第二十二話 山岳研究施設
翌日。
〇六〇〇。
戦艦ノマド格納庫。
出撃準備が進められていた。
整備クルーたちが慌ただしく動き回る。
輸送コンテナ。
補給物資。
通信中継装置。
地上部隊用装備。
次々と輸送機へ搬入されていく。
レオンたちも装備確認を終えていた。
アサルトライフル。
予備弾倉。
携帯端末。
最低限の戦闘装備のみ。
今回は調査任務だ。
大規模な交戦は想定していない。
ガレスが端末を確認しながら歩いてくる。
「準備完了だ。」
「第二輸送機と第三輸送機は待機位置へ向かう。」
レオンが頷いた。
「機体の状態は?」
「問題ない。」
ガレスは答える。
「マックス機、カイル機、エリック機は出撃可能状態だ。」
「すでに輸送機へ搭載済みだ。」
格納庫の奥では三機のヴァルハラが固定アームに保持されていた。
今回の任務では投入しない。
だが緊急時に備え、別ルートで現地付近へ輸送される予定だった。
エリックが機体を見上げる。
「出番がなきゃいいんだがな。」
「そう願いたいな。」
マックスが答えた。
その少し離れた場所。
リディアは修理中の機体を見上げていた。
左腕部装甲はまだ外されたままだ。
レオンが近付く。
「悪いな。」
リディアは肩をすくめた。
「今さらよ。」
「でも戻ってきたら真っ先に出撃するから。」
「分かってる。」
レオンは笑った。
「その時は頼む。」
搭乗案内が響く。
調査隊は輸送機へ向かった。
数分後。
輸送機内部。
向かい合う座席に調査隊が座っている。
レオン。
マックス。
カイル。
エリック。
ハンク。
そして十数名の地上部隊。
機内には低いエンジン音だけが響いていた。
カイルが端末を見ながら呟く。
「二時間か。」
「意外と短いな。」
マックスが答える。
「潜入任務だ。」
「長居する方が危険だ。」
ハンクが鼻を鳴らした。
「見つかったら終わりだからな。」
レオンは地図を見つめる。
目的地。
ミーミル計画関連施設。
今回の任務は戦うことではない。
真実を持ち帰ることだ。
輸送機は雲海を抜けていった。
しばらくして。
山岳地帯上空。
険しい岩山がどこまでも続いている。
深い森林。
切り立った崖。
人の気配はない。
操縦士の声が響いた。
「間もなく降下地点に到着します。」
モニターに地図が表示される。
施設から約五キロ離れた地点。
先行偵察隊が確保したポイントだった。
ATHENAが補足する。
《現在まで敵の索敵反応なし。》
《潜入ルートは維持されています。》
マックスが頷く。
「予定通りだな。」
輸送機はゆっくり高度を下げていった。
数分後。
降下地点。
後部ハッチが開く。
冷たい山風が吹き込んだ。
地上部隊が先に降りる。
周辺警戒。
通信中継装置設置。
撤収地点確保。
訓練された動きだった。
地上部隊隊長が敬礼する。
「周辺警戒は我々が担当します。」
「頼む。」
レオンは短く答えた。
全員が降下を終える。
やがて輸送機は待機空域へ向けて飛び去った。
周囲には森林しかない。
施設の姿もまだ見えなかった。
マックスが腕時計を見る。
「ここから一時間……いや、四十分ほどか。」
「余裕はないな。」
「急ごう。」
レオンが先頭に立った。
森林地帯。
調査隊は山道を進む。
枝葉をかき分けながら慎重に移動する。
誰も無駄口を叩かない。
時折聞こえるのは鳥の鳴き声だけだった。
四十分ほど進んだ頃。
ATHENAが静かに告げる。
《目標施設まで五百メートル。》
《前方に開けた場所があります。》
レオンは手を上げた。
全員が停止する。
慎重に前進する。
そして。
森林の切れ目から巨大な建造物が姿を現した。
カイルが思わず息を呑む。
「でかいな……。」
岩山に埋め込まれた巨大施設。
高いフェンス。
監視塔。
巡回車両。
偵察報告通りだった。
むしろ実物はそれ以上の威圧感を放っている。
ハンクが低く呟く。
「研究施設には見えねぇな。」
「要塞だ。」
エリックも同意した。
レオンは施設を見つめた。
七年前。
父が命を落とした事件。
ミーミル計画。
その答えがあの中にあるかもしれない。
自然と拳に力が入る。
レオンは双眼鏡を下ろした。
「正面は無理だな。」
ATHENAが答える。
《保守用通路まで二百十メートル。》
《警備要員の接近なし。》
マックスが頷く。
「行こう。」
十分後。
崖下。
苔むした岩壁の中に人工物が埋もれていた。
金属製の扉。
非常用通路を示す薄れた標識。
長年放置されているようにも見える。
だが。
ATHENAが即座に反応する。
《施設識別コードを確認。》
《ミーミル計画関連設備と一致。》
レオンは扉へ近付いた。
静かに周囲を確認する。
敵影はない。
マックスが小声で言う。
「内部にもいるのか。」
その瞬間。
ATHENAの声色が変わった。
《警告。》
全員の動きが止まる。
《扉の向こう側から複数の生体反応を検知。》
カイルの表情が強張る。
「警備か?」
《不明。》
《ですが施設内部に人員が存在します。》
放棄された施設ではない。
誰かが今もこの場所を使っている。
レオンはゆっくりと扉を見つめた。
父が追っていた真実。
ミーミル計画。
その全てが、この先にあるかもしれない。
レオンはライフルを構えた。
「行くぞ。」
マックスたちも頷く。
重い金属扉がゆっくりと開いていく。
その先には暗闇が広がっていた。




