称号
「チェレーゼの強さはよくわかった。じゃあ私は今何すればいいの?」
「機を逃さないことが肝心だ……お前のいう期待値を高めたい。それにはお前の力も肝心になってくる。元々の課題でもあるし」
「じゃあ結局、いつもどおりジムで修行してクエストこなしたらいいの?」
「いや……お前の強さに対してジムは狭すぎる。クエストも、強すぎて逆に依頼少ないしな……。お前は強さが足りないというより、荒削りなんだよ。もっと相応しい場が必要だ」
「相応しい場……」
ピグトニャはううんと頭を抱え、しばらく悩んだ。「これもう言っていいのか……? そもそも企画通るかまだわかってないし……でも絶対やったほうが……」とぶつぶつ言っている。勇者候補育成プロジェクトのメンバーとしての葛藤だろうか。社会人だなあ。いいや、言おう、と決意を固めた様子で、彼はこちらへ向き直った。
「お前は軍隊に入るべきだ」
「軍隊!?」
絶対向いてない。嫌すぎる。
「軍隊といっても、ピグイタン軍じゃない。国際魔法連合軍……メヒェリエ全土の魔法適性者の志願兵のみで構成されている。国を問わず災害救助をしたり紛争を止めたり、非魔法国から魔法適性者を見つけてピックアップしたりするのが仕事だ」
「ピックアップ?」
「サルーニャの例とは逆に……魔法適性者が迫害される国もあるんだよ。非魔法国では大体、得体の知れない力で治安を脅かす犯罪者予備軍扱いだ。魔法国から植民地にされていた過去がある国なら、より苛烈な差別が待っている。今の時代、インターネットで魔法指南してる奴もいるからな。非魔法国の子どもが、ファンタジーの必殺技を試すつもりでやってみて……不幸なことに適性者だった、なんてことはしばしばある。そういう魔法差別の被害者を保護し、魔法国に難民として迎え入れることをピックアップという。お前もそうやってピックアップされた経歴になってるはずだ」
「ああ……偽の経歴書、1回読んだだけでほぼ忘れてるわ……」
「……まあ、意識しすぎると不自然になるから、別にいい。出身国を聞かれたら、嫌な思い出しかないから忘れたいとでもいっておけ」
今までの対応はそんなに間違っていなかったようで安心した。ピグトニャはまた頭を抱える。
「もう連合軍か留学ぐらいしかお前を鍛えられる場はないんだが……陛下が反対しておられる」
「陛下……そういえば、この国って王政なんだっけ」
「そうだ。といっても、あまり強い権能があるわけではないが……かといって無碍にもできない。連合軍に属してしまえば、お前の功績はピグイタンの功績ではなく連合軍の功績となる。それを惜しんでおられるようだ」
「なるほどねえ」
「とはいえ、陛下の思い描く勇者のように、冒険者が単独で活躍できる時代じゃない。あの頃……といっても10年前ぐらいだが……魔王がいた頃のメヒェリエは、混迷を極めていた。むしろ国際軍なんか無意味だと言われる始末だった。だけど……今は素晴らしいことに、ある程度平和だからな」
留学はダメなの? と聞いたら、もっと最悪だ、と返ってきた。留学なんかして、留学先に感化されて最悪帰化なんかされたら困る、というのが大多数の意見らしい。
「俺としても留学は勧めない。異なる詠唱方法を組み合わせすぎると、どれも中途半端になりがちだ……例えば口承も、ピグイタン式口承とソラージル式口承ではまるでちがう。こっちの口承はあくまでバフだが、あの国ではメインウェポン。口から音を出しているというだけで、まるでちがう技術だ」
「なるほどねえ」
「とにかく……お前を軍に入れるという案は、元々出てたものだ。アピールの仕方によっちゃ、国際問題を解決してもらって勇者としてご帰還……なんて可能性もあるし。少なくとも、クエストを細々やるよりかっこいいな」
いろいろ聞いて、私はひとつ不安になった。
「その間……チェレーゼもピグトニャもいないってこと……?」
「ああ、任務中は離れることになるが、活動拠点は王都だ。それは安心していい。平時はピグイタン軍との合同訓練をしたり、各々の魔法を極限まで極めるための研究と訓練をしている……そして、俺はそこの顧問だ」
「え?」
そういえば見せたことなかったな、とピグトニャはタブレットで自分の名前を検索し、Wikipediaみたいな百科事典サイトに載っている経歴を見せてくる。
「俺は、バラーズ・ジム・プロチーム所属の選手であり、王都魔導大学特別招聘教授であり、附属の魔導学研究所特別招聘研究員であり、魔導物理学会栄誉会長であり、そんでもって、国際魔法連合軍ピグイタン支部魔導指南顧問だ」
「なんか偉い人がやたらいろんな称号持ってるやつだ!」




