第三十五話 警報
甲高い警報音が地下施設へ響き渡る。
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赤い警告灯が点滅する。
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白く照らされていたミーミル・アーカイブは、一瞬で別の場所へ変わっていた。
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無数のサーバーラックが赤く染まる。
冷却装置の低い駆動音。
回転するファンの唸り。
警報音。
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全てが混ざり合い、不気味な空気を作り出していた。
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まるで施設そのものが侵入者を拒絶しているようだった。
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「まずいな。」
サミュエルが呟く。
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「データは。」
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通信担当の隊員が端末を確認する。
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「エドワードの記録を転送中です。」
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転送率。
二十二%。
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その時だった。
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別の隊員がモニターを見つめる。
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「隊長。」
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「どうした。」
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「エドワードの記録です。」
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サミュエルが近づく。
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画面には複数のファイルが表示されていた。
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映像記録 三十四件。
音声記録 十八件。
報告書 百二十七件。
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そして。
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一つのファイル名が目に入る。
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【最終報告書】
【日付:七年前】
【提出先:マーカス・ヘイル】
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室内の空気が変わる。
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「マーカス……。」
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エドワードとマーカス。
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二人は確実に繋がっていた。
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だが詳細を開く前に。
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再び警報音が鳴り響く。
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「くそっ。」
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転送率。
三十五%。
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その時。
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ミアの声が通信機から響いた。
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『施設内部で大規模な部隊移動を確認。』
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『地下区画へ向かっています。』
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サミュエルは地図を確認した。
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赤いマーカーが次々と表示される。
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複数の通路。
複数の部隊。
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包囲を始めていた。
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「数は。」
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『少なくとも二個小隊。』
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『さらに増援が動いています。』
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その時。
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通路の奥から重い金属音が響いた。
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ガコン。
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ガコン。
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防爆扉が順番に閉鎖されていく。
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施設全体が侵入者封鎖モードへ移行していた。
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「逃げ道を塞ぐ気か。」
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サミュエルは舌打ちした。
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アーカイブ内部は広い。
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しかし出口は限られている。
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正面通路。
保守用搬入口。
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どちらもいずれ敵が押さえる。
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転送率。
五十一%。
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隊員たちの表情にも焦りが見え始めていた。
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額を汗が流れる。
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地下施設特有の重苦しい空気。
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迫る警備部隊。
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誰も口には出さない。
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だが。
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このままでは撤退戦になる。
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その頃。
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施設中央管理区画。
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巨大モニターには施設全体の見取り図が映し出されていた。
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赤いマーカーが侵入者。
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青いマーカーが警備部隊。
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施設責任者は静かに状況を見つめている。
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焦りはない。
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まるで侵入者を観察しているようだった。
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「生け捕りを優先しろ。」
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「抵抗した場合のみ発砲を許可する。」
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警備責任者が敬礼する。
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「了解。」
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その時だった。
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施設全体が微かに揺れた。
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大型機が着陸した時のような振動。
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モニターの一部が切り替わる。
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南側格納区画。
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巨大な隔壁が開いていた。
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施設責任者は表示された識別コードを見る。
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そして小さく息を吐いた。
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「予定より早いな。」
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周囲の職員たちの表情が変わる。
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誰もがその意味を理解していた。
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「来たのですか。」
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若い職員が呟く。
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施設責任者は静かに頷いた。
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「到着した。」
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それ以上は語らない。
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だが。
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その場にいた全員が緊張していた。
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アーカイブ内部。
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転送率。
七十八%。
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通路の向こうには複数のライトが見え始めていた。
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銃に装着された戦術灯。
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警備部隊が迫っている。
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そして。
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サミュエルたちはまだ知らない。
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この島へ到着した存在が。
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ミーミル計画そのものに関わる存在であることを。




