期待値
「そんで、話って」
「あー、えっと。多分反対されると思うんだけど怒らないで聞いて欲しくて」
ピグトニャはあからさまに嫌そうな顔をした。そりゃそうだ。
「その……今日さ、勝手に固有魔法を使おうとしても無駄って言ってたでしょ? 実は私、天啓をもらったばかりのとき、チェレーゼに固有魔法を使おうとして弾かれたことがあって」
「あー」
「でも、コーチには弾かれなかったの。相当強いはずなのに。試合でも弾かれたことない。どういう仕組みで防御してるんだろうと思って」
「えーっと……それを聞いてどうする? 俺や姉さんに固有魔法を使うのか?」
「……チェレーゼに使いたい。でも……正直この力、倫理的にどうなのかとも思うから多用はしたくないんだけど、今の状況を打破できる可能性もあって……ええと」
要領を得ない話し方の私を、彼は静かに待っている。
「だからまずは、作戦を立てるために、私の力の詳細を、ピグトニャに話したい。重い秘密になるんだとは思うけど」
「……本気か?」
「本気。私はピグトニャを……信用してる」
「以前は、俺を信用する理由もないと言っていたが。合理的に考えて……俺を信用する理由が、何かできたか?」
私は首を振った。そういうわけじゃない。状況は、あの日からなにも変わってはいない。けれど、あの日から変えるためには、ピグトニャの助力が不可欠だ。
「賭ける。ピグトニャが正しいと」
ピグトニャの眼差しが痛いほど突き刺さる。しかし怯まない。ここで怯めば、色々と言いくるめられて安全策を取る羽目になるに違いないと思った。そんなふうに引き下がるわけにはいかない。
「それは俺が、お前を気遣って色々と忠告するからか? 反動で動けないお前を介抱したからか? 全てがお前の信用を得るための策で、罠だとしたらどうする?」
「そうかもしれない。でもそれは、いくら言ってもキリがないよ。……それじゃ納得いかない?」
「……納得してそうに見えるか?」
全然見えない。が、話を聞いてくれそうには見える。
「んーそしたら……こっちにはさ、"神はサイコロを振らない"って言葉があるんだけど、似た意味の言葉ある?」
「……多分無いな。神はサイコロを振らない、と聞こえたが……知らない言葉だ。直訳だと思う」
「大丈夫そうだね。それは地球の有名な科学者の言葉。詳細な説明は省くけど……物理法則を極限まで砕いた結果、最後は確率論になった……って議論に対しての、決定論者側からの反駁で……でも、今の所、やっぱり神はサイコロを振るものだと考えた方がスムーズなのね。地球の科学では」
「……もしかして、二重魔量力学の話か?」
「全然知らない科学でてきたな」
俺の専門分野だ、とピグトニャは言う。お気楽魔法使いにしか見えていなかったが、研究とかもしているのかと驚いた。地球の量子力学と同じようなものなのか、魔法も絡んできて全然違うものになっているのか、気になるが突っ込んで聞くのはやめた。何時間あっても足りなそうだ。
「それで、神がサイコロを振るからなんなんだ」
「あ、そうそう。つまり、神がサイコロを振るぐらいあやふやな世界に生きている私たちが……人間関係とかいう、物理法則よりもっと曖昧なものに関して、完全にシロとわかってから行動すべき、なんていうのはアホらしいんじゃないかなって。だから、最も期待値が高いと感じる瞬間、人は人を信用するという賭けに出るんだと思うの」
しばらく無音になる。話が迂遠すぎて嫌がられたかと思いきや、ピグトニャは声を上げて笑い出した。私がきょとんとしていると、ますます笑いだした。
「期待値って……気持ちわりい説得……ふふっ……」
「気持ち悪いって言われるほど!? ピグトニャって理系っぽいから響くかなと思ったのに……」
「リケイっぽい?」
「こっちには無い概念だったか」
「それにっ……神……っ、サイコロ……ははは」
なぜかツボに入ったらしい彼の笑いが収まるのを、レーションを食べて待つ。見た目こそスナック菓子だが、言われたとおり本当に味が微妙なので、少しずつしか進んでいない。ポリポリ音を立てて食べている様子も面白かったらしく、さらに笑わせてしまった。ンプァクト人にとって天啓はかなり重い話だから、それを話そうとしてる本人が呑気にレーションを食べているギャップで面白く感じるのかな……などと考察をしてみる。ここで生活をしていると、普通に過ごしているだけで物凄く笑われることがよくある。それが今だ。天然キャラの人ってこんな気持ちなんだろうな。やがて彼は落ち着き、語り始めた。
「なんていうか……お前の哲学みたいなのが、わかった気がする。それに、神がギャンブラーってのも気に入った」
「そ、そこまで言ってないけど」
「姉さんが聞いたら怒るかもな、くっ……ふふ……」
「い、言わないでね!? チェレーゼに怒られるのは嫌だ……」
「言わない、言わない……お前の天啓と一緒に、墓場まで持ってくよ」
──天啓と一緒に。その言葉で一気に緊張が走り、レーションを食べる手も止まった。
「話してくれ」




