解説
「私の天啓は……<固有魔法:リーダビリティ>。この魔法を向けた対象のステータスを見ることができる……基本は人に向けるのを想定してて……熊は少しいけたけど、植物や魚なんかには使えない」
「ステータスっていうのは、具体的にどういう?」
「軽く放つだけだと、名前、年齢、職業、性格、天啓の概要、なんかがぱっとわかる。プロフィール帳みたいに。同じ対象に連続して使い続けると、その人の過去の記憶や、現在の感情、髪の毛の本数に至るまでわかる」
「……連続使用の時は詠唱が必要か?」
「ううん。一度詠唱すれば、あとは意識を集中し続けるだけ。ずっと続けてるとあの反動がどこかで来るんだろうね。でも、私の意識は対象に完全に向いてるから、いつから周りが見えなくなったかとか気づけない……気づけなかった」
「なるほど……」
ピグトニャは考え込む仕草をする。
「反動も強烈な分、かなり強力だな。特に、他人の天啓がわかるというのが」
「何気なく使ってたや」
「……そうやって無邪気に使えるのは、異界人の強みだな。普通なら、神との秘め事を覗き見してしまった罪悪感で、自ら封じ込めるような力だ」
「い、いや、私も罪悪感が全くないわけでは……」
「レベルが違うって話だ。人によっちゃ、罪悪感で命を断つ」
「そんなに!?」
そうだ、と彼は言い、軽く俯いた。
「人の天啓を聞いたり、他人に話したりする権能を持つのは神官ぐらいだ。神官は神の代理人だから問題ないってことだな。くだらん権威主義……」
ピグトニャは本当に嫌そうに呟いた。私がゴキブリを前にした時の倍ぐらいは嫌そうな顔をしている。無神論者(不可知論者?)として、色々と思うことがあるのだろう。
「俺が神官だった頃……罪人の天啓を聞くために、拘置所に行ったときのことだ。固有魔法を用いた犯罪で、詳細を直接聞くわけにもいかず神官を介するってのはよくあることなんだが……その罪人は、接見室に一歩入って俺の姿を見るやいなや、まだ手錠さえ外されてないのにベラベラと自分の天啓について喋り始めた。止めてもお構いなしだ。懺悔のつもりだったんだろうが……自己中心的なやつ、という印象が残ったよ。刑務官は慌てて手錠を外して、逃げるように出ていった。あの人が聞いたのは、本当にさわりの部分だけのはずだ……全部聞いた俺にはわかるが、本質のかけらもとらえちゃいない。固有魔法の名称だか、ほんのわずかな神の言葉だか……その程度だった。でも、その刑務官はひどく気を病んで、告解を求め、俺を御指名でセレンゼ神殿まできた。当然俺はゆるしを授け、その刑務官を励ました……でも、ダメだった。ダメだったんだ」
「わあ……」
「俺の神官としての力が足りなかったとも言えるが……俺たちにとっては、そのぐらい重いことなんだ。他国でも概ね、同じだろう」
もしかしてとんでもないことをしていたのでは……という気持ちに駆られ、私まで俯くと、気にするな、という声が降ってきた。
「天啓が神との秘め事とかいうのは、何か実利的な理由があって広まった風習に違いない。神なんかいない……少なくとも、こちらにわかりやすく干渉してはいない。そうでなければ、そんな法外な力を、異界人に与えるものか」
「じゃあ、これは誰がくれるの?」
「さあな。俺は天啓を求める祈りをすることで、人間に元々ある可能性の種が刺激されて芽吹くんじゃないかと考えてるよ。与えられたんじゃなくて……生まれつきもってる、俺らの力なんじゃないかと。今はまだ、眉唾物の陰謀論でしかないけどな……ともかく、おまえの力だ。おまえには使う権利がある。でも、姉さんのことをそれで覗き見されるのは不快だし……そもそも難しい。防御の仕組みは、よく魔法を学んだものからすれば単純だが、だからこそ破りにくい」
「なるほど……」
「だが、メリットがあるのもわかる……特に、姉さんが白かどうかを特定できるのは大きい」
ピグトニャはしばらく考え込んだ。
「天啓を使っても良い状況に追い込むのが一番いいな。姉さん自身の意思で、お前を受け入れさせる」




