ワクワク同棲生活
「お迎えにあがりましたよー」
チェレーゼは時間どおり迎えにきた。『主とともに 国営セレンゼ神殿』というステッカーを貼った車で。しかし、服装はごく一般的なワンピースで、先ほどの神官らしい装いではなかった。着替えてきたのだろう。
「チェレーゼ神官様! いやあ、ソメヤさんは筋がいいですな。速度も申し分ない。わざわざジム通いする必要ありますかね」
「ありますよ、田舎出身で魔道具や魔法に慣れていませんから。近々大会があるでしょう? ちょーっと賞金稼ぎしたいんです、ここのチームに入れてくださいな」
「もちろんもちろん、すぐうちの稼ぎ頭になるかもしれませんねえ!」
楽しそうな会話をしてる二人を横目に気まずそうにしていると、チェレーゼが手招きして、私を車の中に誘った。助手席に座る。
車の内装は、地球で見かけるものとさほど変わりない。テプラらしきもので『バッテリー上がり注意!』と貼ってある。いかにも公用車という感じだ。大仰な格好をした神官が運転席に座って車を乗り回したり、複数の神官がこの車に乗って移動する様子を想像すると、すこし笑えた。
「ジムはどうでした?」
「疲れた……というか、わかんないことが多すぎる! 迂闊に色々聞けないし。質問タイム取らせてよ」
「帰ったらやりましょう。当面、あなたの家は私の家ですから」
「そうなの!?」
そんなラブコメのような展開がある? なにより、一人暮らしを長年続けてきた私が馴染めるだろうか? 困惑を精一杯態度で示したが、脇見運転をしないいい子ちゃんは全く気づいてくれない。
「神官用の宿舎なのですが……神官同士だったり養子だったりとの共同生活前提で、部屋が余ってるんです。セキュリティは万全ですし、都合が良いので」
「でも……そしたらずっと仕事のこと考えることになるじゃん。疲れない?」
私が心配してる様子の何が面白いのか、チェレーゼは運転しながら大笑いをした。
「ソメヤ様、本当に優しい方ですね! きっと主も、あなただから選んだのでしょう」
「あーそう! その主? 神様? って実在する感じなの? こっちの世界だと。それ気になってて」
「こっちの世界? あー……エデンの言語も完璧にはまだ遠いか」
その喋り方は素が出ているようで、今までの敬語で少し高い声よりも好ましく感じたが、代わりに疑問が増幅した。
今、彼女は何に疑問を感じたのだろうか。そもそもエデンの言語ってなんだろう。さっきバルも言っていた。魔道具はエデンの言語の影響を受けると……魔法のように、いや、魔法なのだろうが、瞬時にQWERTY配列に変わった奇跡のような光景や、読めないのに読める不思議な感覚も、エデンの言語とやらが関わってるのだろうか。
「そのエデンの言語ってのも、なに?」
「もう着きますから。常識を最初から教えるとなると時間がかかるんです、すこし待ってください」
私は少しむくれ、それからチェレーゼの横顔を見つめた。
「我に見せよ……あなたのステータスを」
「あら」
チェレーゼはパッと全身に膜のようなものを張り、私の固有魔法を跳ね返した……おそらく。目に見えているわけではないが、そう感じた。
「それがソメヤ様の天啓なのですね。固有魔法も魔法のひとつです。決して万能ではない……固有なだけです。実力者は簡単に跳ね返しますから、無闇に撃っては危険ですよ。しかも口承だなんて……なにより、いきなり魔法を打つのはマナー違反です」
マナー違反、たしかにそのとおりだ。護身用にスタンガンを手に入れたからといって、いきなり適当な人で試したら犯罪者である。魔法だって同じことだ。しかも、スタンガンなんかより、かなりタチの悪い魔法。
「ご、ごめん」
「構いませんよ、こちらの常識を教えるのは私の役目ですから。ソメヤ様、これからも……何かわからないことがあればまず私に聞き、私に試してください。そのために時間外にあなたの話を聞けるよう、一緒に住むんですから。日中は忙しくって」
彼女はなんでもないように話し続けるが、私の方は、チェレーゼにもバルにも申し訳ない気持ちが沸いて、俯いた。そんな様子を見てか、チェレーゼは、努めて軽やかな口調で言った。
「さて、つきました!」
チェレーゼは慣れた様子で歩いていく。私も後に続いた。




