試し行動
過去にチェレーゼは、2回も私を『優しい人』と言った。泣きそうな声で。私は、チェレーゼこそ優しいと……本気で思っていたし、今も思っている。今度は、私が言う番だった。
「待ってよ、チェレーゼがそんなことする必要ないよ! 本当はそんなことするの嫌でしょ……魔法差別にあんなに心を痛めるような、優しい人なのに!」
「……いいえ、ソメヤ様。私は大のためなら小を見捨てるような人間ですし……神官というのは、優しければ優しいほど、自分まで病んでしまう職業……だからピグトニャは続けられなくて、私は堂々と続けていられる」
「違う、姉さんは強い人だから……」
「いいえ。……私の人格は、もう手遅れです。もし父が私たちを拾うのが、もう少し早ければ……こんな人間にはならなかったかもしれません。しかし、それも神のお導き」
チェレーゼはすっくと立ち上がった。
「私が非道な人間であることで……遂行できる神の意志があるのです。もう行かせてください」
「嫌だ!」
「なんで!」
ほとんど怒ったような声のチェレーゼに怯まず、私は勢いよく立ち上がり、キーボードを顕現させて構えながら、広い場所へ出た。
「……私に勝てるとでも?」
「勝てないよ。でも、少しでも止めてみせる」
チェレーゼもテーブルから離れ、手をわずかに浮かせて、私の動向をじっと見つめている。用心深い彼女のことだ。オリバーの拷問は一刻を争う必要があることでもないし、私の様子を見てくれるに違いない……最後まで。
「顕現せよ」
私の詠唱に応じて現れたのは、一本の短剣であった。剣身は鋭く、なんでも切り裂くことのできる、最も素晴らしい素材でできた……ファンタジーに出てくるような短剣を。そうやってイメージしたが、どこまでその要望が通っているかはわからない。それよりは、秘められたあるカラクリが大事であり……それがうまく機能するかどうかが、私の今後の命運を分けていた。こればかりは、祈るしかない。
──上手くいきますように。
短剣を手にした私を見て、不思議そうにチェレーゼは問う。
「……体術なら勝てるとでも? むしろ、ソメヤ様の苦手分野では?」
「違うよ」
呆然とことの成り行きを見守っていたピグトニャが、何かを察して慌てて立ち上がり、椅子を蹴飛ばす勢いでこちらへ向かってきた。しかし、もう遅い。
軽く呼吸をした。チェレーゼなら私を絶対に見捨てない……人格的にも、プロジェクトのためにも。必要なのは、覚悟だけだ。
「ッ……!」
その瞬間、チェレーゼの目が大きく見開いたのを確認した。私は蹲り、そのまま床に倒れ込んだ。
「ソメヤ様ッ!」
鼓膜からはチェレーゼの悲痛な声が、腹部からは激しい痛みの信号が脳に突き刺さる。私は、自らの手で、自らの腹に、自ら作った短剣を突き刺したのだ。




