はじめてのまほう
そこは、小さな会議室のような部屋であった。隅にあったパイプ椅子を開いて、大きなホワイトボードを運び、二人で簡易的に設営をする。バルはホワイトボードに、使い古された大きなポスターを貼った。「はじめてのまほう」とタイトルがついているのがわかる。おそらくは子ども向けなのだろう。
「魔法には4つの分類があります。原初魔法、発散魔法、吸収魔法、固有魔法、です」
「えっと……?」
「原初魔法は人間なら誰でも使える魔法です。発散魔法と吸収魔法は、魔法適性者のみ使えます。固有魔法はその人にのみ与えられた天啓です」
あんまりわからないが、とりあえず頷いておく。
「これから確かめるのはあなたがどのような天啓をいただいているかです。ところで、魔道具としてのキーボードは持ってます?」
「い、いえ。持っていません」
「ではお貸ししましょう。貸出用は物理タイプしかなくてですね……重いかもしれませんが」
そういうと、バルはさっきの変なキーボードを顕現させ、何やら打ち込んだ。すると、私にも見覚えがある、あのキーボードが、こちらまでスッと飛んできた。
飛んできたそれは、パンタグラフの薄っぺらいやつ……に、見える。異世界なので、違う技術かもしれないが。あのレーザーのようなものが非物理タイプなら、この物理タイプの方が幾分打ちやすそうで、私は安堵した。が、キーボードを見て愕然とした。
これは困った……私の知ってる配列じゃない!
「さぁ。こちらをお貸しします」
「こ、これ、打てるかわからない……普段使ってる配列と違くて……あ、ああ、そもそもほら、私ってピグイタン出身じゃないものですから」
焦った取り繕う背中に冷や汗が伝う。そもそも、言葉が違う。何が書いてあるんだ? チェレーゼの文字や、ポスターの文字は読めたのに。
「大丈夫ですよ。手を重ねてみて」
おそるおそる、ホームポジションと思われる場所に手を重ねると、それはゲーミングキーボードのようにキラキラと光って、ずしりと重みを感じるようになった。浮いているのに! その感覚に驚きつつ、改めてキーボードを見つめて、さらに驚いた。
これは……QWERTYだ! 私の愛しいQWERTY配列!
しかも平仮名まで書いてある。かな入力にも対応できるらしい。
「それは魔道具ですからね。エデンの言語の影響を受けます。あなたの国の言葉、あなたの打ち慣れた配列になるはずです。貸出用ですから、あとで魔道具屋さんで好きなのを買ってください。うちでも売ってますけどね」
「け、結構、重い」
「うーん、机に置きますか? 浮かせられる方が楽ですが……まずは鍛えないといけないようですな」
「よ、よくわかんないけど、それでお願いします!」
バルは楽しそうに笑った。私は脳内のチェレーゼに聞きたいことメモが爆発しそうで、全くそれどころではなかったので、一度物理的にメモを取らせてもらった。勉強熱心はいいことだと、バルはまた笑った。
……熱心というか、なんというか。予想外に褒められると、人はむず痒くなるものらしい。その上、日本語を書いてたら異世界人だとバレるのでは……と、不安でコソコソ書いたものだから、ほとんど殴り書きになってしまった。




