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天啓

「ここにおひとりで入って、この呪文書のとおりに詠唱してください。さあ、呪文書をここに入れて」


 呪文書、と呼ばれるそれは、ゲームカセットのような見た目で、借りているキーボードには3つほどカセットを入れられそうな穴があった。言われるがままにかちりとはめると、途端、キーボードの前にポップアップが表示される──『呪文書:天啓を求める祈り』をセットしました。


「部屋に入ったらEnterキーを押して、詠唱を開始してください。何を打てばいいかは自ずとわかります。ミスが多すぎるとやり直しになるので気をつけて……ですが神は寛大で、全てをご存知ですから、多少は見逃してくれます。正確性は85%ぐらいあればいいでしょうかね。速度は気にしなくて大丈夫です」

「は、はぁ。わかりました」


 これはVRタイピングゲームか? 不安になっている私の背中が軽く押される。そのまま部屋の中へ歩いていくと、後ろから扉の閉まる音が聞こえた。部屋はこの世界に来て初めてみた風景……あの召喚された部屋のように白と青が基調となっていて、それ以外の色はほぼないと言ってよかった。この国では、白と青が神聖さを表す色なのだろうか。


 改めて部屋を見渡すと、真ん中に真っ白な椅子とテーブルがあり、ここへ座れ、と言われているように見えた。誘われるように私は座る。ゲーミングチェアのように良い座り心地。まるでいつもタイピングゲームをしている自室のような……やっぱり私は椅子に座ったまま寝落ちしているんだろうか?


 青く四角い光が机に表示される。それは不思議なぐらい私が今持っているキーボードにぴったりで、こわごわとそれを置くと、呪文書をセットしたときのように映像が現れた。


──Enterを押してスタート。


 書いてある文字は相変わらず、読めないはずなのに読める。これじゃ打ちにくそうだ、と思いながらも、ホームポジションに手を置くと、精神が統一されていき、心がすうっと軽くなった。


 そうだ、ここが夢の中であれ、どんな変な言語であれ、打てるなら、私には関係ない。タイピングゲームは私の人生だ。目の前の画面以外、今は見えない……速度は関係ないと言われたけど、速く、正確に、打ち切ってやる。Enterを押して、スタートする。


──(texn)(ni)おわします(owasimasu)私たち(watasitati)(no)(kami)(yo,)

──(ware)(ni)与えた(ataeta)使命(simei)(wo)自覚(jicaku)させて(sasete)ください(kudasai.)

──我が身(wagami)(ni)宿りし(yadorisi)賜物(tamamono)(wo)(acasi)して(site)ください(kudasai)


「あかししてください!? 慣れない日本語やめてくれよ、句読点もうざったいな……」


 画面に表示されるのは知らない文字のはずなのに、なぜか日本語読みも、ふりがなも、ローマ字読みもできる。ミスに気を取られたが、次のワードに集中を戻す。祈りの言葉に慣れてはいないが、知らないワードを打つのには慣れている。


 タイピング歴17年を甘く見るなよ。神様だか夢だかなんだか知らないが……打ち切る。85%なんて甘いことを言わず、もっと正確に!



──(ca)(ku)(a)(re)(ca)(si.)



 打ち切った瞬間、心臓が強く強く鳴り響いていたことを自覚した。頭に血が回って、目の前がチカチカする。そしてリザルトが画面に表示されると共に、天啓にまつわる情報が頭に流れ込んできた。正確性は98%。速度はS2。S2がどの程度の速さなのかはよくわからない。


 普段なら最も気になるのはスコアだ。なのに、今はそれよりも、どういう仕組みだか脳みそを掻き回す、私の賜物について意識が向いていた。


「これが私の天啓……」


<固有魔法:リーダビリティ>

──あなたの秤はこの世界で最も正確である。あなたはからし種にも満たない人の目のおがくずに気がつく。しかし自身の目の中の丸太に気をつけるように。


<使用方法>

──あなたは他人のステータスを正確に体感できる。あなたが意識を向ければ、そこにあるものは全て正確に読み取れる。そしてあなたは相手の"リーダビリティ"を高めることもできる。しかし、その詳細度合いについてはあなたの研鑽がものを言う。あなたは人の鏡となり、本来の姿を映し出す。ただこう言えば良い……「我に見せよ」、と。

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