第五話 交差する照準
夜空。
アレックスは照準の先にいる巨人を見つめていた。
未知の兵器。
巨大な人型機動兵器。
そしてミサイルを回避した怪物。
「二番機。」
《了解。》
「距離を取れ。」
「奴の性能が分からない以上、接近は危険だ。」
六機の編隊が間隔を広げる。
その動きは冷静だった。
だが緊張は確実に高まっていた。
その頃。
地上。
ヴァルハラ一号機。
《敵機、散開。》
《包囲行動の可能性。》
ATHENAが報告する。
《戦闘データ更新。》
《予測精度67%。》
「少しは賢くなったな。」
《学習結果を反映しました。》
カイルは小さく笑った。
だが次の瞬間、ミアの声が割り込む。
《第二迎撃隊、発進準備を確認。》
「まだ増えるのか。」
ノヴァに残された時間は多くない。
保養施設屋上直下。
最後の防爆扉の前で、サミュエルは壁に背を預けていた。
チャーリー班の隊員たちは爆薬を設置している。
全員が疲労していた。
だが目は死んでいない。
その時。
通信が入った。
《ブラボー班より報告。》
《サーバールーム制圧完了。》
《地下警備部隊を排除。》
《管理班は逃走しました。》
サミュエルは短く頷く。
「損害は。」
《軽傷二名。》
《任務継続可能です。》
「よくやった。」
すると続報が届く。
《データ回収完了。》
《プロメテウス計画関連データを発見。》
サミュエルの目が細くなる。
「本当に見つかったのか。」
《はい。照合中ですが名称は一致しています。》
「レオンへ優先送信。」
「何があっても失うな。」
《了解。》
最低目標は達成した。
あとはマーカスだけだった。
屋上。
大型ヘリのローターが回転している。
風が吹き荒れる中、マーカスは苛立っていた。
「まだか。」
「離陸準備完了まで三十秒です。」
その時、遠くで爆発音が響いた。
マーカスの顔が歪む。
「追いついたか。」
護衛隊長が前へ出る。
「我々が足止めします。」
マーカスは短く答えた。
「時間を稼げ。」
そして別の護衛へ視線を向ける。
「サーバー消去は続けろ。」
「地下二階の管理班へ伝達。」
「通信記録も監視記録も残すな。」
「今夜ここで何が起きたか、何も残すな。」
上空。
アレックスは司令部からの報告を受けていた。
《第二迎撃隊、発進準備中。》
《現空域の指揮は継続して貴官に委任する。》
「了解。」
アレックスは息を整える。
「攻撃隊形へ移行。」
六機が一斉に高度と距離を調整する。
左右へ広がり、ヴァルハラを半円状に包み込む。
《攻撃態勢、完了。》
「脚部への集中攻撃を行う。」
「動きを止める。」
地上。
《敵機動変化。》
《攻撃態勢へ移行。》
《回避のみでの対応は困難。》
カイルは目を閉じた。
レオンの命令。
戦闘機との交戦は避けろ。
だが、このままでは仲間が危険になる。
屋上ではサミュエルが突入寸前。
ブラボー班は命懸けで回収したデータを送信中だ。
守るべきものがある。
《推奨行動。》
《威嚇射撃。》
《命中確率9%。》
《接近阻止確率71%。》
「なるほど。」
撃墜ではない。
時間を稼ぐための一発。
「ATHENA、射撃諸元。」
《計算開始。》
コックピット内へ照準情報が流れ始める。
赤い線。
青い予測円。
敵機の進行ルート。
カイルは呼吸を整えた。
同じ頃。
最後の防爆扉。
サミュエルが腕を上げる。
「三。」
隊員たちが壁際へ身を寄せる。
前衛が盾を構え、後衛が銃口を扉へ向けた。
「二。」
屋上の向こうからローター音が響く。
「一。」
轟音。
爆薬が炸裂し、鋼鉄の扉が吹き飛ぶ。
屋上への道が開いた。
同じ瞬間。
夜空。
ヴァルハラが電磁加速ライフルを持ち上げる。
巨大な砲身が空へ向く。
アレックスの目が細くなった。
「警戒しろ。」
そして短く告げる。
「射撃準備。」
六機の戦闘機が照準を合わせる。
ミサイルロック警報が夜空に響く。
カイルは引き金に指をかけた。
撃てば後戻りはできない。
だが仲間を守るためなら。
「頼む。」
照準が完成する。
屋上ではサミュエル。
空ではアレックス。
地上ではカイル。
三つの戦いが同時に激突しようとしていた。




