オリバー・イグノジー
「兄……?」
それはどう考えてもおかしな話だった。まず全然似ていないし、第一、ピグトニャより若そうに見えた。
「あぁ、順を追って話さないとわからないよな……わりいわりい」
「……」
私は極力、何も考えないことに努めた。ただオリバーと名乗る男の一挙手一投足のみに集中して、他の情報を漏らすまいと……。
「俺はアンタより先に呼ばれた召喚者だ。イギリスとかいう国の出身で……赤ちゃんの頃に乳児院の前に捨てられていたのを、素質があるからってエイリムが拾ったんだとよ……今となっちゃ、それがほんとかもわかんねえけど。まあ、どうでもいいんだ、そんなことは。それが20年前だ……そんで、チェレーゼたちが拾われたのは18年前。だから俺が兄ってわけ」
「あっそ……」
「でもあんまり関わりはなかったなァ……俺やピグトニャより才能があるチェレーゼに、エイリムは夢中になってた。それしか覚えてない。俺はなんで拾われ、なんで故郷で生きる権利を奪われたのかもわからないまま生きた」
「ふーん……」
「ある日のことだ……チェレーゼの天啓の実験台になれと、エイリムから指示があった」
「!」
いや、動揺するな、落ち着け。そう自分に言い聞かせるが、生理的に冷や汗が滲み出る。
「チェレーゼの天啓は……」
「黙れ! 聞きたくない!」
「なんでだよ。アンタもかけられてんだぜ、知ってんだろ? 情報は得といた方がいいと思うけどなァ」
「あんたが信用ならない。信用ならない奴の話は聞かない」
「結構強情だな……年寄りって頭硬えから嫌だわ」
最大でも7歳しか変わらないだろ。
「<ハンティング>。これがチェレーゼの固有魔法だよ」
「お前……!」
「おっと、いくらアンタの防御魔法が強くても、口承中に喉ぶっ刺されたら終わりだぜ。腕は今使い物にならねえしなぁ、大人しくするのが吉だと思うけどなぁ」
それは、そのとおりだった。彼は私を倒すとき、器用に腕を後ろ手に持っていき、その状態で押さえつけているのだ。何度も出ることを試みているが、肉体強化を使っているのか、振り解くことは叶わない。私は悔しい気持ちで歯軋りをしながらオリバーを睨む。
「<ハンティング>は……大まかに言えば、人の魔力を奪った後、奪った分の魔力で何かを作り、本人に返す力だ。例えば、非適性者から魔力を奪い、魔法として本人に返せば、非適性者も一時的に魔法が使えたり……」
「やめろ……」
「その魔力で作った錬金物を渡すことでも成立する。純粋な魔力をそのまま返すこともできる。しかし、何を返すのかは予め決めておかないと発動しない」
「やめてってば……」
「チェレーゼはこの力を使って、お前の魔力を夜な夜な奪っては返している。ただし返す時100%返せるわけじゃなく、ある程度は散逸する上……散逸せず残ったうちの何%を返して、何%を手元に残すかはチェレーゼの胸先三寸。異常に魔力効率が良く、魔力生産性も高いアンタは……チェレーゼ・イグノジーを完成させるための養分なんだよ。俺もそうだったのさ」
「言わないで……」
私はもはや涙目だった。私の魔力など、チェレーゼやその裏にあるエイリム、あるいはさらに裏にある真の陰謀など、もはやどうでもよかった。それより、信心深いチェレーゼはどれだけ悲しむのだろう。チェレーゼを心から心配していたピグトニャも。二人がどれだけ傷を負うか、それを考えると、チェレーゼへの不信感や天啓への興味なんかはすっかり消え失せ、ただただ苦しみに満ちた。
「……変な奴」
「なにが!」
「召喚者のくせに、他人の天啓聞いたからって泣くかよ。ほぼピグイタン育ちの俺でもどうでもいいと思ってんのに」
「あんたが捻くれてるだけ……この地で暮らす人たちの気持ちを考えたら当たり前のことでしょ! 道徳の授業受けろ! あ、もしかしてこっちにはないの?」
「あるに決まってんだろ、おもしれーな」
オリバーは笑いながら、チェレーゼの姿になったり、ピグトニャの姿になったりして見せた。私を揶揄っているのだ。私はその度に怒りで頭が支配されそうになった。
「ははは、お前なんで俺に怒るんだよ。チェレーゼとエイリムが結託して何かしていることは知ってたんだろう? それなのにピグトニャがチェレーゼの天啓を教えず、害はないなんて嘘をついていたのも、許せなくはないか? なぁ、ピグトニャの野郎はこんな顔をしてさ……言ったんじゃないか? 『姉さんは悪いことなんかしない』って」
「黙ってよ! ピグトニャの真似しないで!」
「図星かよ、あのシスコン! あいつお姉ちゃん大好きだからなぁ、お姉ちゃんと結婚するんじゃねえのってぐらい……」
「オリバー!」
女性の声が強く響き渡った。今度こそ耳馴染みのある、本物の声だった。私は歓喜に満ちた声で返す。
「チェレーゼ!」
「ちっ、仕事じゃねえのかよ」
私は喜びを持って、オリバーは鬱陶しげに、声の方向を見やる。
「オリバー、その方から離れなさい。それ以上の狼藉をはたらけば、兄といえども容赦はしません」




