第六話 突破
轟音。
吹き飛んだ防爆扉が屋上へ転がる。
火花。
煙。
チャーリー班が一斉に飛び出した。
「突入!」
サミュエルの号令が響く。
屋上ヘリポート。
強風が吹き荒れていた。
中央には政府専用大型ヘリ。
二基の大型ローターが轟音を響かせている。
機体はすでに浮上を開始していた。
地上から三メートル。
ゆっくりと高度を上げている。
周囲には燃料設備。
大型空調設備。
非常用発電設備。
さらに二十名以上の護衛部隊。
全員が重武装だった。
「敵襲!」
「屋上を死守しろ!」
銃声が響く。
閃光。
火花。
チャーリー班と護衛部隊が激突した。
サミュエルは空調設備の陰へ飛び込む。
「前進!」
「マーカスを逃がすな!」
その瞬間。
隊員が一人倒れた。
「負傷者!」
「足を撃たれました!」
「戦闘継続可能です!」
「止血しろ!」
「だが止まるな!」
相手も国家の精鋭だった。
簡単には突破できない。
その頃。
ヘリ機内。
マーカスは窓越しに屋上を見下ろしていた。
追いつかれた。
だが、まだ逃げ切れる。
「自動削除プログラムは。」
護衛が通信端末を確認する。
「継続中です。」
マーカスは頷く。
その直後だった。
護衛の顔色が変わる。
「待ってください。」
「サーバールームで不正アクセスを検知。」
マーカスの眉がわずかに動いた。
「詳細は。」
「アクセスログが改竄されています。」
「検知が遅れました。」
「一部データが外部へ転送された可能性があります。」
機内が静まり返る。
護衛が続けた。
「回収班との通信が途絶。」
「地下二階の状況確認ができません。」
「状況確認不能です。」
数秒の沈黙。
マーカスは冷静だった。
「残存データを全て破壊しろ。」
護衛が息を呑む。
「物理破壊ですか。」
「ああ。」
「サーバーも記録媒体も全てだ。」
「今すぐ実行しろ。」
「了解。」
マーカスは小さく呟いた。
「やはり狙いはプロメテウスか。」
上空。
アレックス機。
六機編隊は包囲隊形を維持していた。
アレックスは巨大な人型兵器を見つめる。
ヴァルハラ。
未知の兵器。
危険度は極めて高い。
「各機。」
「攻撃準備。」
《了解。》
火器管制システム起動。
ミサイルロック。
その頃。
地上。
ヴァルハラ一号機。
カイルは静かに息を吐いた。
屋上の銃撃戦は聞こえない。
だがATHENAが状況を表示している。
チャーリー班交戦中。
目標ヘリ離陸開始。
時間がない。
その時。
《カイル。》
レオンの通信だった。
《撃墜はするな。》
《時間を稼げ。》
短い命令。
「了解。」
カイルは答えた。
「ATHENA。」
《待機中。》
「威嚇射撃を行う。」
《射撃許可を確認。》
《推奨出力十二%。》
《命中予測範囲、安全。》
ヴァルハラが動く。
二十メートルの巨体が一歩前へ出る。
百二十トンの重量が地面を震わせた。
背部推進機が低く唸る。
巨大な電磁加速ライフルが持ち上がる。
肩部固定ラッチ展開。
補助アーム接続。
腕部アクチュエーター出力上昇。
《射撃姿勢固定。》
《機体安定率九十二%。》
コックピット内へ照準情報が流れ込む。
六機の戦闘機。
その前方空域。
誰もいない場所。
カイルは狙いを定めた。
「これで退いてくれ。」
引き金を引く。
次の瞬間。
ヴァルハラ全身の装甲隙間から青白い光が漏れた。
動力炉出力上昇。
電磁加速器起動。
轟音。
巨大な砲身から閃光が迸る。
超高速弾体が夜空を貫いた。
直撃ではない。
威嚇射撃。
弾体は戦闘機編隊の数百メートル前方を通過する。
しかし衝撃波だけで前方の雲が吹き飛んだ。
夜空に白い軌跡が残る。
上空。
「なんだ今のは!?」
僚機が叫ぶ。
「直撃したら終わりだぞ!」
アレックスは即座に命じる。
「落ち着け!」
「直撃コースではない!」
「隊形を維持しろ!」
六機は再び隊形を整える。
アレックスはヴァルハラを見据えた。
「威嚇のつもりか。」
「だが十分危険だ。」
そして静かに命じる。
「攻撃続行。」
「奴の機動力を奪う。」
屋上。
ヘリはゆっくりと高度を上げ続けていた。
ローターの風圧がさらに強くなる。
護衛部隊は時間を稼ぐように激しく応戦している。
激しい銃撃戦が続いていた。
弾丸が空調設備へ突き刺さる。
火花が散る。
コンクリート片が飛び散る。
サミュエルの視線が一人の男を捉える。
マーカス・ヘイル。
ヘリの機内。
七年間追い続けた男。
ようやくここまで来た。
「マーカス!」
声が響く。
マーカスが振り返る。
二人の視線が交差した。
目の前の男たち。
特殊部隊並みの練度。
軍の記録に存在しない装備。
そして巨大人型兵器。
全てが異常だった。
マーカスはサミュエルを見据える。
「貴様らは何者だ。」
低い声だった。
サミュエルは答えない。
銃口を向けたまま言う。
「質問する立場だと思うな。」
「逃がさん、マーカス。」
ヘリはすでに二十メートル近くまで上昇していた。
距離が開く。
前衛隊員の一人がヘリへ照準を向ける。
サミュエルが叫んだ。
「撃つな!」
「マーカスは生け捕りだ!」
空ではアレックス。
屋上ではサミュエル。
そして地上ではカイル。
三つの戦いは新たな局面へ突入していた。




