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8/21

ワクワク同棲生活

「お迎えにあがりましたよー」


 チェレーゼは時間どおり迎えにきた。『主とともに 国営セレンゼ神殿』というステッカーを貼った車で。しかし、服装はごく一般的なワンピースで、先ほどの神官らしい装いではなかった。着替えてきたのだろう。


「チェレーゼ神官様! いやあ、ソメヤさんは筋がいいですな。速度も申し分ない。わざわざジム通いする必要ありますかね」

「ありますよ、田舎出身で魔道具や魔法に慣れていませんから。近々大会があるでしょう? ちょーっと賞金稼ぎしたいんです、ここのチームに入れてくださいな」

「もちろんもちろん、すぐうちの稼ぎ頭になるかもしれませんねえ!」


 楽しそうな会話をしてる二人を横目に気まずそうにしていると、チェレーゼが手招きして、私を車の中に誘った。助手席に座る。


 車の内装は、地球で見かけるものとさほど変わりない。テプラらしきもので『バッテリー上がり注意!』と貼ってある。いかにも公用車という感じだ。大仰な格好をした神官が運転席に座って車を乗り回したり、複数の神官がこの車に乗って移動する様子を想像すると、すこし笑えた。


「ジムはどうでした?」

「疲れた……というか、わかんないことが多すぎる! 迂闊に色々聞けないし。質問タイム取らせてよ」

「帰ったらやりましょう。当面、あなたの家は私の家ですから」

「そうなの!?」


 そんなラブコメのような展開がある? なにより、一人暮らしを長年続けてきた私が馴染めるだろうか? 困惑を精一杯態度で示したが、脇見運転をしないいい子ちゃんは全く気づいてくれない。


「神官用の宿舎なのですが……神官同士だったり養子だったりとの共同生活前提で、部屋が余ってるんです。セキュリティは万全ですし、都合が良いので」

「でも……そしたらずっと仕事のこと考えることになるじゃん。疲れない?」


 私が心配してる様子の何が面白いのか、チェレーゼは運転しながら大笑いをした。


「ソメヤ様、本当に優しい方ですね! きっと主も、あなただから選んだのでしょう」

「あーそう! その主? 神様? って実在する感じなの? こっちの世界だと。それ気になってて」

()()()()()()? あー……エデンの言語も完璧にはまだ遠いか」


 その喋り方は素が出ているようで、今までの敬語で少し高い声よりも好ましく感じたが、代わりに疑問が増幅した。


 今、彼女は何に疑問を感じたのだろうか。そもそもエデンの言語ってなんだろう。さっきバルも言っていた。魔道具はエデンの言語の影響を受けると……魔法のように、いや、魔法なのだろうが、瞬時にQWERTY配列に変わった奇跡のような光景や、読めないのに読める不思議な感覚も、エデンの言語とやらが関わってるのだろうか。


「そのエデンの言語ってのも、なに?」

「もう着きますから。常識を最初から教えるとなると時間がかかるんです、すこし待ってください」


 私は少しむくれ、それからチェレーゼの横顔を見つめた。


「我に見せよ……あなたのステータスを」

「あら」


 チェレーゼはパッと全身に膜のようなものを張り、私の固有魔法を跳ね返した……おそらく。目に見えているわけではないが、そう感じた。


「それがソメヤ様の天啓なのですね。固有魔法も魔法のひとつです。決して万能(チート)ではない……固有(ユニーク)なだけです。実力者は簡単に跳ね返しますから、無闇に撃っては危険ですよ。しかも口承だなんて……なにより、いきなり魔法を打つのはマナー違反です」


 マナー違反、たしかにそのとおりだ。護身用にスタンガンを手に入れたからといって、いきなり適当な人で試したら犯罪者である。魔法だって同じことだ。しかも、スタンガンなんかより、かなりタチの悪い魔法。


「ご、ごめん」

「構いませんよ、こちらの常識を教えるのは私の役目ですから。ソメヤ様、これからも……何かわからないことがあればまず私に聞き、私に試してください。そのために時間外にあなたの話を聞けるよう、一緒に住むんですから。日中は忙しくって」


 彼女はなんでもないように話し続けるが、私の方は、チェレーゼにもバルにも申し訳ない気持ちが沸いて、俯いた。そんな様子を見てか、チェレーゼは、努めて軽やかな口調で言った。


「さて、つきました!」


 チェレーゼは慣れた様子で歩いていく。私も後に続いた。

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