第九話 追撃
夜空。
逃走する大型ヘリ。
その後方。
ヴァルハラ二号機。
青白い推進炎を噴きながら追撃を続けていた。
コックピット。
リディアはモニターを睨む。
目標との距離。
八百メートル。
七百メートル。
徐々に縮まっていく。
《追加推進剤残量四十三%。》
機体AIが報告する。
「まだ十分ね。」
リディアは小さく笑った。
「追いかけっこは終わりよ。」
その頃。
ヘリ機内。
護衛たちは緊張した表情で後方モニターを見つめていた。
巨大な人型兵器。
逃げても逃げても追ってくる。
常識ではあり得ない光景だった。
「距離六百メートル。」
「縮まっています。」
報告の声が震える。
マーカスは静かだった。
「慌てるな。」
低い声。
それだけで機内の空気が少し落ち着く。
「回収部隊は。」
「展開中です。」
「第二迎撃隊も接近しています。」
マーカスは頷いた。
まだ終わっていない。
その頃。
上空。
三号機。
マックスは戦闘機隊の動きを監視していた。
ミサイル攻撃によって敵編隊は分散した。
だが。
アレックスは立て直していた。
「全機散開。」
「包囲を維持しろ。」
冷静な指示。
若いが優秀だ。
マックスは笑った。
「腕は本物だな。」
その瞬間。
警報。
敵機接近。
二機の戦闘機が左右から迫る。
機関砲発射。
曳光弾が夜空を裂いた。
マックスは操縦桿を倒す。
百二十トンの巨体が横へ滑る。
弾丸が装甲を掠めた。
火花。
さらに数発が左肩装甲を叩く。
《左肩装甲、軽微損傷。》
《戦闘継続可能。》
「上等だ。」
マックスは低く笑う。
「今度はこちらの番だ。」
三号機は電磁加速ライフルを構える。
巨大な右腕が上がる。
照準固定。
引き金を引いた。
轟音。
青白い閃光。
超高速弾が夜空を貫く。
戦闘機は咄嗟に回避した。
だが。
衝撃波だけで機体が揺れる。
「なんて威力だ!」
アレックスの僚機が叫んだ。
アレックスの目が細くなる。
「直撃は避けろ。」
「奴の火力は危険だ。」
その頃。
施設外周。
ヴァルハラ一号機。
カイルは回収班の撤退経路を守るように警戒を続けていた。
三号機が迎撃隊を引き受けたことで、
ようやく周囲を見る余裕ができた。
《レオンより通信。》
「聞こえてる。」
《必要データの回収は完了した。》
《残存データの削除を継続している。》
カイルは頷く。
「マーカスは。」
《逃走中。》
《二号機が追跡している。》
レオンの声は冷静だった。
だが焦りもあった。
《一号機は回収班を護衛しろ。》
《二号機を孤立させるな。》
「了解。」
カイルは空を見上げる。
「それでも捕まえる。」
短い言葉だった。
その頃。
ノマド。
管制室。
ミアが声を上げる。
「新たな航空反応。」
大型モニターに複数の光点が現れる。
イリスの表情が変わった。
「第二迎撃隊です。」
数は四機。
グレンが低く呟く。
「十分厄介だな。」
通信回線に別の声が入る。
《こちら第二迎撃隊、隊長ハーランド。》
《目標空域へ接近中。》
アレックスが応じる。
「こちらアレックス。」
「敵は三機。」
「一機はヘリを追跡中。」
「一機は我々を妨害している。」
「無理に接近するな。」
《了解。》
第二迎撃隊は速度を上げる。
レオンはモニターを見つめた。
戦場はさらに拡大する。
だが。
ここで退けば全てが無駄になる。
「作戦継続。」
静かな声だった。
誰も反対しない。
その頃。
夜空。
リディアはヘリとの距離をさらに詰めていた。
五百メートル。
四百メートル。
照準円が尾部ローターを捉える。
撃てば飛行能力を奪える。
だが。
レオンの命令は絶対だった。
生け捕り。
それが最優先。
「面倒な注文ね。」
リディアは苦笑する。
その時だった。
警報。
《新規航空反応。》
《高速接近中。》
リディアの表情が変わる。
雲を突き抜けて現れる四つの光。
第二迎撃隊。
戦闘機編隊だった。
「間に合ったってわけ。」
次の瞬間。
四機の戦闘機がヘリと二号機の間へ割り込む。
射線が塞がれた。
ロックオン警報。
コックピットへ警告音が響く。
《敵機、攻撃態勢。》
リディアは舌打ちした。
「邪魔ね。」
あと少しだった。
だが。
追撃はここで終わらない。
ヘリ機内。
マーカスは窓の外を見ていた。
追いすがる鋼鉄の巨人。
割り込む迎撃隊。
そして奪われたデータ。
全てが動き始めている。
「なるほど。」
静かな声だった。
「ようやく盤面が動いたか。」
その目は冷静だった。
まだ自分が負けたとは思っていない。
夜空。
戦闘機。
ヘリ。
ヴァルハラ。
三つの勢力が交錯する。
追撃戦は新たな局面へ突入していた。




