第十三話 第二段階
夜空。
戦場は三つに分かれていた。
最前方。
逃走する大型ヘリ。
その後方五百メートル。
ヴァルハラ二号機。
リディアが単独で追撃を続けている。
さらに後方。
約八キロ後方空域。
ヴァルハラ一号機。
カイルは第二迎撃隊三機を引きつけていた。
仮に今すぐ進路を変えても。
二号機への合流には数分を要する。
そして西側空域。
十数キロ離れた戦域。
ヴァルハラ三号機。
マックスは第一迎撃隊との交戦を続けていた。
隊長機。
アレックス・ローガン。
両者はなお激しく火線を交わしていた。
同じ夜空。
だが。
戦場は既に三つへ分断されていた。
最前方空域。
ヴァルハラ二号機。
リディアは前方モニターを睨んでいた。
ヘリとの距離。
五百メートル。
四百八十メートル。
少しずつ縮まっていく。
「逃がさない。」
小さく呟く。
《ATHENAより報告。》
《目標追跡継続中。》
《迎撃機反応なし。》
だが。
警告音。
《新規航空反応。》
《四。》
《高速接近中。》
リディアの表情が変わる。
「来たわね。」
その頃。
ヘリ機内。
護衛が報告する。
「回収部隊、接触まで二十秒。」
マーカスは静かに頷く。
「予定通りだ。」
モニターに四つの光点。
ヘリ前方から回り込むように接近している。
「時間を稼げ。」
「回収を優先する。」
「了解。」
その頃。
ノマド。
管制室。
ミアが解析を続けていた。
「新反応を捕捉。」
画面が拡大される。
四つの機影。
黒い塗装。
通常の戦闘機とは異なる形状。
イリスが息を呑む。
「所属不明です。」
「軍の登録コードと一致しません。」
レオンが尋ねる。
「傭兵か。」
ミアが首を振る。
「断定できません。」
「ですが軍所属ではありません。」
レオンは黙る。
モニターを見つめる。
その表情が一瞬だけ曇った。
何かを思い出したように目を伏せる。
「そうか……。」
それ以上は語らなかった。
その頃。
後方空域。
ヴァルハラ一号機。
カイルはなおも第二迎撃隊と交戦していた。
ミサイル。
機関砲。
夜空を火線が走る。
《ATHENAより報告。》
《敵機三。》
《追撃継続中。》
「まだ来るか。」
カイルが吐き捨てる。
その時。
通信が入る。
レオンだった。
《カイル。》
「聞こえてます。」
《二号機へ新たな敵戦力が向かっている。》
《数は四。》
カイルの眉が動く。
「二号機だけじゃ危ない。」
ATHENAが即座に補足する。
《現在位置からの最短到達時間、三分四十二秒。》
《ただし第二迎撃隊による拘束を受けています。》
《現時点での支援到達予測は三号機が最速です。》
カイルは歯を食いしばった。
長すぎる。
二号機はその間。
単独で戦わなければならない。
だが。
目の前の敵を無視することもできない。
その頃。
西側空域。
第一迎撃隊との戦闘を続けていた三号機へ通信が入る。
《三号機。》
レオンだった。
《二号機の状況が悪化している。》
《離脱可能か。》
マックスは前方モニターを見る。
第一迎撃隊。
そして隊長機。
アレックス・ローガン。
《第一迎撃隊は離脱を開始した。》
《だが隊長機だけは違う。》
《まだこちらを見ている。》
マックスは小さく笑う。
「しつこい男だ。」
レオンが命じる。
《二号機の支援へ向かえ。》
《了解。》
三号機が反転する。
ATHENAが報告する。
《二号機到達まで四分十秒。》
距離はまだ遠い。
その頃。
最前方空域。
ヘリ前方から回り込んだ四つの機影が姿を現した。
黒い高速航空機。
鋭い機首。
流線型の機体。
異様な静けさ。
四機はヘリを中心に防衛陣形を形成する。
二号機との間に立ち塞がった。
《ATHENAより警告。》
《未確認航空兵器。》
《データ照合失敗。》
リディアは眉をひそめる。
「何よ、あれ。」
次の瞬間。
一機が急加速した。
速い。
戦闘機を上回る速度。
「!?」
警報。
赤い表示。
ATHENAが警告する。
《高エネルギー反応。》
《兵装展開を確認。》
機首下部。
大型砲身がせり出す。
轟音。
夜空が震えた。
青白い閃光。
超高速弾が二号機を襲う。
リディアは反射的に回避した。
弾丸が脇を通過する。
直後。
後方空域で巨大な爆発。
衝撃波。
二号機が激しく揺れる。
「今の何!?」
ATHENAが解析を開始する。
《解析中。》
《既存兵器との一致率三%以下。》
《高出力電磁加速兵器の可能性。》
《詳細不明。》
リディアの表情が険しくなる。
その瞬間。
残る三機が散開した。
二機が高高度へ上昇。
一機が低空へ回り込む。
包囲。
ATHENAが警告する。
《敵機、包囲行動。》
《四機による連携攻撃を予測。》
未知の兵器。
未知の部隊。
そして。
組織的な戦術。
「最悪ね……。」
リディアが小さく呟く。
「面倒なのが来たわ。」
カイルは動けない。
マックスもまだ遠い。
それまで。
一人で耐えるしかない。
夜空に新たな火線が走る。
第二段階が始まった。




