気にどよめいた。
「倒れた方が……合格?」
「そうだ。」
龍一番は頷く。
「魔力へ身体が適応した証だからだ。」
「これより十九日間、魔法の基礎訓練を行う。」
教官たちが段ボール箱を開ける。
中から取り出されたのは、ごく普通の百円ショップで売られている道具だった。
白い扇子。
プラスチック製の剣。
風呂敷。
折り紙。
「……百均?」
思わず声を漏らす兵士もいる。
龍二番は静かに説明した。
「初心者には、高価な魔道具より百均の道具の方が魔力を制御しやすい。」
「まずは道具ではなく、魔力を操る技術を身につけろ。」
「十九日後、諸君には最も適性の高い魔道具を選んでもらう。」
「その結果をもとに、本物の魔道具を準備する。」
兵士たちの表情が引き締まる。
世界初の魔法訓練が、いよいよ始まろうとしていた。
⸻
⸻
翌日――。
広大な訓練場には約二千名の兵士たちが整列していた。
龍一番が口を開く。
「今日から十九日間、百均の道具を使って魔法の基礎を学ぶ。」
「勘違いするな。」
「百均だから弱いのではない。」
「初心者ほど、余計な魔力が込められていない道具の方が制御しやすい。」
兵士たちは静かに頷いた。
◇
最初の四日間は、扇子だった。
兵士たちは思い思いに扇子を開き、普通に扇ぎ始める。
当然、風は吹く。
「今度は、その風へ魔力を乗せろ。」
龍二番の指示が飛ぶ。
最初は何も変わらない。
しかし、何百回、何千回と繰り返すうちに、扇子から生まれる風が少しずつ強くなり始めた。
紙風船を狙った場所へ飛ばす者。
ろうそくの火だけを消す者。
離れた場所の旗だけを揺らす者。
少しずつ、魔力の制御を覚えていく。
◇
五日目。
配られたのは百均の風呂敷だった。
「今日は収納魔法だ。」
兵士たちは首を傾げる。
「まずは普通に使え。」
弁当箱。
水筒。
煎餅の箱。
誰もが風呂敷で包める程度の荷物を運ぶ。
「では、魔力を流せ。」
最初は何も起きない。
しかし、何度も繰り返すうちに、包んだ荷物が一瞬だけ風呂敷の中へ消える者が現れ始めた。
「成功です!」
歓声が上がる。
収納できる時間は一瞬。
それでも兵士たちは目を輝かせた。
◇
九日目。
今度は折り紙だった。
鶴を折る。
犬を折る。
鳥を折る。
子供の遊びのような訓練に、最初は苦笑する兵士もいた。
「笑うな。」
龍三番が静かに言う。
「式神は戦場では優秀な仲間になる。」
兵士たちは真剣な表情へ変わる。
魔力を込める。
すると、一羽の折り鶴が羽を動かした。
「動いた……!」
小さな歓声が広がる。
十九日後には、多くの兵士が数羽の折り紙を同時に飛ばせるまでになっていた。
◇
十三日目。
プラスチック製の剣。
「剣術ではない。」
「魔力を刃へ流す感覚を覚えろ。」
最初は木人への素振り。
やがて模擬戦。
魔力を流すタイミング。
身体の使い方。
仲間との連携。
兵士たちは汗だくになりながら何度も剣を振った。
◇
十七日目。
最後はBB弾銃だった。
もちろん、本物の銃ではない。
魔力を込める感覚を身につけるための訓練用である。
「的は急いで撃つな。」
「狙い、呼吸を整え、魔力を流せ。」
最初は的を当てるだけだった兵士たちだったが、日に日に破壊力は上がっていく。
◇
十九日目――。
最後の訓練が終わる。
龍一番は兵士たちを見渡した。
「ご苦労だった。」
「諸君は全ての基礎訓練を修了した。」
兵士たちの表情には、自信が浮かんでいる。
「これより希望調査を行う。」
「京扇子。」
「京風呂敷。」
「千代紙。」
「剣。」
「銃。」
「自分が最も力を発揮できると思う魔道具を、一つだけ選べ。」
兵士たちは真剣な表情で希望用紙を書き始めた。
龍二番が最後に告げる。
「希望を集計後、諸君らの実戦用魔道具を準備する。」
「本日の訓練は、これにて終了。」
こうして世界初の魔法訓練兵たちは、次なる段階へ進むことになった。
やっとだ!
やっと基礎訓練の描写が描かれたにゃ
パンダだにゃ!




