第三十三話 地下施設
冷たい雨が降り続いていた。
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サミュエル率いる潜入隊は施設北東部へ向かっていた。
森を抜ける。
フェンス沿いを進む。
監視塔の死角を利用しながら慎重に移動する。
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誰も口を開かない。
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遠くでは巡回車両のライトが揺れている。
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施設全体が厳重な警戒態勢にあった。
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「保守用搬入口まで五十メートル。」
通信担当の隊員が囁く。
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サミュエルは頷いた。
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やがて目標が見えてくる。
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コンクリート製の小さな建物。
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研究棟と比べれば目立たない。
だが地下へ続く搬入口だった。
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入口付近に警備兵はいない。
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「妙だな。」
隊員の一人が呟く。
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サミュエルも同じことを考えていた。
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重要施設ならもっと警備があってもおかしくない。
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だが今は好都合だった。
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「急ぐぞ。」
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隊員が端末を接続する。
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電子ロック解除。
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数秒後。
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「開きます。」
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静かな音と共に扉が開いた。
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冷たい空気が流れ出てくる。
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地下施設。
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サミュエルは先頭で中へ入った。
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長い通路。
コンクリートの壁。
白色照明。
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天井には監視カメラ。
配管。
通信ケーブル。
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研究施設というより軍事施設だった。
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「前進。」
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潜入隊は静かに進む。
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その頃。
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マーカス到着から三十分後。
施設中央管理区画。
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専用会議室。
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マーカスは一人の男と向かい合っていた。
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施設責任者。
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五十代後半と思われる男だった。
灰色の髪。
鋭い目。
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長年この施設を管理してきた者だけが持つ空気があった。
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「久しぶりです。」
マーカスが口を開く。
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施設責任者は小さく笑った。
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「君も忙しそうだな。」
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二人の間には緊張感が漂う。
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「施設襲撃の件です。」
マーカスが言う。
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施設責任者の表情が僅かに変わる。
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「回収部隊は失敗したそうだな。」
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「申し訳ありません。」
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「謝罪は不要だ。」
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男は静かに立ち上がった。
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窓の外。
雨に濡れる施設を見下ろす。
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「問題は誰が持ち出したかだ。」
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マーカスは答える。
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「現在調査中です。」
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短い沈黙。
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やがて施設責任者が呟く。
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「エドワードの関係者かもしれんな。」
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マーカスの目が細くなる。
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「可能性はあります。」
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施設責任者は小さく笑った。
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「血筋という意味ではない。」
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「執念の話だ。」
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「七年前の件を追い続ける者など普通はいない。」
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その言葉にマーカスは何も返さなかった。
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その頃。
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地下施設。
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サミュエルたちはさらに奥へ進んでいた。
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研究室。
保管庫。
管理室。
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どの部屋も異常なほど整然としている。
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「生活感がない。」
隊員が呟いた。
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「最近まで使われていた施設とは思えません。」
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サミュエルも違和感を覚えていた。
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まるで。
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何かを隠すために整理されたような空気。
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その時だった。
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通信担当の隊員が足を止める。
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「隊長。」
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声が震えていた。
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「どうした。」
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隊員は前方を指差した。
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通路の先。
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巨大な防爆扉。
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通常の施設では見かけないほど分厚い。
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そして中央には金属製のプレート。
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そこに刻まれていた文字を見て。
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全員が足を止めた。
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MIMIR ARCHIVE
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ミーミル・アーカイブ。
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サミュエルは眉をひそめる。
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聞いたことのない名称だった。
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だが。
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ここまで来て無関係とは思えない。
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「写真を撮れ。」
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隊員が即座に記録を開始する。
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サミュエルは防爆扉を見つめた。
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この先に。
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七年前の事件へ繋がる何かが眠っている。
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そんな予感がしていた。




