第八話 増援
夜空。
雲の上。
二機の大型輸送機が飛行していた。
後部ハッチは完全に開放されている。
轟音。
強風。
その中に立つ二体の巨人。
ヴァルハラ二号機。
ヴァルハラ三号機。
両機の姿は一号機とほとんど変わらない。
全高二十メートル。
漆黒の装甲。
人型機動兵器特有の重厚なシルエット。
胸部には高出力動力炉。
背部には大型推進ユニット。
青白いセンサーアイが暗闇の中で輝いていた。
違うのは機体番号と搭乗者だけ。
三機は同一規格で建造された兄弟機だった。
ノヴァには試作機ごとに性能を変える余裕はない。
整備性。
部品共有。
運用効率。
全てを優先した結果だった。
だが。
同じ機体でも乗り手が違えば戦い方は変わる。
そのコックピット。
二号機パイロットは静かにモニターを見つめていた。
リディア・ヴォルク。
二十七歳。
元空軍試験飛行隊所属。
数多くの新型機試験を担当したエースパイロット。
三年前。
軍上層部の汚職を告発しようとして追放された。
その後ノヴァへ参加。
現在はヴァルハラ二号機専属パイロットだった。
「やっと出番ね。」
リディアは小さく笑った。
「逃げる相手を追うのは得意なの。」
一方。
三号機コックピット。
そこには大柄な男が座っていた。
マックス・ウォード。
三十五歳。
元特殊部隊重火器専門。
複数の紛争地帯を生き抜いた歴戦の兵士だった。
七年前。
アークライト事件の真相を追う中でノヴァへ合流。
現在はヴァルハラ三号機パイロット。
「久しぶりの実戦だな。」
低い声だった。
「空の掃除は任せろ。」
「カイルの邪魔はさせん。」
《起動シーケンス最終段階。》
《全系統正常。》
《降下準備完了。》
青白い光が装甲の隙間を走る。
眠っていた巨人たちが目を覚ます。
その頃。
ノマド。
管制室。
レオンは戦況モニターを見つめていた。
一号機は交戦中。
マーカスは逃走中。
第二迎撃隊も接近している。
時間との勝負だった。
「二号機は追撃任務。」
レオンが命じる。
「三号機は一号機を支援。」
イリスが復唱する。
「了解。」
レオンは続けた。
「マーカスを見失うな。」
「迎撃隊を近づけるな。」
《了解。》
その瞬間。
輸送機内部。
拘束フレームが解除された。
巨大なロック機構が外れる。
ヴァルハラ二号機。
そして三号機。
二体の巨人が前へ踏み出した。
《降下開始。》
二機は夜空へ飛び出す。
自由落下。
数秒後。
背部推進機点火。
青白い光が暗闇を裂いた。
二機のヴァルハラは同時に加速する。
だが進路は異なる。
二号機は逃走するヘリへ。
三号機は迎撃隊へ。
それぞれの任務へ向かっていた。
上空。
アレックス機。
警報が鳴り響く。
《大型熱源二機。》
《高速降下中。》
アレックスの顔が険しくなる。
「一機でも異常だ。」
「それが三機だと……?」
モニターへ映る三つの反応。
一号機。
二号機。
三号機。
未知の兵器が三機。
常識外れだった。
「第二迎撃隊の到着まで持ちこたえろ。」
《了解。》
その頃。
地上。
ヴァルハラ一号機。
カイルも新たな反応を確認していた。
《友軍機接近。》
ATHENAが告げる。
《二号機、三号機。》
カイルは小さく息を吐いた。
「やっと来たか。」
左脚部は損傷している。
長期戦は避けたかった。
その時。
夜空を二つの光が横切った。
巨大な推進炎。
二体のヴァルハラだった。
アレックス隊の頭上を通過する。
「なんだと!?」
僚機が叫ぶ。
アレックスも目を見開いた。
人型兵器が空を飛んでいる。
しかも二機。
二号機はそのまま進路を変える。
逃走するヘリへ向かっていた。
一方。
三号機は迎撃隊の前へ割り込む。
一号機へ向かう迎撃隊を引き受ける。
それが三号機に与えられた任務だった。
マックスは迎撃隊を見据えた。
「さて。」
「仕事の時間だ。」
三号機の両肩が開く。
装甲が展開する。
肩部ハードポイントへ装着された追加ミサイルポッド。
出撃前に取り付けられた支援装備だった。
「散れ。」
マックスが呟く。
「空は通行止めだ。」
「ミサイルだ!」
アレックスが叫ぶ。
次の瞬間。
大量の小型ミサイルが夜空へ放たれた。
無数の光。
迎撃隊へ殺到する。
「回避!」
編隊が散開した。
空が一気に混乱へ包まれる。
アレックスは即座に指示を飛ばす。
「全機、三号機を優先目標とする!」
「包囲を維持しろ!」
「一号機を自由にするな!」
数機の戦闘機が旋回する。
狙いは三号機。
マックスはそれを見て口元を歪めた。
「そうだ。」
「こっちへ来い。」
その頃。
地上。
ATHENAが報告する。
《敵編隊が三号機へ向かっています。》
《一号機への圧力が低下。》
カイルは息を吐いた。
「助かったぞ、マックス。」
損傷した左脚部をかばいながら、
ヴァルハラ一号機は体勢を立て直す。
その頃。
二号機。
リディアは逃走するヘリとの距離を詰めていた。
背部には追加推進剤パック。
追撃任務のために装着された補助装備だった。
ヘリの予測進路を計算する。
最短距離で追い付くための迎撃コース。
あと二キロ。
追加推進剤の残量が減っていく。
あと一キロ。
そして。
ヘリの後方へ到達する。
「見つけた。」
「逃がさない。」
二十メートルの鋼鉄の巨人。
逃走する大型ヘリ。
両者が同じ夜空に並んだ。
ヘリ機内。
護衛たちの表情が変わる。
誰もが理解した。
追いつかれた。
マーカスだけは冷静だった。
モニターに映る二体目の巨人を見つめる。
「これが奴らの切り札か。」
「予想以上だ。」
「七年前には存在しなかった。」
小さく呟いた。
その時。
コックピットへ新たな報告が届く。
「第二迎撃隊、目標空域へ接近中。」
マーカスの目が細くなる。
一方。
アレックス機にも通信が入る。
《第二迎撃隊、あと一分。》
援軍が来る。
だが。
それまで持ちこたえられる保証はなかった。
その頃。
ヘリ後方。
リディアは照準を合わせながら通信を開く。
《二号機より管制。》
《目標を捕捉。》
《追跡を継続します。》
管制室。
レオンは静かに頷いた。
「見失うな。」
《了解。》
巨大な巨人は夜空を駆け続ける。
夜空ではアレックス。
逃走するマーカス。
追撃するリディア。
迎撃隊を抑えるマックス。
そして地上のカイル。
それぞれの戦いは新たな局面へ突入していた。




