第十六話 ヴァイス
最前線空域。
夜空。
二機のヴァルハラと二機の敵機が向かい合う。
その数キロ先では大型ヘリが離脱を続けていた。
残された時間は少ない。
先に任務を果たした方が勝つ。
ATHENAが報告する。
《敵指揮機を最優先脅威と判定。》
《危険度上昇。》
マックスは静かに息を吐いた。
視線の先。
白いラインが機体各所を走る敵機。
ヴァイス。
異様な存在感だった。
まるで夜空に溶け込む亡霊。
その時。
残る護衛機が前へ出た。
リディアの進路を塞ぐ。
ATHENA。
《敵護衛機、迎撃行動。》
《指揮機支援を優先していると推定。》
リディアは笑った。
「つまり私が邪魔ってことね。」
護衛機が発砲。
リディアも回避機動へ移る。
二機の距離が一気に縮まった。
一方。
ヴァイスは静かに機首を向ける。
狙いはマックス。
次の瞬間。
白線が走った。
加速。
消えた。
「っ!」
マックスは反射的に回避する。
轟音。
超高速弾が脇を通過した。
続く二射。
三射。
火花。
三号機の装甲が削られる。
ATHENA。
《被弾。》
《右側装甲損傷。》
《戦闘継続可能。》
マックスは歯を食いしばる。
「まだ見えないか。」
ATHENA。
《敵機機動予測成功率四十二パーセント。》
低い。
まだ捉え切れていない。
その頃。
最前線から数キロ後方の空域。
カイルは最後の敵機と交戦していた。
燃え上がる敵機が夜空へ散る。
第二迎撃隊最後の一機。
爆発。
ATHENA。
《第二迎撃隊排除完了。》
カイルは前方を見た。
遠くの夜空には無数の光が瞬いている。
リディアとマックスが戦う空域だった。
「前線は?」
ATHENA。
《二号機および三号機交戦継続中。》
《目標ヘリ離脱中。》
カイルは操縦桿を強く握る。
「間に合え……!」
推力上昇。
一号機が夜空を駆ける。
だが。
最前線は遠い。
その頃。
最前線よりさらに前方。
厚い雲を抜けつつある大型ヘリ内部。
追撃圏離脱まで残りわずか。
マーカスは戦況モニターを見つめていた。
画面にはヴァイス。
そしてノマド部隊。
双方の位置が表示されている。
護衛兵が報告する。
「追撃機なお接近中。」
マーカスは静かに頷く。
「作戦は順調です。」
暗号通信を開く。
短い沈黙。
やがて。
声が返ってきた。
「回収物は?」
マーカス。
「確保しています。」
数秒の沈黙。
そして。
「継続しろ。」
通信終了。
マーカスは小さく息を吐いた。
「了解しました。」
再び最前線。
爆発の閃光が夜空を照らす。
リディアはなおも護衛機と撃ち合っていた。
照準。
発砲。
しかし。
弾丸は逸れた。
リディアが舌打ちする。
「やっぱり左腕か。」
被弾の影響。
照準精度が落ちている。
護衛機が反撃。
機関砲弾が夜空を裂く。
リディアは急旋回。
機体姿勢を変える。
左腕に頼らない。
機体全体で照準を合わせる。
再び発砲。
一射。
二射。
三射。
四射目。
弾丸が護衛機の脚部を吹き飛ばした。
火花。
機体が大きく傾く。
「もらった!」
追撃。
轟音。
敵護衛機が爆散した。
ATHENA。
《敵護衛機撃破を確認。》
リディアは息を吐く。
「これで一対一。」
視線を向ける。
ヴァイス。
そしてマックス。
二機の戦いは続いていた。
ヴァイスが加速する。
白線。
閃光。
超高速弾。
マックスが回避。
反撃。
だが当たらない。
ATHENA。
《予測成功率四十七パーセント。》
わずかな上昇。
それでも足りない。
マックスは笑った。
「厄介だな。」
その時。
通信が開く。
リディア。
「マックス!」
「そっち行く!」
「遅い。」
「うるさい。」
二機のヴァルハラが並ぶ。
対するは。
白線のエース。
ヴァイス。
三機が夜空で交差した。
遠方。
厚い雲の向こう。
大型ヘリが夜の闇へ消えようとしていた。
ATHENAが報告する。
《目標ヘリ、追撃圏外到達まで三十秒。》
リディアが舌打ちする。
「まだ届く!」
推力最大。
二号機が加速する。
だが。
その進路へ。
白線が走った。
ヴァイス。
超高速で割り込む。
轟音。
弾丸が二号機の目前を横切った。
リディアは咄嗟に回避する。
「邪魔!」
さらに三号機。
マックスも狙撃を試みる。
しかし。
ヴァイスは正確だった。
一発。
二発。
三発。
マックスは回避を強いられる。
ATHENA。
《進路妨害継続。》
《追撃不能まで十五秒。》
遠方。
雲海の中へ大型ヘリが消えていく。
機影は見えない。
モニター上の識別信号も徐々に弱くなる。
リディアは歯を食いしばった。
「あと少しだったのに……!」
ATHENA。
《目標ヘリ、追撃圏外へ到達。》
沈黙。
任務失敗。
その瞬間。
ヴァイスの動きが変わった。
機首がわずかに下がる。
攻撃姿勢を解除。
ATHENA。
《敵指揮機行動変化。》
《離脱行動と推定。》
ヴァイスは一瞬だけ速度を落とした。
白いセンサーアイが二機を捉える。
まるで品定めをするように。
短い静止。
そして。
再加速。
白線が夜空を切り裂く。
一瞬で距離が開いた。
リディアが眉をひそめる。
「撤退?」
「ヘリが逃げたから?」
マックスは静かに照準を下ろした。
「違う。」
「任務を終えたんだ。」
遠ざかる白線。
夜空の闇へ消えていく。
マックスはその背中を見つめた。
「次は逃がさない。」
誰に聞かせるでもなく呟く。
そして。
戦場には燃え尽きない残骸と。
任務失敗という現実だけが残った。




