第四話 空の騎士
夜空を六つの光が駆ける。
国家航空防衛軍迎撃部隊。
その先頭を飛ぶのはアレックス・ローガン。
高度三千メートル。
編隊は徐々に高度を下げながら目標へ接近していた。
「距離五キロ。」
僚機が報告する。
「目標、依然地上に留まっています。」
アレックスはHUDへ映るデータを確認した。
熱源反応。
機体サイズ。
推定重量。
どれも常識外れだった。
「兵器なら必ず弱点がある。」
アレックスは呟く。
「見つけ出せ。」
その頃。
地上。
ヴァルハラ一号機。
カイルは電磁加速ライフルを構えていた。
巨大な砲身が夜空へ向く。
だが照準は戦闘機を正確には追っていない。
牽制のためだった。
レオンの命令は明確だ。
戦闘機との交戦は極力避ける。
目的はマーカスの確保。
《敵機接近。》
《距離四千。》
《三千五百。》
ミアの声が響く。
同時に別の音声が流れた。
《ATHENA起動。》
ヴァルハラ搭載戦術支援AI。
《脅威分析開始。》
カイルが小さく笑う。
「頼りにしてるぞ。」
《警告。》
《戦闘データ不足。》
《予測精度63%。》
「十分だ。」
上空。
アレックスは異変に気付いた。
「待て。」
編隊が静まる。
「奴は撃とうとしていない。」
「どういう意味です?」
「銃口がこちらを追っていない。」
アレックスの目が細くなる。
「目的は別にある。」
その時。
警告音が鳴り響いた。
《電子妨害を確認。》
《通信品質低下。》
ミアの電子戦が迎撃部隊へ影響を与え始めていた。
アレックスは舌打ちする。
「面倒な相手だな。」
その頃。
保養施設地下二階。
ブラボー班はサーバールーム前へ到達していた。
厚い重装甲扉。
電子ロック。
さらに監視カメラと生体認証装置。
国家安全保障局の中枢施設に相応しい厳重な警備だった。
だが。
《ロック解除。》
ミアの支援だった。
《監視システム無効化。》
《認証偽装完了。》
重い音を立てて扉が開く。
サーバールーム内部。
無数のサーバーラック。
冷却装置の低い駆動音。
そして。
「侵入者だ!」
警報が響いた。
サーバールーム内部には六名の警備要員。
さらに管理端末の前には数名の管理班がいた。
全員が一斉に反応する。
「接触!」
ブラボー班隊長が叫んだ。
銃声。
閃光。
狭いサーバールーム内で短時間の銃撃戦が発生する。
警備要員は精鋭だった。
だがブラボー班もノヴァの実働部隊。
戦闘は長く続かなかった。
「制圧完了。」
「死傷者なし。」
「管理班は奥へ退避しました。」
ブラボー班隊長が報告する。
《了解。》
サミュエルが応じた。
「データ回収を優先しろ。」
「時間はない。」
隊員たちが一斉に端末を接続する。
データ回収が始まった。
一方。
チャーリー班。
マーカス追跡部隊。
防爆扉を突破し、
上層階へ進んでいた。
だが。
階段ホールで武装部隊が立ちはだかる。
特殊警備部隊だった。
「足止めしろ!」
「屋上へ行かせるな!」
銃声が響く。
激しい銃撃戦。
《チャーリー班交戦中!》
《敵防衛線を確認!》
サミュエルが即座に命じる。
「突破しろ。」
「目標はマーカスだ。」
その頃。
屋上。
大型ヘリコプターのエンジンが回転していた。
周囲には追加の警護部隊も展開している。
護衛たちが離陸準備を急いでいた。
マーカスは振り返る。
施設の向こう。
夜空に立つ巨大な影。
ヴァルハラ。
その姿を見た瞬間、
胸騒ぎがさらに強くなった。
マーカスは護衛へ振り返った。
「サーバーは。」
「地下二階の管理班が削除処理を開始しています。」
「全て消せ。」
護衛が一瞬言葉を失う。
「全て……ですか。」
「ああ。」
マーカスの表情は冷たかった。
「通信記録も監視記録も残すな。」
「今夜の記録そのものを消せ。」
護衛は黙って頷いた。
「離陸準備を急げ。」
その時だった。
上空。
アレックス機。
彼は決断する。
「二番機。」
《了解。》
「まず脚部を狙え。」
「二足歩行兵器なら、そこが弱点のはずだ。」
「撃墜する必要はない。」
「機動力を奪う。」
僚機がロックオンする。
ミサイル発射。
白い尾を引きながら夜空を駆ける。
地上。
《ミサイル発射を検知。》
《脅威分析開始。》
ATHENAの声が響く。
《データ不足。》
《予測精度63%。》
《予測着弾まで1.4秒。》
コックピット内へ赤い回避ルートが表示された。
《推奨回避行動を表示。》
カイルが顔をしかめる。
「無茶を言うな。」
《回避成功確率62%。》
「十分だ!」
操縦桿を引く。
背部推進機最大出力。
百二十トンの巨体が横へ跳ぶ。
次の瞬間。
ミサイルが着弾。
轟音。
爆炎。
土砂が吹き上がる。
衝撃波が機体を揺らした。
《左脚部装甲損傷。》
《損害軽微。》
カイルは息を呑む。
直撃していれば危なかった。
「やっぱり速いな……。」
上空。
アレックスはその光景を見ていた。
二十メートル級。
百二十トン。
その巨体がミサイルを回避した。
「馬鹿な。」
僚機が呟く。
だがアレックスは冷静だった。
「やはり兵器だ。」
「しかも極めて危険な。」
その頃。
遠く離れたノマド。
管制室。
大型モニターには、
施設内部。
地上部隊。
ヴァルハラ。
戦闘機部隊。
全てが映し出されている。
グレンがモニターを見つめる。
「派手にやったな。」
レオンは目を離さない。
「分かっている。」
「本来なら潜入だけで済ませたかった。」
静かな声だった。
「だが次はない。」
「今夜を逃せばマーカスは姿を消す。」
グレンは何も言わない。
レオンは続ける。
「だから強行した。」
そして命令を下した。
「作戦第二段階へ移行。」
イリスが即座に伝達する。
「ブラボー班は会議データとプロメテウス関連データの確保を優先。」
「チャーリー班はマーカスを逃がすな。」
「ただし死なせるな。」
レオンは続けた。
「戦闘機との交戦は極力避けろ。」
「目的はマーカスだ。」
「無用な損耗はするな。」
《了解。》
ミアも端末を操作する。
《電子戦継続。》
《敵通信妨害を維持します。》
その瞬間。
カイルは電磁加速ライフルを持ち上げる。
照準を上空へ向けた。
引き金に指をかける。
だが引かない。
レオンの命令が頭をよぎる。
撃てば戦争になる。
だが撃たなければ仲間が危険になる。
施設内部。
サミュエル隊は激戦を突破した。
そして。
屋上へ続く最後の防爆扉へ到達する。
マーカスまであとわずか。
空ではアレックス。
地上ではサミュエル。
そして中央にはカイル。
それぞれの運命が、
今まさに交差しようとしていた。




