就寝
チェレーゼのページも見てみると、ピグトニャよりも多い称号がずらりと並んでいた。出会った日に名乗られた『国営セレンゼ神殿補佐神官、兼、科学省技術部信仰科学研究課長』は、必要な部分だけだったのだ。『世界錬金術研究協会名誉総裁』『魔法差別撲滅協会顧問神官』、他に『魔法茶普及連盟アドバイザー』なんてのもある。あの二日酔いに効く変な味のお茶とかが、魔法茶ってやつなんだろうか。ああ、錬金術のことも習わなきゃいけないんだった。いろいろと忙しいな。
「まとめると、正面から姉さんに固有魔法を使うのは無理。本人から明示的に許可をさせたい。それには、機を待ってこちらから仕掛ける必要があるが……今のマンネリした状況ではいくら待っても何も訪れないだろうし、お前の実力も足りない。強い方が大抵のことはうまくいく。だからお前には軍に入ってもらい、俺が訓練し、お前を魔法の高みまで連れていく」
「高み……」
「ああ……ごめん、これは俺がやりたいだけだな」
私はピグトニャから初めて指導を受けた日のことを思い出した。
『……でも、俺じゃ辿り着けない高みがこの世にはあった』
『それが勇者だ。俺と姉さんは……あいつを手塩にかけて育てた。まだ見ぬ世界を見るために……だから、次の勇者がおまえなら』
『俺はおまえを育てたい。よろしく』
あの日の真っ直ぐな目を、私は覚えている。チェレーゼの話によれば、三人は幼馴染だったはずだ。その勇者が何らかの理由で欠けていて、きっと二人は悲しいのに……その後釜である私を、正面から受け入れてくれた。その理由のひとつが『俺じゃ辿り着けない高み』とやらのためならば、私もそれを受け入れよう。
「ううん、いいよ。高みとやら、目指してみようじゃん」
「……そうか」
「うん、かっこいいし」
「……楽しみだよ。お前となら、あいつとはまたちがう世界が見られるだろうから……」
何かを思い出している人は、すうっと過去へ消えていくような喋り方をする。きっと勇者のことを考えているんだろう。ピグトニャやチェレーゼがあまりに身近な人間すぎて思い浮かばなかったけれど、勇者も有名人なのだから、検索すれば二人みたいにいろんな情報が出てくるんだろうな。私は脳内の暇な時に調べるリストに、国際魔法連合軍のことと、勇者のことを書き加えた。
「……もう遅い。歯磨いて寝よう」
「うわ、ほんとだ」
壁時計の針は0時に差し掛かっている。思ったよりも長いこと話し込んでいたらしい。
「じゃあ、俺はあっちのソファで寝るから……」
「え! いいよ私がソファで寝るって」
「お前をソファで寝かせたなんて言ったら、姉さんに怒られる。大人しくベッドで寝ろ。歯ブラシは……あった。これ使え」
「え、これちゃんとしたやつじゃん。今度新品で返すよ」
「いらんわ、みみっちいし」
「じゃあありがたく」
そうして長い1日が終わった。私は遠慮なく新品の使い捨てでない歯ブラシ(かため)を使い、高所得者のふわふわのベッドを味わいながら、深い眠りに落ちていった。




