大馬鹿
無事救急に運ばれ、丁寧に処置をしてもらった私は、晴れて命に別状なしと認められた。とはいえ、外科的な処置を少々行った程度には深い傷であるようで、今は痛み止めの点滴を受けている。
「無茶しないでください、本当に……」
病院にまで着いてきてくれたチェレーゼとピグトニャが、私のベッドの横に座ってこちらを見ていた。チェレーゼの顔には安堵が、ピグトニャの顔には呆れが見てとれる。
[ねえ、傷のこと誤魔化せた?]
[なんとかな]
[ありがとう]
[バカが]
確認したかったことを確認できた私は、努めて明るい声でチェレーゼに声をかけた。
「ごめんね、どうしても止めたかったから」
「一歩間違ったら死んでいたんですよ! 錬金術初心者だったから良かったものの……」
私は不思議に思ってピグトニャに問いかける。
[そういう説明なの?]
[実際、刃をしまう時にうまくいかなかったのか、剣身は柄から取れて原型がわからないほどぼろぼろ、切先だけが刺さってたんだよ。錬金術初心者が異なる素材を組み合わせると、本来かかるべきでない負荷がかかって壊れやすい]
[へ〜、じゃあ下手に構造とか考えなくてもよかったんだ]
[バカ、お前が本物の天才で普通に死ぬ可能性もあっただろ。これでいいんだよバカが。いやよくないけど。もう二度とやるな、バカ、ふざけんな]
ピグトニャは大きくため息をついた。
「姉さん。ここまでやられると、話を聞くしかないんじゃないの……。多分何度でもやるよ、このバカ」
そんなに何回もバカって言わなくても。
「……わかっています。ソメヤ様、手術中も、誓って何もしていません。食料だけ置いておきました。話を聞くと……言ってしまったので」
「……チェレーゼ、ありがとう」
「でも、こんな危ないことは……本当にこれっきりにしてください! どれだけ心配したことか……!」
チェレーゼは私の手を両手でぎゅっと握り、悲痛な声で訴えた。私は苦笑する。
「やっぱり優しいじゃん。大義のために非道なこともするチェレーゼも本当なんだろうけど……優しいのだって本当のことだよ」
「……いいえ……いいえ。私は……優しくないから、ソメヤ様みたいな優しい人に、焦がれて、どうしても、そういう人を失いたくないと思う……それだけです」
そして、チェレーゼはついに泣き出した。声は出さないが、涙がぽたぽたと滴り落ちる。ピグトニャはそれを、心配そうに見つめている。
「ソメヤ様のように、無窮の優しさを持つ人は……私とは決定的に違う。私は、神から優しさを借りているに過ぎません……私は私が善い人間であるために、努力をしないといけません……でも、あなたたちは……ただ生きているだけで、とめどなく優しい。痛々しく映るほど」
「……」
「私や……勇者様は……そうではなかった……だから、その分持てる非情さで、そういう人を守らねばならなかった。なのに私は……ピグトニャの心を守れなかった……」
「姉さん、それは違う……!」
「違いません! 私たちがしっかりしていたら、もっと……、それこそ、オリバーだって……!」
「姉さん……」
チェレーゼの声は、叫ぶように甲高くなっていき、感情に呼応して荒れ狂う波のようだった。
「……でもさ、だとしたら、努力をして優しい方が、ずっとすごいじゃん。頑張って頑張って、こんなに慕われる人になって……それが本物じゃないなら、選ばれた天才以外はみんな最低ってことになっちゃうじゃん。守れなかったっていうピグトニャだって、立派なシスコンだし」
「この後に及んで軽口かおまえ……」
「チェレーゼは優しいよ。ピグトニャも優しい。二人ともそっくりだよ……私はたくさん、それを感じてきたよ」
チェレーゼは疲れたのか、椅子を私のベッドに寄せて、ぽんと頭を投げ出した。昨日のピグトニャの仕草とそっくりおんなじなものだから、つい笑ってしまう。私はあのときと同じように、ゆっくり、チェレーゼの頭を撫でる。
「……誰かに頭を撫でられるなんて、随分久しぶりです」
「お父さんは? ピグトニャのことは撫でてたじゃん」
「パパはここ10年以上、ピグトニャのことしか撫でませんよ……私は十分大人だから、必要ないんでしょう。あれはピグトニャの回心を祈った按手も兼ねてるんです」
「俺ガキって言われてる?」




