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第十四話 回収部隊

最前方空域。


逃走する大型ヘリの周囲。


回収部隊四機とヴァルハラ二号機が激しく空域を奪い合っていた。


ヘリはなおも離脱を続けている。


ヴァルハラ二号機。


リディアは接近する敵を見据えていた。


ヘリとの距離。


すでに六百メートルを超えている。


ヘリ前方。


四つの機影。


黒い艶消し塗装。


細長い機体。


鋭く伸びた機首。


異様に薄い主翼。


速度だけを追求したような機体設計。


さらに機首下部には大型砲身。


通常の戦闘機とは明らかに異なる存在だった。


その中で。


一機だけが前へ出る。


機首に走る白い一本線。


ATHENAの表示が赤く変化した。


《脅威判定更新。》


《敵指揮機を確認。》


《最大脅威と認定。》


リディアは口元を歪めた。


「なるほど。」


「白線機が隊長ってわけね。」


その時。


敵編隊から通信が発せられた。


低い男の声。


《目標を足止めする。》


《撃墜は不要だ。》


短い命令。


それだけだった。


護衛機三機が即座に散開する。


ATHENAが報告する。


《敵部隊による統制行動を確認。》


《指揮能力は高いと推定。》


次の瞬間。


白線機が加速した。


速い。


まるで弾丸。


二号機へ一直線に迫る。


《高エネルギー反応。》


《敵指揮機、発砲。》


轟音。


超高速弾。


リディアは反射的に回避する。


弾丸が機体脇を通過した。


だが。


護衛機三機も同時に動く。


《敵機接近。》


《包囲行動を確認。》


「邪魔!」


一機の護衛機が接近する。


リディアは即座に照準を合わせた。


電磁加速ライフル。


発砲。


弾丸が護衛機の主翼を貫く。


火花。


機体が大きく姿勢を崩した。


ATHENAが報告する。


《敵護衛機一機、戦闘能力喪失。》


リディアが笑う。


「まず一機!」


その瞬間。


白線機が割り込んだ。


超高速機動。


護衛機と二号機の間へ飛び込む。


そして。


発砲。


轟音。


リディアは咄嗟に回避した。


ATHENAが警告する。


《敵指揮機による援護を確認。》


残る護衛機が損傷機を回収するように離脱していく。


リディアの表情が険しくなる。


「仲間を見捨てないってわけ。」


白線機。


ただ速いだけではない。


部隊全体を見ている。


ATHENAが解析を続ける。


《敵指揮機回避率91.4%》


《高性能機体を使用している可能性。》


《純粋な操縦技術のみではないと推定。》


リディアは眉をひそめた。


「厄介ね。」


「機体もパイロットも一級品ってわけ。」


その頃。


リディアたちから約八キロ後方。


第二迎撃隊との交戦空域。


ヴァルハラ一号機。


カイルはなおも敵機三機を引きつけていた。


ミサイル警報。


機関砲。


夜空を火線が走る。


だが。


意識は最前方空域へ向いていた。


リディア。


通信が入る。


ミアだった。


《二号機、交戦継続中。》


《敵四機。》


《うち一機を最大脅威と判定。》


カイルが叫ぶ。


「状況は!?」


《敵護衛機一機が戦闘不能。》


《しかし二号機は依然劣勢です。》


ノマド管制室。


重い沈黙が落ちる。


レオンが静かに口を開いた。


《全機へ通達。》


《二号機は現状戦力で持ちこたえろ。》


イリスが振り返る。


「レオン……。」


レオンは続けた。


《一号機は第二迎撃隊を拘束。》


《三号機は救援を継続。》


《現行作戦を維持する。》


カイルの表情が変わる。


「待ってください!」


《異論があるのか。》


「リディアを見捨てる気ですか!」


《落ち着け、カイル。》


「落ち着いていられるか!」


「四機相手なんですよ!」


レオンの声は変わらない。


《分かっている。》


《だからこそお前は動くな。》


「何でです!」


《第二迎撃隊を見ろ。》


《お前が離脱した瞬間、奴らは最前線へ向かう。》


《そうなれば二号機だけの問題ではなくなる。》


カイルは唇を噛む。


レオンは静かに続けた。


《感情で戦況は変わらん。》


《だが二号機を見捨てるつもりもない。》


《それでも耐えろ。》


《それがお前の任務だ。》


ATHENAが告げる。


《離脱ルート封鎖。》


《支援行動は不可能です。》


カイルは前方の敵機を睨む。


仲間が危険なのに。


何もできない。


その事実だけが苛立ちを募らせた。


その頃。


回収部隊の後方。


逃走を続ける大型ヘリ内部。


マーカスは戦況報告を受けていた。


「回収部隊、交戦継続中。」


護衛が報告する。


「目標の足止めに成功しています。」


マーカスは窓の外を見る。


遠く。


戦うヴァルハラ二号機。


護衛が確認する。


「ヴァイス隊長ですね。」


マーカスは静かに頷いた。


「ああ。」


「ヴァイスなら問題ない。」


「彼は任務を失敗しない。」


その信頼は絶対だった。


その頃。


最前方空域。


大型ヘリ周辺。


戦闘はさらに激化していた。


ヴァイス。


白線機が再び加速する。


速い。


二号機が反応する前に。


敵は背後へ回り込んだ。


警報。


《後方!》


リディアは反射的に回避する。


轟音。


超高速弾が夜空を裂いた。


間一髪。


しかし。


残る二機の護衛機がさらに接近する。


完全包囲。


《敵機、包囲完了。》


ATHENAが続ける。


《目標との距離800メートル。》


ヘリが遠ざかる。


ヴァイスが射線を塞ぐ。


《目標との距離1000メートル。》


リディアは舌打ちした。


敵の目的は撃墜ではない。


時間稼ぎ。


マーカスを逃がすこと。


本当に危険なのは一機だけ。


ヴァイス。


リディアは照準を合わせる。


「なら。」


「まずはあんたから落とす!」


その頃。


戦場西側。


最前線から十数キロ離れた空域。


ヴァルハラ三号機。


マックスは最大出力で飛行していた。


二号機救援。


それが現在の任務だった。


ATHENAが報告する。


《回収部隊を捕捉。》


モニターに三つの光点。


そして。


一つだけ突出した反応。


ヴァイス。


マックスの目が細くなる。


「面倒そうなのがいるな。」


推力がさらに上がる。


「もう少しだ。」


「持ちこたえろ、リディア。」


夜空に火線が走る。


孤立した二号機。


迫るヴァイス。


そして逃走を続けるマーカス。


戦いは新たな局面へ入ろうとしていた。


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