仕返し
「……なるほど。オリバーは、私がソメヤ様に固有魔法を使い、利用していると……そう言っていたのですね?」
「……うん。天啓の詳細も、話したとおりに言ってた……信用したわけじゃないけど」
私の話をひととおり聞いたチェレーゼは、ふー、っと長く息を吐いた。ピグトニャは青ざめた顔で、それを見守っている。
「……ここは正直に言いましょう。オリバーのいうことは、ほとんど真実です」
「姉さんっ……!」
「ただし、確定していない事項もあります……私は、ソメヤ様に固有魔法を使ったことはありません……自分の意思では。信じていただけるかどうかは、わかりませんが」
「……」
「……でも、私自身、何かがおかしいとは気づいていたんです。体内魔力に、微かな違和感があった……私が固有魔法を知らず知らずのうちに使っているとすれば、説明できます。もっと考えるべきでした」
申し訳ありません、とチェレーゼは頭を下げる。ピグトニャはほとんど泣きそうな顔で下唇を噛んでいる。私は、そんなことは全然どうでもよかった。ただ、自分の天啓が知られたことがショックではないか……それが心配だった。
「チェレーゼ……ごめん、こんな形で天啓のことを聞くことになって……」
「どうしてソメヤ様が謝るんですか……これは仕方がありません。怒るとしたらオリバーにであって、ソメヤ様にではありません。ただ……身の安全のためにも、ヤツに仕返しするぐらいはきっと、ゆるされるでしょう」
するとチェレーゼは、何かを講義するときいつも使っているノートに、さらさらと文字を書き込んだ。
「彼の固有魔法は<イーブズドロップ>……他人に向けられた心の声を自在に聴くことができます。しかし、彼自身はテレパシーの使い手ではなく、送信も、彼宛のテレパシーの受信もできません。できるのは、盗み聞きすることだけです。彼が得意とする変身魔法と非常に相性が良く……道端の人に変身して盗み聞きをしたり、時には堂々と知人のふりをしたりして、情報を得ます。例えばAさんに変身して会話していたら……心のうちでAさんに、何かを言いかけてやめるようなことがありますね? 彼はそういったものも聞き取れます」
「え、ズル! チート級じゃん!」
「……」
私の天啓を知るピグトニャから、おまえが言えたことじゃねーだろ、という視線が突き刺さる。
「確かに強力な天啓です……しかし、天啓の反動、という概念を知っていますか?」
「あ、ああ、知ってる。ジムで習った」
「よかった。彼の反動を私たちは知っています。それを知れば、恐るるに足る相手ではありません」
「本当に……?」
チェレーゼは頷き、ノートにさらに書き足した。ノートにはすでに、『変身→オリバーではない→固有魔法成立!』などのメモが書かれている。
「彼は……この固有魔法で得た情報について、嘘がつけません。他のことに関しては、よく嘘をつくのですが……固有魔法を通じて知ってしまったことはダメなんです、どんなにしょうもないことでも。だから彼は、固有魔法を常時使うわけではありません」
「……なるほど」
「そして、脱獄犯というのは大抵、1ヶ月も捕まらなければ、警察からギルドに捜索依頼が来ます。それも来ていない……ということは、彼は脱獄したばかりで、殆ど時間がなかったということです。リスクを冒しながらも天啓を使って様々な情報を得、ここへ来た……そう考える方が自然ですし……そうでないなら、彼に情報を与えた協力者……あるいは単に彼の変身魔法に騙された間抜け……そういう人がいる、ということです。我々のプロジェクトの内部に。彼が矛盾したことを言えるなら……第三者からの情報で、言えないのなら……固有魔法によるもの。そうやって証言の確度を高めることができる。だから彼には、拷問が有効なんです」
背中に鳥肌が立った。だから彼には、拷問が有効なんです──。平然と言ってのける彼女の手は、今までどれだけの血に染まってきたのだろう、と考えた。そうやって得た情報を、この少し丸っこい字で、メモにとるのだろうか。拷問器具を選ぶ時の、あの明るい声が、本当のチェレーゼなのだろうか──。
「ですから私は今回も、彼を痛めつけて情報を得ます……それが必要な状況だから」




