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タイピングジム


 まずはここに、と案内されたタイピングジムは、まるで学校のパソコン室のようだった。


 ずらりと並んだパソコンとキーボード。みんなタイピングゲームをして、一心不乱に記録更新を目指している。こっそり動画サイトを見たり他のゲームをしたりする不埒な者はいない。誰かが「よっしゃあ!」と声をあげると、打ち終わったものから順番におめでとうと声をかけに行く。そんな、真面目で暖かい空間である。これ、地球にも欲しい。


「ここではタイピングの速度を高める練習のほか、魔法の学習や、練習試合なんかもできます。ソメヤ様にはまず魔法に慣れていただかなくてはいけません」

「染谷ってさ、そのまま呼んでいいの? 素性がバレない?」

「偶然ですが、ソメヤはあまり珍しい名前ではありません。ただし、ファーストネームです。ここでのあなたの名前は、ソメヤ・イストゥールです。イストゥールは、そうですね……地球でいうところの高橋ぐらいの感じ……らしいです」

「な、なるほど」


 私たちは受付に並び、チェレーゼの紹介状でジムの新規登録を済ませた。私が打鍵音を聞きながらうっとりしている間、チェレーゼは私について説明をし、オーナーを呼ぶように頼んだ。


「魔法指南入門コース、オーナー指名ですね。少々お待ちください」

「入会金とかないの?」

「予算で支払い済みです」

「ありがたや……いや、無理やり来させられてるから有難くはないか……」


 ぶつくさ言いながらオーナーを待つ。すると、数分も経たないうちに、どたどたとした足音が床を揺らし、チェレーゼと受付嬢がほぼ同時に、来た、と呟いた。


「私の引率はここまでです。バルさん、よろしくお願いします。終わる頃に迎えを寄越しますので」

「チェレーゼ神官様肝入りの新人となると、腕がなりますなあ! ひとまず天啓と基礎呪文書を授けることにしましょう」

「信頼しています」


 二人はにこやかに別れ、私はバルと呼ばれたオーナーの方へ向いた。恰幅が良く、いかにも経営者然とした大男だ。そして、声がデカい。


「こう見えて五つ星なんですよ、私は! 今はクエストを受ける年でもなくなりましたから、こうしてコーチやら経営やらしてますけどね。魔法適性者の生徒は久しぶりです、どうぞこちらへ」

「魔法適性者? 魔法を使えない人もいるんですか?」

「そうですよ、もしや全員適性者の彼の国からやってきた方ですか? ううん、でもそれなら初心者コースを受けるわけがないか。緩衝地帯出身とか……いや、出過ぎた発言を。ご放念ください」

「い、いえ。お気になさらず」


 異世界から来たとバレたのかと思い、心臓がバクバクと跳ねた。夢にしては嫌に長い。明晰夢というのはこれほど長く感じるものなのか。もっと『インセプション』観ればよかった! あと5回ぐらい。それが何の役に立つのか、立たないのかもわからないけれど。


 不用意な質問をするのはチェレーゼ相手だけにしよう、と思いつつ、何が不用意なのかもわからない。ええい、なるようになる、異世界から来るのを隠せってことはそうたくさんいる訳ないってことだ、多分。珍しいから隠さなきゃいけないんだろう、多分。それなら少しヘマしたって、まさか異世界者だとは思うまい……多分。きっと。


 私の心配をよそに、短い廊下はすぐに渡り終えてしまう。立ち止まったバルは、空を撫でるように手を動かし、キーボードらしきものを顕現させた。


 キーボードがふわふわと浮いている……。実態があるというより、SFに出そうな、光だけで描かれたキーボードだ。打ちにくそうだ……。


 しかしバルは慣れたように、打鍵音も鳴らないキーボードを叩く。いや、触れる? 正しい言い方がわからないが、とにかく、何かを打ち込む。重そうな扉がぎいと開いて、中に入るよう促された。

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