第二十三話 地下区画
重い金属扉がゆっくりと開いていく。
錆びた蝶番が低い音を響かせた。
レオンたちは慎重に内部へ足を踏み入れる。
薄暗い通路。
壁面には古い配線が走り、非常灯がかすかに周囲を照らしていた。
カイルが周囲を見回す。
「思ったより綺麗だな。」
ハンクが壁を軽く叩く。
「定期的に整備されてる。」
「外から見た以上に生きてるな。」
マックスも頷いた。
「誰かが維持している。」
その事実に全員が緊張を強める。
ATHENAの声が響く。
《施設内部マップを構築中。》
《保守通路は地下区画へ接続しています。》
「中央データベースは見つかるか?」
レオンが尋ねる。
《高出力通信設備を検知。》
《施設中央部に情報管理区画が存在する可能性が高いと判断します。》
「そこを目指す。」
レオンは前進を指示した。
地下通路。
静寂だけが支配していた。
誰もいない。
足音だけが響く。
時折聞こえる機械音。
遠くで何かが動いているような低い振動。
施設は確かに生きていた。
カイルが小声で呟く。
「人の気配がないな。」
「警備がいてもおかしくないのに。」
エリックが肩をすくめる。
「逆に気味が悪いな。」
誰も否定しなかった。
数分後。
一行は分岐路へ到着した。
ATHENAが即座に解析する。
《右ルートが中央区画へ最短です。》
《左ルートは研究区画へ接続しています。》
マックスが地図を見つめる。
「目的はデータだ。」
「中央区画を優先する。」
レオンも同意した。
「右へ進む。」
その時だった。
ハンクが足を止める。
「待て。」
全員が振り返る。
ハンクは天井を指差した。
そこには小型監視カメラが設置されていた。
赤いランプが点灯している。
稼働中。
カイルの顔色が変わった。
「監視されてるのか?」
ATHENAが答える。
《現在も作動中です。》
《施設管理システムへ接続されています。》
《監視システムへ限定侵入を開始。》
《映像記録を一時遅延させます。》
マックスが眉をひそめる。
「時間稼ぎはできるってことか。」
《長時間の妨害は困難です。》
《発見される前に目的を達成してください。》
レオンは頷いた。
「急ぐぞ。」
さらに奥へ進む。
やがて一行は小さな管理室へ辿り着いた。
管理室は地下区画の分岐点に位置していた。
正面の通路は施設中央部のデータ区画へ続いている。
背後には彼らが侵入してきた保守用通路。
左右には研究区画へ続く通路が伸びていた。
扉は半開きになっている。
内部には複数の端末が並んでいた。
電源は生きている。
レオンたちは室内へ入り警戒を続ける。
ATHENAが即座に接続を開始した。
《外部端末接続。》
《施設データベースへアクセスを試行します。》
リディアの声が通信越しに聞こえる。
《こっちでも補助する。》
《少し待って。》
沈黙が流れる。
誰も気を抜かない。
ライフルを構えたまま周囲を警戒する。
数秒後。
ATHENAの声が響いた。
《限定アクセスに成功。》
《研究記録を発見しました。》
レオンの携帯端末へデータが転送される。
続いてマックスたちの端末にも同じデータが表示された。
大量の研究記録。
実験ログ。
運用報告書。
その中の一つにレオンの視線が止まる。
『主任研究員 エドワード・アークライト』
父の名前だった。
レオンの呼吸が止まる。
七年前に死んだはずの父。
その記録が今もこの施設に残されている。
「父さん……」
思わず呟く。
ATHENAが続けた。
《対象ファイルを含む関連データ群を検出。》
《回収を開始します。》
転送バーが表示される。
十パーセント。
二十パーセント。
三十パーセント。
その瞬間だった。
施設のどこかで重い音が響く。
全員が顔を上げた。
ATHENAの声が変わる。
《警告。》
《施設警備システム起動。》
赤色灯が一斉に点灯した。
管理室が赤く染まる。
警報音が鳴り響く。
カイルが舌打ちした。
「見つかった!」
《複数の武装反応を検知。》
《こちらへ接近中です。》
マックスが即座に指示を飛ばす。
「データは!?」
《回収率五十パーセント。》
「まだ半分か!」
エリックがライフルを構える。
「来るぞ。」
通路の奥から複数の足音が聞こえてきた。
一つや二つではない。
確実にこちらへ向かっている。
レオンは端末を握り締める。
父の記録。
ここで失うわけにはいかない。
《武装反応接近。》
《到達まで三十秒。》
静寂だった地下施設が、一瞬で戦場へ変わろうとしていた。




