モーニング・ティー
せっかくだからみんなで朝ごはんでも食べようということになり、重度のシスコンと重度のブラコンに連れられて外へ出た。重度のブラコンの方が、あのお店にしましょうと指を指し、我々はそれに従った。
「ここのモーニングが素敵なんですよ。なんたって、目覚めに良いお茶が出るんです」
「……魔法茶ってやつ?」
「あら、ご存知なんですか?」
「チェレーゼが『魔法茶普及連盟アドバイザー』だって昨日知って……」
「あら、あらあら、もしかして私の辞典見ました? お恥ずかしい」
「辞典?」
「メヒェリエ大辞典の略。昨日見てた百科事典みたいなページ」
ピグトニャの補足で理解する。地球でいうWikipediaはメヒェリエ大辞典というらしい。
「あーそうそう、そうなの。チェレーゼってすごい人なんだなと思っちゃった」
「ふふふ、これでも大神官の娘ですからね、それなりに功績を残していかないと。あ、すみません……モーニングセットを……ええ、ひとつはモーニング・ティーで……おふたりは?」
「私もモーニングティーってやつにしようかな」
「俺はアイスコーヒー」
カフェインによる覚醒よりすっきりしますよ、とチェレーゼは力説するのだが、ピグトニャは、コーヒーは美味しい。というシンプルな理屈で打ち返していた。もしかして、あの二日酔いに効くお茶並に変な味がするんだろうか。にわかに不安になるが、もう注文は終えてしまっている。
「姉さん、仕事の件で近日中どこか時間取りたいんだけど……」
「どの仕事?」
「こいつの今後」
「ああ、もしかしてあの話? 陛下が反対している……」
そうして私がお茶のことを考えている間に、仕事の話がスタートしてしまった。外だからかできるだけ迂遠な、二人にしかわからない表現を使っているのもあり、全く会話に割り込めない。お茶のことが聞けない。
「それにしても、ピグトニャはいつも仕事のことばかりですねえ。ジム以外で息抜きできないんですか?」
私がピグトニャをお気楽魔法使いだと思ってたのは、ジムで息抜きしてる姿しか見てなかったからだったのか。
「俺は姉さんほど優秀じゃないし……規則正しい生活ってのも苦手だから……。ガーっと働いて、適当に寝て、やる気が起きない時はジムで自己研鑽とかお小遣い稼ぎして、やる気が出たらまたガーっとやるしかない。だからやる気が出てるうちに全部話さなきゃならないんだよ」
よくわかるなあ。
「そんな生活では体を壊しますよ。ソメヤ様、あなたもですよ」
「私!?」
「ソメヤ様を見ていて、すごく世話を焼きたくなることがしばしばあったんですが……その理由が今わかりました。ピグトニャとソメヤ様は、そっくりです! 悪い意味で!」
「そ、そんな……」
突然の飛び火に衝撃を受けている間に、モーニングが運ばれてきた。ホットサンドと小さなサラダと飲み物だけのシンプルなセット。ピグイタンのサラダには、豆を乾燥させたようなものがかかっていることが多いのだが、これがなかなか、クルトンみたいで美味しい。けれど、そろそろ日本食も恋しい。ピグイタンの料理はどれも美味しいのだが、時々どうしても地球の味が食べたくなり、こちらの調味料で再現しようとしては失敗する。
「お茶、冷めちゃいますよ。猫舌じゃないなら、熱い方が美味しいかと」
考えながらサラダを食べていたら、チェレーゼからそう声をかけられた。勧めに従い、謎の魔法茶、モーニング・ティーを飲んでみる。口に入れた瞬間、私はびっくりして目を見開いた。
「昆布茶の味がする!」
「コブチャ?」
「私の国の飲み物で……え、このお茶があれば、日本食にかなり近づくかも」
「そうなんですか? 幸い、そんなに高いものでもないので取り寄せられますよ。原材料はいくつかあるんですけど、どれが味に起因してるんでしょうね」
「絶対に特定したい、絶対に特定して実家の味を作りたい……」
「ふふ……そしたらついでに、魔法茶初心者向けセットも一式頼んじゃいますか! そのまま、魔法茶のめくるめく世界を一緒に旅しましょう!」
「うん!」
「なんか違う気がするけど、いいのかそれで……」




