固有魔法
部屋から出ると、バルがキーボードを叩きながら待っていた。研鑽を積んでいるのか、仕事しているのか、よくわからない。私に気がつくとにこやかな顔になって、キーボードをしまった。
「固有魔法はわかりました?」
「ああうん、たしか」
「ああ、いえ、口にしてはいけません。固有魔法とは秘密にするものです。あなたと神様の秘め事であり、あなただけの預言です」
「なるほど」
この世界に来て、初めて気分が良くなっていた。まあまあの速度、まあまあの正確性で初めての文章を打ち切れた上に、秘密の固有魔法──つまりはスキル──そんなの……かっこよすぎる!
せっかくなら試してみたい。さっきの神様とやらの説明は、抽象的でわかりにくかった……つまり細かい部分については、実践で知っていくしかないわけだ。
不思議なことに、神様からのメッセージは、簡単に誦じることができるほどに覚えていたし、使い方そのものも、直感的に理解ができた。ボソボソと、口の中だけで呟いてみるだけでいい……。
「我に見せよ……あなたのステータスを」
呟いた瞬間、体内がざわつく感覚と共に、脳裏に<固有魔法:リーダビリティ>という文字列が浮かんだ。かっこいいけど、少し邪魔だ。使うたびにこれが気になって、鬱陶しくてイライラしそう。そう思った瞬間、文字列は消えた。これも研鑽のうちかもしれない。
それより、効果はどうなのか……バルの背中を見つめると、本当にゲームのようなステータス画面が現れ、自在に読むことができた。
名前:ポソ・バル
年齢:59
職業:タイピングジム経営者兼コーチ、不動産オーナー
性格:信心深く真面目
能力:魔法適性者、吸収魔法を得意とする
天啓:<ハーベスター> この者が何かを吸収するとき、その吸収量は倍増する。倍率は本人の意思と研鑽によって変化する。
思わず、おぉ、と感嘆の声を漏らす。これは面白いが、意図せず人の秘密を知りそうで意地悪い魔法だ。
「どうかされました?」
「いえ……それより、次はどうしたら?」
「そうですね、次は……」
説明を聞きながら、私は天啓のことばかり考えていた。ろくに鍛えずにこれだけ見えるのかという驚き。詳細度合いについては研鑽がものを言うとあった……鍛えたらどうなるんだろう? 心の中まで覗けるのだろうか? でも……目の中の丸太にって、どういう意味?
「こちらが魔導研鑽室です」
「はえっ?」
「魔導研鑽室。魔法を好きなだけ練習できますよ。ジムが開いてればいつでもきて大丈夫です」
たしかに、何人かの会員と思わしき人が、あっちゃこっちゃでなんやらやっている。
「基本的には、呪文を覚えるか呪文書をセットして、それを正確に、魔力を込めて詠唱することで魔法は可能になります。ああ、さっきの呪文書は返してください。代わりにこれを。これは入会プレゼントです」
「どうも」
『ピグイタン式基礎魔法呪文書』と書かれたケースを受け取る。おそらくこの中に、呪文書と呼ばれた、あの小さなカセットが入っているのだろう。
「魔力素子を外部に……世界に向けるのが発散で、人間の内部に吸収する、させるのが吸収です。例えば火を起こしたり風を起こしたりするのは発散、治癒は人間に向けますから吸収です。効果と呪文を正確に覚えて詠唱すれば、呪文書なしでも魔法は打てます。この基礎呪文は全て覚えてくださいね」
「えー! 英単語とかも苦手なのに……」
「強くなりたいなら、ワード慣れして覚えきるまで打ち続けてください。当面の課題はそれですね」
ワード慣れ、と言われることで俄然やる気が出た。私は日本国憲法をそらで打てるのだから、確かにやれるはずだ。望むところだ。ところで、呪文書ごとにランキング機能はないのだろうか。そうしたら、もっとやる気が出るのだけれど。




