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第十九話 反省会

戦闘翌日。


戦艦ノマド。


艦内食堂。


昼時を過ぎた食堂は比較的静かだった。


出撃を終えた整備員たち。


休憩中の乗組員たち。


それぞれが思い思いの時間を過ごしている。


食堂の一角。


ヴァルハラ隊のメンバーが集まっていた。


テーブル中央には戦闘記録用端末。


昨日の戦闘映像が映し出されている。


だが。


そこにレオンの姿はない。


「艦長は?」


カイルが周囲を見回す。


マックスが肩をすくめた。


「ブリーフィングだ。」


「今頃仕事に埋もれてる。」


リディアが苦笑する。


「艦長も楽じゃないわね。」


短い笑いが起きる。


だが。


すぐに空気は引き締まった。


敗北。


その結果が重くのしかかっている。


「敵の加速性能。」


沈黙を破ったのはリディアだった。


不機嫌そうに眉を寄せながら映像を操作する。


「予想の一・五倍。」


「正直あれは想定外だった。」


端末にはヴァイスの機動データが表示される。


異常な加速。


急停止。


再加速。


何度見ても理解し難い。


マックスは椅子に深く腰掛けたまま腕を組んでいた。


「機体性能だけじゃない。」


「操縦も異常だった。」


「まるで先読みされてるみたいだったな。」


カイルは映像を見つめる。


何度見返しても同じだった。


あと少し。


本当にあと少しだった。


拳が自然と握られる。


あの瞬間。


あと一秒早ければ。


結果は違っていたかもしれない。


その時だった。


「で?」


誰かが鼻で笑った。


全員の視線が向く。


壁にもたれながら腕を組む男がいた。


短く刈り込まれた金髪。


鋭い灰色の瞳。


口元には薄い笑み。


だがその目は笑っていない。


人を値踏みするような視線が向けられていた。


エリック・ローウェル。


ヴァルハラ四号機のパイロットだった。


「結局逃がしたんだろ?」


空気が冷える。


リディアが眉をひそめた。


「言いたいことがあるなら言いなさいよ。」


エリックは肩をすくめる。


「事実だろ。」


「任務失敗。」


「違うか?」


誰も反論できない。


結果だけ見ればその通りだった。


マックスが静かに立ち上がる。


「言いたいことはそれだけか。」


エリックは鼻で笑った。


「失敗した理由探しをして何になる。」


「次に勝てばいい。」


乱暴な言い方だった。


だが。


その言葉には迷いがなかった。


「俺が出てれば落としてた。」


傲慢。


しかし実力に裏付けられた自信だった。


その瞬間。


「黙れ。」


食堂の奥から低い声が響いた。


視線が集まる。


そこにいたのは大柄な男だった。


食堂の椅子が小さく見えるほどの体格。


日に焼けた顔には無数の古傷が残っている。


だが。


その表情は意外なほど穏やかだった。


鋭い目付きの奥に余裕がある。


長年戦場を生き抜いてきた人間特有の空気を纏ってい

た。


ハンク・グラント。


予備隊所属のヴァルハラパイロットだった。


「帰ってきた奴に言う台詞じゃねぇ。」


エリックが睨み返す。


「事実を言っただけだ。」


「甘いな。」


エリックが吐き捨てる。


「戦場で結果以外に何がある。」


「あるさ。」


ハンクは即答した。


「帰ってくることだ。」


食堂が静まり返る。


ハンクは続けた。


「死んだら次はない。」


「負けても生きて帰れば次がある。」


「俺はそういう連中を何人も見てきた。」


エリックは黙る。


しばらく睨み合いが続く。


やがて。


「チッ。」


舌打ち。


それ以上は何も言わなかった。


空気が少しだけ和らぐ。


ハンクは再び席へ座った。


「続けろ。」


リディアがため息を吐く。


「ありがと。」


そして映像を再生する。


白い機体。


ヴァイス。


異常な機動性能。


何度見ても理解できない。


マックスが画面を指差した。


「ここだ。」


映像が停止する。


敵機が回避する瞬間。


「反応が早すぎる。」


「AI補助の可能性がある。」


カイルが呟く。


「ATHENAみたいな?」


「いや。」


マックスは首を振った。


「もっと戦闘特化型だ。」


沈黙。


もし本当にそうなら。


次はさらに厄介になる。


エリックが口を開く。


「だったら先に潰す。」


「相手が学習する前にな。」


短い言葉だった。


だが。


誰よりも真剣だった。


その時だった。


「おう。」


聞き慣れた声が響く。


食堂の入口に立っていたのはガレスだった。


油汚れの付いた作業服。


腕には整備用端末を抱えている。


リディアが嫌そうな顔をした。


「何よ。」


ガレスは肩をすくめる。


「悪い知らせだ。」


「聞きたくない。」


即答だった。


だがガレスは構わず続ける。


「二号機。」


「修理に二週間。」


食堂に沈黙が落ちる。


リディアは机に突っ伏した。


「最悪……。」


ガレスは苦笑する。


「腕一本で済んだんだ。」


「贅沢言うな。」


「誰のおかげだと思ってる。」


ガレスは不満そうに鼻を鳴らした。


マックスが吹き出す。


カイルも思わず笑う。


ハンクまで笑っている。


リディアだけが不満そうな顔をしていた。


「笑い事じゃないんだけど。」


ガレスは肩をすくめた。


「文句は敵に言え。」


食堂に小さな笑いが広がる。


敗北した。


だが。


誰も下を向いてはいない。


課題は見えた。


敵の強さも分かった。


次に戦う時は。


もっと上手くやれる。


そんな空気がそこにはあった。


やがて反省会は終わる。


乗組員たちが席を立ち始める。


エリックも立ち上がった。


去り際。


一度だけカイルを見る。


「次は足引っ張るなよ。」


挑発的な言葉。


だがその目には僅かな期待も混じっていた。


カイルは苦笑する。


「そっちこそ。」


エリックは鼻で笑った。


そして食堂を後にする。


残されたメンバーもそれぞれの持ち場へ戻っていった。


戦いは終わった。


だが。


白い機体。


ヴァイス。


あの戦いは終わっていない。


誰もがそう感じていた。


次に遭遇した時。


今度こそ決着をつける。


その思いだけは全員が共有していた。


一方その頃。


レオンはまだ知らない。


七年前の真実へ繋がる扉が。


少しずつ開き始めていることを。


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